インタビュー

2020年11月号掲載

『この気持ちもいつか忘れる』刊行記念

住野よる「恋」を語る

住野よる

本作は、THE BACK HORNとのジャンルを超えたコラボレーションが話題を呼んでいる。キーワードの一つ「恋心」を巡るインタビュー。

対象書籍名:『この気持ちもいつか忘れる』
対象著者:住野よる
対象書籍ISBN:978-4-10-102352-6

――本作は初めての恋愛長篇と謳っているので、『君の膵臓をたべたい』(以下『膵臓』)を思い浮かべて、「あれ?」と疑問を持った方も多いようですね。

 まさにそんな風に引っかかってほしくて「恋愛」と打ち出してもらったところがあります。読者の方にはどう受け取っていただいてもいいのですが、『膵臓』は恋愛小説として書いたつもりはないのに、そう思われることが多かったんですよね。恋愛を自分が描くのなら、もっとちゃんとやるのに、という気持ちがあって(笑)。ずっとそう感じていたのと、せっかくTHE BACK HORNと一緒に作品を作らせていただくチャンスなんだから、自分にとって初めて挑戦するものを捧げたいと思っていて。だったらこのタイミングで恋愛長篇を書こうと決めました。

――住野さんにとって恋愛を恋愛たらしめるもの、他の関係性との違いはどんなものなのでしょう。恋愛物って、どう定義されていますか。

 難しいですが、恋心を持った方がそれを恋心と気づくかどうかですかね......。主人公のカヤが自分の中に芽生えた気持ちの正体に悩む場面があるのですが、あそここそが恋愛小説らしいところなのかもしれません。好きだと認める瞬間と、後から「あの時好きになった」と気づく瞬間が、僕は恋愛小説の醍醐味だと思うんです。
 あと、ずっと思っていることなのですが、恋愛とか友情って心に浮かんだ瞬間だけが本物な気がして。例えば恋人がいて、「この先も一緒にいたい」と思うことは恋愛だけど、それを相手に伝えるのは恋愛ではないと感じます。

――面白い捉え方ですね。そういった瞬間もすぐに過去のものになっていくわけですが、本作では時間の経過による変化も大きなテーマになっていますよね。

 そうですね。自分の中に、忘れることも含めて変わっていくことを否定したくないという気持ちがあるんですよね。デビューから時間が経ちましたし、僕はもう打ち合わせに呼ばれた時の喜びも、初めて出版社に行った時の緊張も思い出せない。でも、ずっと素人気分でいることが美しいわけでもないはず。純粋であることだけが美しいとは限らないし、それを書きたいと思っています。
 これはTHE BACK HORNと仕事をする中で強固になってきた考えでもあります。途中までは、仕事でご一緒していても、逆にただのファンでいなきゃと思っていたのですが、それでは責任を放棄しているようにも感じ始めて。ただのファンであるのを止めて責任を自覚することが醜いわけではないよなと。変化することとしないこと、どちらが善で悪とは決めつけられない。自分が変わっていく過程があったからこそ、そんな話を書きたかったのかもしれません。

――変化を肯定的に描いた作品になっているのは、住野さんの心境の変化が出ているんですね。

 かなり出ていると思います。だって人生でどんなに幸福な瞬間が訪れても、そこで留まっているわけにはいかないし、毎日は続いていくわけで。人生にハイライトなんてありません。自分の作家人生でも『膵臓』が全盛期じゃないと思ってますし。今回、ずっと大好きだったバンドの皆さんと仕事をさせていただいたからといって、この記憶の飴玉を舐めて生きるわけにはいかない。それはTHE BACK HORNにも失礼ですよね。数年後、お会いした時に「今の方がすごいもの書けますよ」と言えるようでありたい。だから、今はどうやったら長くこの仕事を続けていけるか考えています。全てはTHE BACK HORNに向けた意思表示なのかもしれませんね。僕も、十年も二十年もきっと書き続けます、という。

――お話を伺っていると、THE BACK HORNへのお気持ちに恋愛的なものを感じるのですが......。

 完全に恋心です(笑)。作中でカヤがチカへの想いを語るモノローグは、ほぼ僕からTHE BACK HORNに向けた気持ちですし。今回の企画のおかげで彼らが仕事をする様子を間近で見られたのですが、それで学んだ一番大きなことは、次の世代からの提案に向き合う姿勢だと思います。この先、僕も長く仕事を続けて、全然違うジャンルの若い人から同じような依頼を受けたとしたら、今回そうしていただいたように全力でエネルギーを注げないとだめだなと。だから今は、そんな自分であれるようにというのが目標なんです。

 聞き手/編集部

 (すみの・よる 作家)

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