書評・エッセイ

2021年12月号掲載

シリーズ累計100万部突破記念 オンライン読書会

大学生は「ぼくイエ2」をこう読んだ

参加者
横浜国立大学 井口愛彩  東京学芸大学 稲井美里  桜美林大学   岩瀬勝
東京学芸大学 川邊ひかり 東京学芸大学 近藤花子  東京学芸大学  高橋徹多
横浜国立大学 田中匠   横浜国立大学 田中太志  東京学芸大学  湯本実果里
大学生協事業連合 射場敏明
(新潮社)
営業部 岡田明久  プロモーション部  佐藤舞  ノンフィクション編集部 堀口晴正

対象書籍名:『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』
対象著者:ブレイディみかこ
対象書籍ISBN:978-4-10-352682-7

 2年ぶりの続編『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』の刊行を受けて、「ぼくイエ」シリーズは累計100万部を突破。ありがたいことに、版元にはいまなお連日、感想が届く。特に目に留まるようになってきたのは若い世代からの声だ。彼らがどう読んでくれたのか、直接聞いてみたい――そう願っていたところ、大学生協からお誘いをいただいた。ある日の午後、オンラインで開催された読書会の一部をお届けする。

     *

堀口 はじめまして。こうしてお話しできるのを楽しみにしていました。みなさんは「Readers’ Network」に所属しているそうですね。

川邊 はい、首都圏の大学の読書推進サークルによる連合組織です。本を通じて大学の垣根を越えて交流しています。今日はよろしくお願いします。
『ぼくイエ』と『ぼくイエ2』を読むと、ブレイディさんの息子さんである「ぼく」がぐんぐん成長していく様子がよく伝わってきました。彼の言葉に深く考えさせられることが多かったです。『2』では特に「社会を信じること」という表現や考え方が印象的でした。

堀口 猛烈な台風のなかで施設に助けを求めてきたホームレスの人に自分ならどう対応するかという話でしたよね。

川邊 はい。自分が所属する集団を信じられるというのは、いつの時代も、どの国のどの場所でも大切なことだと感じました。
 また、「ぼくイエ」シリーズを通して、今、世界で問題になっていることが身近な出来事として語られていることに驚きました。格差や差別、貧困といった社会問題を毎日の暮らしの中で語り合える「ぼく」とブレイディさんの関係が素敵です。親じゃなくても社会課題について語り合える人がいることは良いなと思うんです。

様々な視点で物事を考えること

近藤 私が今まで読んできた海外での暮らし系のエッセイって、この国のここがすごい、みたいなものが多かったんです。イギリスといえばホームズとかビッグ・ベンみたいなかっこいいイメージが強かったんですが、良さだけじゃなくてそこで今起きている問題のような部分――たとえば多様性とか多文化共生とか格差とか、言葉としては知っていることを一歩進んで考えさせてくれる、視野が広がる本でした。

田中匠 現代の「生の」イギリスの状態がリアリティをもって伝わってきました。まず驚いたのが人種の多様性。ハンガリー、ポーランド、インド、アフリカなどなど、ここまで様々な人々によってイギリスが形作られているとは思わなかったです。それが文化的にいい面をもたらすこともあるけれど、衝突も多い。フィクションではないイギリスの姿を見ることによって、日本の置かれている状態を客観的に考えることもできるようになったと思います。多様性が進んだ社会で我々がどのように異なる文化・背景を持つ人々と共生していくか、指針を与えてくれるような気がしました。

田中太 以前本屋さんでタイトルを見た時、人種の問題についての本なのかなと思ってスルーしていたんですが、今回の読書会をきっかけに読んでみて、本当に良かったです。社会問題は人種だけでなく貧困やジェンダー、政治、思想といった様々な事柄が絡み合っていることを知りました。様々な視点で物事を考えることが大切だと思いました。
 ノンフィクションの本はこれまであまり読んでこなかったので、ちょっと身構えて読み始めたんですが、エッセイのようで読みやすかったです。本は当事者でないと知りえないことを教えてくれると実感しました。

近藤 私が好きなエッセイやエッセイ漫画は心象風景とか日常のくだらない話とか、作者の好きなこととか、そういう“閉じた世界”の中の話が多いのですが、この本はそういったタイプのエッセイとはまた違う感じもして……。

高橋 たしかに、リアルな世界の話がたくさん書かれていますよね。ブレグジットだったり、ジェンダーの問題だったり。5年後とかに読んでみたらどういう感じがするだろう、読み返してみたいなと思いました。

堀口 時事的なトピックは風化しがちですが、「一生モノの課題図書」ですからぜひ(笑)。

高橋 あと、ブレイディさんの言葉遣いが印象的でした。たとえば「配偶者」っていう言葉は読み物ではあまり目にしたことがなくて。

堀口 配偶者というのは行政や法律の世界で使われる言葉ですね。「法的に婚姻関係にある男性」を意味する言葉は、パッと思いつくだけでも、夫、旦那、主人、ツレ、パートナーとかいろいろある。そのなかでこの用語を選択したというのはブレイディさんのこだわりでしょう。その人が使う言葉はその人そのものだと改めて感じさせられます。

井口 2冊とも深い洞察と考察のうえで書かれているのに、スラスラと読めて、世の中にある対立について考えることができました。特に印象に残ったのは、『ぼくイエ2』の「3 ノンバイナリーって何のこと?」です。私は子どもの機会格差に強い興味があり、その問題に将来携わりたいと考えていますが、社会にはそれ以外にもたくさんの問題があって、様々な人がそれぞれの立場で社会を良くしようとしているんだな、適材適所があるんだなと思いました。

湯本 私が印象的だったのは、息子さんが福岡で暮らすおじいちゃんに向けて書いた手紙です。「あなたがいてくれてよかった」という一言は、自分は今の齢でも書けないんじゃないかと思いました。

堀口 ブレイディさんが息子さんと一緒に帰省した時のエピソードですね。あの一言は僕もグッときた。

中学校に演劇の授業が

岡田 ちょっといいですか。私の学生時代ははるか昔ですが、『ぼくイエ』と『ぼくイエ2』を読んで日本とイギリスの教育が全然違うことに衝撃を受けました。中学校に演劇の授業があるんだ! とか、こんなに身の回りのことを社会と結びつけて考えるんだ! とか。こういうカリキュラムは、いまの日本の学校にも入っているんでしょうか?

