書評

2020年10月号掲載

『ご成長ありがとうございます 三本家ダイアリー』刊行記念

“元気”と“おもろい”いただきました!

書評&描き下ろしコミックエッセイ

八木泉

対象書籍名:『ご成長ありがとうございます 三本家ダイアリー
対象著者:三本阪奈
対象書籍ISBN:978-4-10-603066-6

img_202010_21_1.jpg

 世の中に、コミックエッセイというジャンルの書籍はたくさんあります。しかしこのコミックは、エッセイという概念を飛び越えて、まさに5人の漫才! 普通の家族の何気ない日常が、著者であるオカンのツッコミセンスの良さによって、オトンと3人の子どもたちのボケが冴えわたる、おもろい作品に仕上がっています。
 関西で暮らす三本(みもと)家は、5人家族。変わり者の長女・ケイちゃんは、登校中に先生にバレないよう茂みに隠れてトーストを食べるし、マイペースな次女・フミちゃんの「ごっこ遊び」は独特だし、ヘタレの長男・末っ子のユキくんのカッコつけはかわいいし、オトンが旅行のたびにパンツを忘れるのは定番だし......。そんな風に自由奔放な家族のボケに対して、オカンがツッコミを入れていく、というのが三本家の日常。これすなわち5人漫才が、ちゃんと成立しているわけです。
 笑いにとって大事なことのひとつが「間合い」。作り手が、狙い通りに間合いを提供できるテレビのお笑い番組などとは異なり、マンガはページをめくる読者に「間」がゆだねられています。だからマンガで笑いの「間」を表現するのはなかなか難しいんですが、家族のボケに対する、オカンのツッコミのタイミングや言葉のチョイスが絶妙であり、テンポ良く読めるので、紙の本で読んだ時も笑いにズレが生まれず、おもろいんです。
 元々SNSでご家族の笑えるネタを投稿していたことから人気に火がついた本作。正方形の画像で投稿するインスタグラムとB4サイズの原稿用紙で描くマンガとでは、表現方法が異なるにもかかわらず、笑いの濃度が変わらないのは、ひとえに著者のセンスの非凡さによるものでしょう。
 そしておもろいだけじゃありません。単行本は、過去について語った描きおろしが3編収録されていますが、これがまた良い! 子どもたちの成長にホロリとし、ご夫婦のなれそめにほっこりしました。特に印象に残っているのが「ダンナのこと」というエピソード。昔からお互いの時間やペースを大切にされてきた様子が伝わり、こんなご夫婦だからこそ、子どもたちも自然体でマイペースにのびのび成長してきたんだろうな、と納得でした。
 子育てエッセイというより、笑いのセンス溢れるご夫婦と、元気で、かわいくて、おもろく育っている子どもたちによる「関西のおもしろ家族」を楽しめるのが、最大の読みどころ。三本家が「ご成長」していく日々に笑わせていただきつつ、マンガとしても「ご成長」し続けてほしいです。
 よく関西人はボケとツッコミを普段から日常的に使っているといいますが、そんな関西あるあるを更におもろくしたのが『ご成長ありがとうございます』なんです。いや、タイトルもうまいこと、もじってますやんか! おみそれしました!

 (やぎ・いずみ MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店コミック担当)


img_202010_21_2.jpg

最新の書評

ページの先頭へ