書評・エッセイ

2021年3月号掲載

まるでマンガのような“純”な人生

小島一志『純情 梶原一騎正伝

今田耕司

対象書籍名:『純情 梶原一騎正伝
対象著者:小島一志
対象書籍ISBN:978-4-10-301455-3

 小島一志さんが『純情 梶原一騎正伝』で明らかにした梶原一騎さんの姿は、とても意外なものでした。いや、意外というより、梶原作品のファンとしては、うれしかったと言ったほうが正確ですね。梶原さんは、昭和58年に暴行などの容疑で逮捕されましたが、やはりファンとしてはショックでしたし、がっかりしました。梶原さんと言えば、ファッションが強烈で、それが世間に暴力的な印象を与え、いかにも裏社会とのつながりがありそうにも見えました。でもこの本を読んでみると、それは違った。
 純粋な人だった。うれしかったですね。
 僕が最初に梶原作品に夢中になったのは、『あしたのジョー』の再放送です。僕は小学生のときからブルース・リーが大好きで、それからプロレスもよく見ていました。極真空手の映画『地上最強のカラテ』も見に行きましたね。猪木vsアリ、ウィリー・ウイリアムスの熊殺し、猪木vsウィリー......。梶原作品では、『空手バカ一代』にハマり、『プロレススーパースター列伝』が大好きでした。それらの作品からは、梶原さんの「格闘技が好き!」という気持ちがよく伝わってきます。
 本書『純情』でも、梶原さんが強い男を探し求めて、力道山に出会い、大山倍達にめぐり会う様子が描かれています。その姿は、まるで目を輝かせた少年のようです。強いと思っていたキックボクサーが実はそうではなかったと知ってショックを受けたりして、それはぼくたち一般の格闘技ファンと変わりません。
 ぼくも格闘技が好きでジムに通っていますが、最初に行ったのは32~33歳のときでした。パンクラスというプロレスの道場の一般会員となりました。当時パンクラスが好きだったので、見学に行って、そのまま入ったんです。
 パンクラス旗揚げのすぐ後、アメリカでアルティメット大会という、ほぼケンカのような大会が始まりました。たいへんな衝撃でした。優勝したのは、体の小さな柔術家のホイス・グレイシー。一方で、体重290キロのエマニエル・ヤーブローがあっさりと負けちゃったりする。で、そのホイスが「兄貴はオレの10倍強いんだ」と言って、「兄貴? 誰?」と驚かせて、ヒクソン・グレイシーが登場してきた。ヒクソンは400戦無敗(!)だと言います。そしてプロレスラーの安生洋二がヒクソンの道場に殴り込みをかけて、やられちゃう。でもついには桜庭和志がホイス・グレイシーを破り......と、ほとんど梶原一騎さんが書いていた世界そのもののようでした。マンガ的世界が現実に現われたのです。そのとき梶原さんはもう亡くなっていましたが、あれを見たら、彼はどこをどう切り取って、いったい何を書いたのでしょうね。
 梶原さんの最後の作品『男の星座』は、自伝的作品で、そこで描かれている主人公は、不器用で、一途で、すぐにカッとなってしまったりします(内容には脚色があるのかもしれませんが)。『純情』で明らかにされている梶原さんの素顔と、その点ではよく似ているように思えます。
『純情』は、300頁近い大作ノンフィクションで、驚きに満ち溢れた作品です。終盤では、梶原さんが逮捕されたときに、実はかつての奥さんをかばっていたのだ、という衝撃的な事実が明らかにされます。さらに梶原さんは、まわりの大反対を押し切って、一度は別れた奥さんと再婚します。何を言われようと惚れた女をかばい通す、このストーリーは、まるで梶原さんの作品のようです。『愛と誠』を思わせる、ちょっとクサイくらいの梶原節ですが、彼は実際にそんな人生を生きた男だったんですね。
 ちなみに僕は、十数年前から、放送作家の鈴木おさむさんと舞台をやっています。4月からその第7弾(「てれびのおばけ」下北沢・本多劇場)に挑戦します。セリフも覚えないといけないし、憂鬱なんですが(笑)、舞台は、テレビやコメディの仕事とは違います。テレビの今田耕司のままではダメなんです。自分の内側の"何か"が表出しないと、見ている人に伝わるものがない。それは梶原さんの作品にも通じるものがあるのかなと感じます。少年のように強い男に憧れて、純粋で、不器用で、惚れた女には一途。だからこそ、あれほどの名作の数々が書けたのではないでしょうか。彼の内なる「純情」が作品に立ち現れていたのだと、そう思うのです。

 (いまだ・こうじ お笑い芸人)

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