書評
2021年2月号掲載
コロナは社会の誤解を増やしている
竹内一郎『あなたはなぜ誤解されるのか 「私」を演出する技術』
対象書籍名:『あなたはなぜ誤解されるのか 「私」を演出する技術』
対象著者:竹内一郎
対象書籍ISBN:978-4-10-610891-4
コロナ禍はコミュニケーションに新たな問題を提起した。人々は日常的にマスクを付ける。相手の表情がわからないと、コミュニケーションがしづらいということを人が知ったのである。
これまで口の中でもごもご喋る人と話すとき、私たちは口元の動きを凝視して、何を言おうとしているか推察していた。口元が見えないと「何を言っているかわからない」人さえいる。マスクのお陰で「もう一度仰っていただけませんか」という機会も増えた。一方で、自分がもごもご喋っていることに気付いた人は、はっきり喋る工夫をしているようだ。
マスクのお陰で、顔の中で感情を伝えられる部位は、眉毛と目の二つになった。勘の良い人は、眉と目を少しオーバーに動かして、感情を伝える工夫をしている。堺雅人(俳優)の良く動く眉は「時代の象徴」にも見える。
言葉は伝達の核心的道具である。しかし、声、抑揚、表情といった非言語情報とセットにして使わないと、意味が正反対に伝わることもある。そして、世の中に多くの誤解を生んでいるのが、言語情報と非言語情報との乖離である。
人の話を聞いた後に、笑いながら抑揚のある明るい声で「もっともな話でした」と反応する人と、表情も抑揚もなく暗い声で、同じことを言う人がいると、後者の場合、本人の意思とは裏腹に「私は不快でした」と伝わることもある。
スマホばかりを見て、表情筋(特に眼輪筋)をあまり使わない人が増えたので、若い人の間に誤解が増えている。表情の変わらない若者に「怒ってるのかなあ」と感じる中年も多いはず。コロナ禍でこの問題にいち早く気付き、対策を講じている人こそ非言語情報を上手に使っている。
さて、わが国の総理の非言語コミュニケーション力である。言語に関しては、私が指摘するまでもなく、官僚が書いた紙を力なく平板に読むだけで、そこには個性もメッセージ性もない。
次に表情がまったくといってよいほどない。私は、生き方は顔に現れるという持論を持っている。菅総理は小此木彦三郎という個性の強い政治家(大臣を二度経験)の秘書だった。表情を隠して、政治家の陰の仕事をする専門家として生きてきたので、彼の顔にはいつしか表情がなくなっていった。人の温かみが感じられない。
就任当時はイチゴ農家の倅に生まれたことをアピールし、「愛されキャラ」を目指したが、彼の顔はその後の生き方をより強く反映している。
新潮新書の新刊『あなたはなぜ誤解されるのか 「私」を演出する技術』には、「正論は印象に勝てない」というコピーを付した。
総理には温かみに欠けるという悪印象を挽回する秘策があるのだろうか。