書評

2022年1月号掲載

コロナ禍の「謎」政策を解き明かす

千正康裕『官邸は今日も間違える』

千正康裕

対象書籍名:『官邸は今日も間違える』
対象著者:千正康裕
対象書籍ISBN:978-4-10-610934-8

 社会がコロナ禍に突入してから、約2年が経つが、これほど国の政策に世間の注目が集まったことはなかったのではないだろうか。
 注目を集める一方で、コロナ禍の日本政治は迷走が続いた。突然発表された全国一斉休校に、閣議決定をやり直した一律給付金、アベノマスクと揶揄された布マスクの配布……。現場に混乱を生み、国民の信頼を損なう政策も多かった。さらに、首相や政府の意図の伝わらない説明にも、国民の不満はつのった。
 首相の側近が、「布マスクを配れば、国民の不安はパッと消えますよ」とささやいて決まったと言われるアベノマスク配布。約400億円かけたが、配り終わった時には緊急事態宣言は解除された後、ほとんどの人は使っていない。余ったマスクの保管費用もかさんでいる。なぜ、こんなことがおこるのだろうか。
 僕自身、厚生労働官僚として、多くの政策をつくってきたし、2年前に官僚を辞めていなければ、コロナ対策の前線に投入されていたに違いない。誰も喜ばないことに、税金や官僚や現場の労力を使ってほしくない。
 僕は、官僚を辞めてからすぐに、霞が関の過酷な働き方を明らかにし、改善するために、『ブラック霞が関』(新潮新書)を出版した。
 この問題は様々なメディアに取り上げられ、政府関係者や国会議員からも多くの反響があり、国会も政府も改善に取り組み始めた。2021年の骨太の方針でも、国家公務員の働き方改革の方針が示された。官僚が元気に力を発揮できるようにすることは、この国の政策を本当に国民のためによいものにしていくために、必要なことだ。
 しかし、さらに必要なことがある。それは、政策決定プロセスのアップデートだ。僕が官僚として政策の世界に身を投じてから20年。官僚主導から官邸主導へと大きく変化した。よい面もあるが、ここ数年、本当に日本の政策プロセスは壊れてきたと感じている。それが、コロナ禍という先送りできない課題によって色濃く出た。はっきり言うが、官邸も各省も国会も「よかれ」と思って頑張っているが、正解が分からないのだ。
 官邸の思考回路、永田町の力学、各省官僚の混乱や疲弊、重なるミス。この20年政策をつくってきた経験と知識をフル動員して、その構造を解き明かした。霞が関や永田町への提言も書いた。
 この本は、多くの生活者やビジネスパーソンにこそ読んでほしい。永田町や霞が関は自律的には変わらないが、外圧があれば必ず変わるからだ。最終章に書いた国民の政治との向き合い方や、声をあげる方法をぜひ知ってほしい。
 誰かを悪者にしたり、批判したりするだけでは社会はよくならない。生活者や現場と政策の意思決定の距離を近づけていくために、多くの読者と一緒に考えていきたい。

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