書評
2020年10月号掲載
『この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版』刊行記念
住野よるからTHE BACK HORNへの公開質問状
住野よるが学生時代から敬愛するTHE BACK HORNとのコラボ作となった『この気持ちもいつか忘れる』。9月16日に刊行された先行限定版には、CDが付属していることでも話題を呼んでいる。
本作は住野とTHE BACK HORNが創作の過程を共有し、双方に影響を与え合いながら小説と楽曲が完成した。
小説タイトルと同名のE.Pには、物語と密接に繋がった5曲が収録されている。
3年間に亘る制作の裏側では、THE BACK HORNと頻繁に打合せを重ねた住野だが、メンバーにこれまで聞いてみたかったことがあるという。
この機会に、それぞれへの質問に答えてもらった。
対象書籍名:『この気持ちもいつか忘れる』
対象著者:住野よる
対象書籍ISBN:978-4-10-102352-6
【住野よるから山田将司さん(Vo)へ質問】
今回のお話のテーマの一つに好きなものとの関係性がありますが、山田さんはTHE BACK HORNリスナーとの関係性をどのように捉えていらっしゃいますか。
リスナーという存在は「同じ時代を共に生きる仲間」だと思っています。「生きる」という何気ない行為でさえ、し続けるのが難しくなってきている現代において、お互いを強く想い合い、信じ合う事で生まれる強いエネルギーが「今」を生き抜いていくチカラになると思っています。そしてそのチカラが瞬間だけで消えてしまわないよう、精一杯の心と精一杯の体で、しっかりと向き合った表現は、時を超えてリスナーに何かを残す事ができると信じています。
形だけに囚われることの無いよう、目に見えない「歌」という行為が持つ果てしない可能性を信じています。リスナーの存在はとても大きな支えになっています。
(山田将司)
【住野よるから岡峰光舟さん(Ba)へ質問】
ライブで拝見する岡峰さんの演奏中の佇まいがとても印象的です。ライブ中どんなことを考えて演奏されているのでしょうか。
ライブ中は何も考えていない! って言いたいんですけど、自分は真逆で色んなことを考えてしまいます。基本的には演奏のタッチやニュアンスとか、曲によってはその曲ができた時の雰囲気や風景が頭をよぎったり、何故かその曲とは全く関係のない、ホントになんでその情景が浮かぶんだろう、ってこともあります。
例えば「美しい名前」のイントロを弾いてる時。地元の電車の高架下にある薄暗い公園のブランコが揺れている、何故かそのシーンがよぎります。そんなに遊んだ記憶も、想い出もあるわけじゃないのに。「舞姫」は黒澤明監督の映画「乱」前半のハイライト、城が炎上して落城するシーンが脳裏に浮かびます。これは曲のイメージと映画が自分の中で完全に合致した結果でしょうか(笑)。
やはり頭の中は色んなことがグルグルしてますね。結果考えている、というよりは色んな情景が音やその会場の雰囲気でフラッシュバックしてる感じなのでしょうか。
(岡峰光舟)
【住野よるから菅波栄純さん(Gu)へ質問】
今回の5曲にも繋がるTHE BACK HORNらしさみたいなものが、菅波さんの意図の中にあるのでしょうか。
THE BACK HORNの音楽はドラマチックな部類に入ると思うんですが、それはどの曲も基本、「進行形の感情」を書いてるからだと思います。
「今すぐに走り出したくなるような昂ぶり」とか「心が動いてるその瞬間」とか、そういう衝動的な「現在」感が自分たちらしい世界観だな、と思います。一方で輪廻転生めいた考えが出てきたり、偽悪的に世の中を呪ったり、その時々の旬のモードが作品に影響を与えるので、かけ算してるうちに一筋縄ではいかない音楽性になっていってしまうわけですが。
今回の5曲も基本的には「進行形の感情」が描かれつつも、住野よるという世界とのかけ算によって新たなロックが生み出せたことを心から嬉しく思っております。
(菅波栄純)
【住野よるから松田晋二さん(Dr)へ質問】
松田さんの書かれる歌詞はとても叙情的なイメージです。歌詞を書かれる際、アイディアを出すためにされていることなどがあれば伺いたいです。
曲が先で後から歌詞を乗せる時は、その曲が持っている温度や世界観を感じ取ってから、言葉を探し構築するようにしています。
昔から叙情的な歌詞が好きで、日々メモしている言い回しや比喩などを使う時もありますが、一からアイディアを考える時は公園や街に出ます。外に出ると「自分もこの世界の中に居る」と実感できて、歌詞の物語性と伝えたいメッセージのバランスが上手くとれる気がして、作詞中は夜な夜な公園や街に出かけてます。
(松田晋二)
【THE BACK HORN】
1998年結成。"KYO-MEI"という言葉をテーマに、聞く人の心をふるわせる音楽を届けていくというバンドの意思を掲げている。2001年シングル「サニー」をメジャーリリース。FUJI ROCK FESTIVALやROCK IN JAPAN FESTIVAL等でのメインステージ出演をはじめ、近年のロックフェスティバルでは欠かせないライブバンドとしての地位を確立。そして海外のロックフェスティバルへの参加を皮切りに10数カ国で作品をリリースし海外にも進出。そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観から映像作品やクリエイターとのコラボレーションも多数。2018年には結成20周年を迎え、その勢いを止めることなく精力的に活動中。