書評・エッセイ

2021年12月号掲載

平成とは、どんな時代だったのか

柴那典『平成のヒット曲』

柴那典

対象書籍名:『平成のヒット曲』
対象著者:柴那典
対象書籍ISBN:978-4-10-610929-4

 もはや、平成という時代は遠い過去になってしまった――。
 執筆を終えて最も強く感じたのは、そういう感慨だった。『平成のヒット曲』を書き始めたのは3年ほど前のこと。美空ひばり「川の流れのように」から米津玄師「Lemon」まで、平成の30年を代表する曲を1年に1曲ずつ選び、それを読み解いていくことで一つの時代精神に迫れるのではないか。思いつきとしては安易だったかもしれないが、それぞれの曲の作り手がテレビや雑誌やウェブサイトなどで語った発言を丹念に拾い集め、曲がどんなふうに人々に受け止められ、社会の変化にどう寄り添っていったかを掘り起こしていく作業は、当初思っていたよりも大変なものだった。ただ、時間はかかったが、書き終えて、ヒットソングの変遷と共に「平成とはどんな時代だったのか」という輪郭が明らかになってきた実感がある。
 本書では平成という時代を3つの期間に区切っている。
 最初の10年は「ミリオンセラーの時代」。それまでの歌謡曲にかわってJ‐POPという言葉が生まれ、CDセールスが右肩上がりで拡大していった、音楽産業の黄金期だ。月9ドラマを筆頭に、ドラマ主題歌やCMソングのタイアップがヒットの火付け役になった。カラオケのブームとCD市場の拡大によって、音楽が流行の中心になった。小室哲哉、ミスチル、安室奈美恵など数々のミリオンヒットが相次いだ。
 次の10年は「スタンダードソングの時代」。流行と共に消費されるものから、時代を超えて歌い継がれるものへと、ヒットソングのあり方は徐々に変わっていった。SMAP「世界に一つだけの花」とサザンオールスターズ「TSUNAMI」という二つの国民的ヒット曲が生まれたのが2000年代初頭だ。しかし00年代後半はインターネットの普及によって風向きは大きく変わり、音楽不況が顕在化していく。
 最後の10年は「ソーシャルの時代」。YouTubeとソーシャルメディアの登場によって、流行を巡る力学は大きく変わった。誰もが情報の発信側に立つことができるようになった。話題性が局地的に生じるようになり、参加型のヒットが生まれるようになっていった。
 しかし、現在はもはや2010年代の常識すら過去のものになりつつある。たとえばAKB48「恋するフォーチュンクッキー」(2013年)のミュージックビデオを今観ると、あんな風に群衆が“密”になってマスクをせず笑顔を見せて踊っていた風景は、ずいぶん懐かしく見えてしまう。
 コロナ禍で、音楽も、社会も、大きく変わった。だからこそ、今、平成の30年を振り返ることで見えてくるものが沢山あると思っている。


 (しば・とものり 音楽ジャーナリスト)

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