インタビュー

2021年10月号掲載

『おんなのじかん』刊行記念メールインタビュー

「女のリミット」を超えてゆけ。

吉川トリコ

「おしゃべりな文体」と称された著者の文章は、軽やかに、だけどいつも誰より真摯に語りかけてくれる。またその声を聞きたくて。

対象書籍名:『おんなのじかん』
対象著者:吉川トリコ
対象書籍ISBN:978-4-10-472503-8

――ちょっとドキリとするタイトルですが、どんなお気持ちを込めたのでしょう?

「女は若ければ若いほどいい」という価値観がありますが、もとをただせば「女は若ければ若いほど、たくさん子どもを産めていい」ということなのでしょう。男性中心の社会の中で醸成されてきた考え方だと頭ではわかっていても、「女は〇〇歳までに〇〇すべき」「女は〇〇歳超えたら〇〇しちゃだめ」など、だれが設定したのだかもわからない「女のリミット」を幼いころから植えつけられて育ってきて、そこから完全に自由でいられる人はいるのでしょうか。そういった価値観に真っ向から「NO」をつきつけられる時代になった一方で、いまだに振りまわされて苦しんでいる人たちは男女の別なく存在します。私自身、完全にその呪いから解き放たれているかといったら自信はありません。そういうことを、白黒つけずにああでもないこうでもないとごちゃごちゃ話せる場所がほしかったんだと思います。

――不妊治療のリアルを初めて知り、想像以上の過酷さに驚きました。不妊治療中の方が目の前にいたら、どんな言葉をかけたいですか。

「なんも言えねえ……」というのが正直なところなのですが、クリニックに通っている女性たちやブログで不妊治療について書いている方々からはなにかしら切羽詰まっている印象を受けることが多かったので、だらしなく不真面目に不妊治療をしている人間もいるんだよと言いたくて自分の経験を書いてみました。効き目のさだかでない高額サプリやあやしいスピ商材には手を出すなと言いたいところですが、それがいっときでも彼らに気休めの効果をもたらしてくれるなら、やっぱり「なんも言えねえ……」となってしまいますね。ただし、その手の商材でいたずらに不妊治療中の人たちを脅したり、煽ったりするような商売をしている業者には強い怒りを感じています。

――流産体験を率直に綴った「流産あるあるすごく言いたい」は連載中も大変注目され、PEPジャーナリズム大賞のオピニオン部門も受賞しました。反響をどう受け止めましたか。

 昨年、「考える人」の年間アクセスランキングで一位になったときはほんとうに驚きました。村上春樹を抜いて一位だったので、思わずスクショを撮ってしまいましたよね。担当氏は品がいいので帯とかに使ってくれないと思うのでここに書いておきます。村上春樹にアクセス数で勝利したエッセイです!
 ……これだけだと品がなさすぎてマジで怒られそうなので真面目にコメントしておくと、流産の経験について書くことはやはり怖いことでした。正直に自分の感じたまま書いてしまったら、ひとでなしだとか薄情だとか思われるんじゃないか、なにより夫を傷つけるのではないかと不安でなりませんでしたが、それでもやっぱり書かずにいられなかったのは、流産を語る当事者の言葉がまだまだ少なく、一元的だったからです。かなしみ以外の感情がそこにあることを書いておきたかったし、知ってもらいたかった。こんなに反響があるとは思ってなかったので、率直にうれしいです。

――誰かや、何かを推す熱い気持ちと、その危うさについても書いていらっしゃいますが、今の推しと、その魅力をぜひ教えて下さい!

 推しくんはパンダです。パンダが笹を食っているだけで、パンダが滑り台を滑り落ちてくるだけで、パンダがごろごろ転がってるだけで、ギャラリーは拍手をし、カメラのシャッターを切り、「かわいいー!」「すきー!」と口々に叫びます。それと同じことを私は推しくんにしてるんだと思います。相手を人間だと思っていたらそんなこと、できるわけがありませんからね。相手をパンダだと思っているから心おきなく消費できるんだと思います。罪深いことだとわかっているけど、あまりにも推しくんがかわいすぎて、もうしばらくはやめられそうにありません。

――表現をめぐる様々な問題にも言及されていますが、最近気になったニュースはありますか。

 日々「最悪」が更新されていくようなニュースばかり舞い込んできますが、いまは「従軍慰安婦」と「強制連行」という用語を教科書から削除することになったというニュースが気がかりでなりません。過去の過ちをくりかえさないためにも、正しい歴史を若い世代に伝えていくのは、国家としてというか大人として、あたりまえの義務なのではないかと思います。

――まだまだ出口の見えない状況が続きますが、コロナが収束したら、何をしたいですか?

 韓国に短期留学に行きたいです。というか、2020年の春に行くつもりでいろいろ調べてたところだったのに……ううう……。


 (よしかわ・とりこ 作家)

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