書評・エッセイ

2020年11月号掲載

RPG冒険家としての生き方

春間豪太郎『草原の国キルギスで勇者になった男』

春間豪太郎

対象書籍名:『草原の国キルギスで勇者になった男』
対象著者:春間豪太郎
対象書籍ISBN:978-4-10-353611-6

 冒険家。それは現代においては絶滅危惧種だ。
 好奇心の赴くままにあるかどうかも分からない新天地を目指すというのは、客観的にみると合理性に欠ける行動なのかもしれない。しかし、たとえそれがどれだけ非合理的であっても、冒険家という奴は実際のところ決して絶滅せず、どの時代にも存在し続けるだろう。多様性を担っているのか単なるバグなのかは分からないが、地理的な未踏地が殆ど無くなってしまったこの時代にも、自分のように損得や理屈を度外視してとにかく「挑むこと」が好きな、冒険家としての素質を心に宿した人間が一定数は生まれているからだ。本書の序章でも触れているが、おれは物心つく前の幼児期から冒険を求めていたようだし、RPGのような冒険にのめり込んだ一番のきっかけは大学時代に行方不明の友人を探しに海外へ行ったことだったが、その話をした時の周りの反応を見る限り、どうやら多くの人はそれだけでは冒険家となったりしないらしい。となれば、過去の経験という要因に加え、心の底に強い冒険家性をおれが持っていて、挑戦、その中でも特に危険が多く先人の前例もないような「冒険」を求めていると考えるのが自然である。
 キルギスでの馬や犬、羊たちとの冒険は、突き詰めるとそういった自身の本能に従って行われたのかもしれないが、しかしその結末は他の冒険とは全く異なるもので、キルギスはおれにとって特別な国となった。2020年3月、北アフリカのチュニジアでの1311kmに及ぶラクダとの砂漠横断を果たしたおれが、未曽有のコロナ禍をやり過ごすべく滞在先として選んだのは、日本ではなくキルギスだった。キルギスへの渡航はそれで3回目だ。これまで様々な国で冒険をしたが、冒険後に再度訪れた国は今のところキルギス以外には無い。おれはこの国の自然がとても好きで、動物が好きで、人々が好きだ。新刊ではメインとなる動物たちとの冒険譚以外にも、そういったキルギスの自然や文化の良さを可能な限り伝えられるよう書いたつもりだ。また、購入者特典として美しい湖や村などのドローンによる4K動画を付けており、さらにWeb上の「考える人」でもカラー写真を多数掲載していて共に帯の袖にあるQRコードからアクセスできるので、より鮮明なイメージと共にキルギスを堪能できるようになっている。
 今後もキルギスへは度々行こうと考えているが、コロナによる国際情勢悪化に加え、次なる挑戦に向けて多額の資金が必要なため、しばらくは行けそうにない。次なる挑戦、というのは簡単に言えば「冒険に役立つロボットを自力で作れるようなメカニックになる」というものだ。「冒険中にデータを定量的に分析できる奴を仲間にできれば、より難しくより自由な冒険が可能だろう」と考えた。当然ながらこれは非常に難しく手ごわいテーマなので、最近は毎晩、来たるべき困難に胸を躍らせながら材料力学や製図の入門書を読んで楽しく過ごしている。周りの草から幾らでもエネルギーを取り出せる逞しい草食動物と、様々なデータを統計的に処理し報告できるロボットやデバイス、そしてそれらを総合的に判断し方針を決めるおれが三位一体となり冒険をすれば、新しい景色が見えてくるに違いない。
 もちろん、独学だけで高度なロボット造りスキルを習得するのは非現実的なので、実用的な機械工学を学ぶ為に大学へ行くことにした。毎日16~17時間の受験勉強が功を奏したのか単なる幸運かは分からないが、先日、筑波大学の工学システム学類における3教科4科目の編入試験に合格した。来年4月からおれは大学生である。卒業後は大学院へ進学し、その後はロボット開発の研究者としての視点も交えつつ、更に高難度の冒険へとアプローチするつもりだ。良い環境で真剣に学び探究し続ければ、相棒となるようなロボットやデバイスは必ず作れるようになるだろう。また、2019年にはインコやカニと共にヨットで5240km航海して日本一周したが、その際により安全に航行する為に気象予報士の資格を取ったので、気象学とロボティクス分野を融合して更に習得済みのプログラミングスキルを活用すれば、自律飛行できる気球、あるいは小さなロケットだって作れるかもしれない。可能性は無限大だ。
 おれと最も親しいキルギス人であるアイダールは現在工業機械等の整備をするエンジニアとして首都ビシュケクで働いており、金属加工も得意らしい。キルギスは中国の製品や機械等を多く取り入れている影響で日本と比べてロボットの導入や走行に関して非常に寛容らしいので、いつの日か、かつて馬のセキルとのギリギリの冒険の最中に出会ったあのアイダールと協力し、今度はロボットを作ってキルギスで新たな冒険を始めることになるかもしれない。
 この新刊は、動物冒険譚であると同時に、幼い頃の不出来なおれの体験談に加えキルギスの人々との生のやり取りや距離感、苦労等、内面的な冒険も追体験できる書である。これを読んでくださった貴方の心の奥底にもしも冒険家魂が眠っているのなら、読了後には挑戦や冒険の世界にどっぷりと浸かって抜け出せなくなり、それまでとは全く違う人生を歩むことになってしまうかもしれない。

 (はるま・ごうたろう 冒険家)

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