湯本 大学ではSDGsやLGBTQについて授業で発表したりしていますが、さすがに小学校、中学校ではなかったです。私も「ぼくイエ」シリーズでは、日本と海外の教育や子育ての差を感じる場面が多かったです。教育で言えば、イギリスでは幼い頃から自発的な意見や問いかけが求められるんだとか、自分自身で企画から発表まで行うんだとか、深刻な社会問題とあえて向き合わせるんだとか、たくさん発見がありました。『ぼくイエ2』に登場した、「コンサートのプロモーターになったつもりでクライアントに会場の提案をするためのプレゼン資料をつくりなさい」という宿題も、その差を感じた場面の一つです。

堀口 イギリスではスピーチのテストがあるというのも印象的でした。5分くらいのスピーチの内容を書いて、それを話す様子を録画したテープを試験官に送るそうですね。息子さんが授業で教わっているのが「5S」というメソッド――「Situation(聞き手が想像できるようなシーンを設定して議論を始める)」「Strongest(演説の最も重要な主張を提示する)」「Story(個人の経験談を用いて自分の主張を裏付ける)」「Shut down(反論を封じ込める)」「Solution(処方箋を提案する)」の5つのSの順番でスピーチの文章を書き進めるという話でした。早い段階でこういう教育を受けている社会には、自分の意見を発表したり人の意見に耳を傾ける素地ができやすそうですね。

湯本 『ぼくイエ』の中に出てきた物語を題材にして、その内容に関係する社会問題について考えるディベートも、小中高の授業でやれるんじゃないでしょうか。
 あと、どれほど教育環境が整っていても、息子さんと友達の取り組み方が違うように、当事者の意識が本当に重要だと思ったのも気づきのひとつです。
 教員志望の人が多い東京学芸大学の学生も含めて、多くの大学生に読んでほしいと心から感じる作品でした。

川邊 読み進めていく中で、自分の周り、日本ではどうだろう? と考えるようになっていました。ノンバイナリーな教員は少ないと思う。日本ではセクシャルマイノリティについての学習に力を入れている学校も少ないのではと思います。もっと性の多様性について学校で触れても良いのではないかと感じました。

佐藤 友達や家族と政治や社会問題の話をすることはありますか?

近藤 コロナのことは家族で話したりするんですけど、女性問題とかは友達と、自分たちのコミュニティの中で話す感じです。でも、環境問題とか衆議院選挙の話はあまりしないので偏っているかもしれません。あとネット上で人の意見を見たりすることが多いです。

印象的だった登場人物は?

射場 みんな、どの人物にいちばん共感をもちましたか?

井口 私はブレイディさんに感覚が近かったです。自分が学生団体で子どもと遊ぶボランティアをやっているからかもしれません。大学1年生のときから運営メンバーなので、どうしても視点が重なりました。

田中匠 僕もブレイディさんです。

川邊 私は「ぼく」に近いかな。自分自身が母親と、学校であったこととかをよく話していたので重なりました。

田中太 僕は誰にも寄らないというか、一歩引いたところから読ませてもらった感じです。それぞれの発言に共感はしましたし、そういう考えもあるなあと思いました。

佐藤 共感ではないけれど、印象深かった登場人物はいますか? 私はアフリカから来た女の子かな。『ぼくイエ』では学校になじめなかったけれど、音楽部に入ったことがきっかけで『ぼくイエ2』では変身してみんなと打ち解けていくんですよね。彼女のお母さんも印象深い。

湯本 私は「元お隣さん」ですね。引っ越していった後に戻ってきたときの姿とか忘れられません。ちなみに最終章で彼女の話になって「親ってのはね、子どものために自分を犠牲にしたりするもんなのよ」と言ったブレイディさんに、息子さんが「母ちゃんはしないほうがいいと思う」と言うシーンがあるじゃないですか。彼の成長を感じましたし、子どものためという押しつけが子どものためになるのかということも考えさせられました。

稲井 私は『ぼくイエ2』の最後のほうに出てきた今のお隣さんと「ぼく」の会話が印象的でした。価値観の違う人と話す「ぼく」のやりかたに、自分のことに置き換えて考えさせるところがあるなあと。

井口 ダニエルが印象的でした。学年委員に選ばれなかった後に強がりを言ってみたり、親の人種差別的な発言を聞いて自分もそのまま学校で言ってしまったり。こういう子いるなと思いましたし、自分も親に影響されていたよなと思い返したりもしました。

堀口 そうそう、著者の世界と読者の世界がシンクロするんですよね。

川邊 『ぼくイエ2』の帯に「ついに完結」と書いてあって、もう続きを読めないのかと寂しい気持ちになりました。でも、この本から投げかけられたことをこれからも考え続けていけたらと思っています。なんだか、また2冊とも読み返したくなりました(笑)。

堀口 うれしいです! 今日はありがとうございました。

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