書評・エッセイ

2022年1月号掲載

史上最強の作家ガイド本「文豪ナビ」再び!

新潮文庫編『文豪ナビ 藤沢周平』

新潮文庫編集部

対象書籍名:『文豪ナビ 藤沢周平』(新潮文庫)
対象著者:新潮文庫編集部
対象書籍ISBN:978-4-10-124700-7

 新潮文庫が九十周年を迎えた二〇〇四年のことです。当時、九十周年の特別企画として各界の著名人に「わたしの大切な文庫」を一冊選んでいただいたところ、夏目漱石、太宰治、芥川龍之介、山本周五郎といった日本の文豪たちの作品が多く選ばれていました。
 大切に読み継がれていると感じる一方、当時は中学・高校の教科書から夏目漱石や森鴎外の作品が消えたことが話題になるなど、名作を読みたいけれど難しそうと二の足を踏む読者もいるのではないかとの懸念もありました。そういう方たちのために作品をどう読んだら良いか紹介する本として誕生したのが「文豪ナビ」シリーズです。前述の四人に谷崎潤一郎と川端康成、三島由紀夫を加えた計七人の、史上最強の作家ガイドが出版されました。
 そして二〇二〇年から「文豪ナビ」シリーズが再開しました。まず五月に刊行されたのは「剣客商売」「鬼平犯科帳」「仕掛人・藤枝梅安」の三大シリーズをはじめ、読み継がれる傑作時代小説を多数生み出した池波正太郎。男の粋を体現した池波は、食や旅に関する豊かなエッセイや素晴らしい絵も遺しました。いわば人生の達人といえます。
 巻頭のグラビアでは旅を楽しむ池波の姿や、氏の手になる色鮮やかで心を奪われるイラストをふんだんに掲載しています。
 次に作品を「人情に浸る」「江戸の特別警察」「仕掛人の暗躍」「武将と忍者」「幕末の男たち」という五つのジャンルに分け、それぞれオススメの読書コースを。どこから手に取ればよいか分からないという声に的確にお答えします。他にも登場人物の名言や、作品ゆかりの場所を訪ねるなど、この一冊で池波正太郎の全てが分かります。
 続いて二〇二一年二月に刊行されたのが司馬遼太郎。岡田准一さん主演で映画化された『燃えよ剣』が大変話題になっています。
『国盗り物語』『新史 太閤記』『竜馬がゆく』『坂の上の雲』――。どれも一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。司馬は歴史のなかの人物を掘り起こし、新たな命を吹き込みました。
 多くの名作を「躍動する忍者たち」「戦国の英雄たち」「動乱の幕末」「近代国家への歩み」「日本のかたち」の五つに分け、同じくオススメ読書コースをご提案しています。
 続いて、このたび刊行された最新刊が藤沢周平です。『橋ものがたり』『たそがれ清兵衛』『密謀』、「用心棒日月抄」シリーズなど時代小説の名作を多く遺しました。とりわけ市井ものは有名でしょう。
 藤沢といえば「海坂(うなさか)藩」。氏が小説の舞台設定に好んで使った架空の小藩であり、故郷庄内をモデルにしたとされています。巻頭のグラビアでは交友のあった作家・井上ひさし氏が、代表作『蝉しぐれ』(文春文庫)を読み解き作成した海坂藩城下の絵地図を掲載しました。この地図を片手に、海坂藩ものを読むと、まるで自分が海坂藩で暮らしているかのような一層の味わいがあるはずです。
 作品は「市井の哀歓」「海坂藩」「武士の矜持」「捕物帖」「義に生きる」の五つに分けました。オススメの読書コースも、もちろんご用意しました。
 藤沢作品はとりわけ映像化が多く、「文豪ナビ」では出演された方々が撮影での秘話を明かします。「三屋清左衛門残日録」の北大路欣也、「たそがれ清兵衛」の田中泯、「武士の一分」の檀れい、「小川の辺(ほとり)」の東山紀之、「蝉しぐれ」の十代目松本幸四郎ほかの各氏。
 例えば世界的に有名なダンサー・田中泯氏は現在、役者としても活躍中ですが、実は「たそがれ清兵衛」が俳優デビュー作でした。山田洋次監督は田中氏に演じることを禁じ、相手役の真田広之氏を「本気で斬ってくれ」と要求します。作中の氏の鬼気迫る演技には誰しもが心を奪われますが、ご本人の回想は「真田さんに本当に殺されると思って毎日怖かった」。映像と文章の違いなど新たな視点で藤沢作品をご紹介します。
 藤沢の生涯を追う「評伝 藤沢周平」はノンフィクション作家の後藤正治氏が執筆しました。藤沢作品の大ファンを公言するベテランによる濃密な評伝は必読です。
 ちなみに「文豪ナビ」の整理番号はゼロ。書店の文庫本の棚で、著者別の最初に並べられますので、文豪への「玄関口」にもなります。是非、お気軽に。


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