対談・鼎談

2022年2月号掲載

山舩晃太郎『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』特別記念対談

ロマンは現場で待っている!

山舩晃太郎 × 丸山ゴンザレス

世界の海で沈没船の発掘・研究を行う水中考古学者の山舩さんが、
憧れの「危険地帯ジャーナリスト」丸山ゴンザレスさんと初対面。
大学で考古学を学んだ丸山さんと、「考古学あるある」から、
トレジャーハンターの存在、そして海外での食事情まで、縦横無尽に語り尽くします!

対象書籍名:『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』
対象著者:山舩晃太郎
対象書籍ISBN:978-4-10-354191-2

丸山 『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』を読んで、「山舩(やまふね)さん、すげぇな」と思いました。海外で調査するってこと自体、かっこいいですよね。僕は國學院大學で考古学を学んだ“考古学者崩れ”の情報屋ですが、「大学で考古を学ぶなら、こっち(海外)だったな」というのが正直な感想です。

山舩 私、丸山さんの大ファンなんです。『クレイジージャーニー』でスラム街に取材に行く様子を見たり、ご著書を読んだりして、「丸山さんがやっていることは文化人類学そのものだな、すごいな!」と感じています。

丸山 僕はいわゆるジャーナリズムを学んだことがなくて、取材も自己流なんです。國學院大學って少し特殊で、神主をやりながら考古学の研究をしている先生や、授業よりも酒の席でよく会う先生もいました。そんな環境で身につけたスキル、遺物へのアプローチや、現地での聞き取りのノウハウみたいな考古学的な考え方をベースに取材をして物を書いている。グローバルに活躍している山舩さんに響いたなら、とても嬉しいです。

山舩 「現地の文化を理解する」という点は考古学も文化人類学も、丸山さんの取材も同じです。僕や、僕の友人の文化人類学者がやっていることと同じだな~と思いながら、番組を見ていました。

丸山 実は僕、学部2年生の頃、専攻を決める面接で「なんで考古学なの?」って聞かれて「『インディ・ジョーンズ』が好きなんです」って言ったら、「お前もか……」という反応をされたんです。「これはヤバい」と思って「『MASTERキートン』も読んでます!」とアピールしたら、「あんなかっこいい考古学者はおらん!」とさらに怒られた(笑)。でも、エンタメ作品から考古学の世界に入ったし、実際に冒険もしたいんですよ。山舩さんも『インディ・ジョーンズ』が好きだそうですね。

山舩 はい、大好きです。考古学は本当にロマンにあふれた学問ですけど、学者自身がそう言ってはいけない雰囲気がありますよね。

丸山 あります、あります。1000年前の物が土の中から出てくるって、それだけでワクワクするじゃないですか。しかも山舩さんは、「水中考古学」ですから、発掘現場はもちろん水の中。発掘していて、興奮で震える瞬間ってありますか?

山舩 やっぱり一番最初の発掘が面白いんです。海底の砂の中から、船体の木材が出るか出ないかのタイミングですね。興味のない人から見たら単なる木片ですが、私は船の構造が大好きなので、それが出てくると、もう……。

丸山 昔の船って、今で言うところの飛行機や宇宙船ですもんね。当時の最先端技術の粋を集めた物だから。

山舩 そうなんです。古代エジプト時代から、ヴァイキング、大航海時代……と世界史の大きな流れの中で、人が移動する時に使った最新機械が船です。コロンブスなんて、本当に新大陸があるか分からないのに冒険の航海に出た。それによって植民地支配が引き起こされたという負の面もありますが、冒険家たちのストーリーの上に私たちは今、生きているんです。……ともっともらしく言いましたが、とにかく帆船はかっこいい! それに尽きます。

丸山 動機は、ごちゃごちゃ理由をつけず、シンプルな方が良いですよね。面倒くさくなった時に「本当に知りたくないの?」と自分に問い直せる。

山舩 そうだと思います。私は電車オタクの「鉄ちゃん」と同じなんですよ。ただただ楽しいから10時間くらい文献を読んでいるだけなのに、「研究しているね」と褒めてもらえる。学者になれてラッキーだと感じます。

丸山 その感覚、すっごく分かりますね。僕も、何週間も海外のスラム街をウロウロして、見たり聞いたりした情報を日本に持って帰ってきて価値づけをする……という仕事をしています。こんなことを商売にできるって幸せだなと思います。「好き」が高じて仕事となっているのは、山舩さんも私も同じかな、と思いました。

盗掘とコレクション

丸山 山舩さんは本の中でトレジャーハンターによる被害について書かれていました。ぜひ聞きたいんですけど、沈没船からサルベージする民間人は、さまざまな機関が把握しているよりも、実態としては多いんですか?

山舩 うーん、これまでのトレジャーハンターは、船全体をダイナマイトで破壊し、金属探知機で金貨なんかを探し出す、という方法を取っていましたが、丸山さんも本に書いているように、割に合わないんですよ。金目のものは、沈没した直後に奪われているケースも多い。それで今は「投資詐欺」に移行していますね。例えば、「南米沖に何百億円の価値のあるものが埋まっています。数億円あればサルベージできます。余剰分は出資者に配当します」と、出資金を集めてトンズラするんです。

丸山ゴンザレス氏

丸山 盗掘については、そういう変化はあるだろうなと思っていました。ちょっと蛇足ですが、偶然海岸に流れ着いた遺物を一般の方が拾ってコレクションするのは許せます? イギリスのテムズ川なんかだと、実際に趣味としてやっている人がいるんですが。

山舩 なるべく自治体や博物館に報告をしていただきたいのですが、流れ着いた物だったらOKです。確かに、沈没船の中に残されている積み荷が、船体内のどの位置から出土したかは大切な情報です。ですが、故意に持ち去ったのではなく、自然の力で流出してしまったのならば、特に問題視はしません。遺跡を破壊するか、意図的に持ち出したか、がポイントですね。

丸山 少し話が変わりますが、現代の車を将来の人類が発掘したら、21世紀の文明について推察できることが多いと思うんですよ。タイヤの形状からフラットな道路が存在したこと、燃料タンクの大きさから移動可能距離などですね。船一つからも、そういう風に過去の文明を復元できますか?

山舩 船からだけではできないかもですね。帆やロープを見れば造船技術の水準は分かりますが……。古代船だったら、木の切り方から、どのように自然を活用していたのかは分かります。航海器具を見れば世界をどのように理解していたかも読み取れますが、それが限界でしょうか。積荷まで出てくると、かなり当時の文明を推察できます。各地から品物が港に集まり船に載せられるので、当時、何が流行していたのかや、敵対していた文明同士も実は食物の貿易をしていた……なんてことも分かります。

丸山 なるほど!

中華料理が味方

丸山 僕は自分の人生をもう一回やるのは絶対無理だと思う。運やタイミングが重なって今があるのであって、振り返ってみると実はとても細い糸の上を歩いてきたんだな、と感じるんです。

山舩 私も、もう一度人生をやるなら、小学生の頃から野球じゃなくて水中考古学をやりたいと思いますね(笑)。野球部時代は、本当に辛かったです。

丸山 でも、「野球をやっていた」って言ったら、アメリカの大学院の研究室でクラブに勧誘されたりとかはなかったんですか?

山舩晃太郎氏

山舩 全くなかったですね。でも発掘中は2ヶ月くらい研究室のメンバーと一緒に過ごすので、絆は強かったです。

丸山 僕が学生の時は島で発掘することが多かったので、みんなトランプか麻雀を覚えていきました。ほかに娯楽がないので……。発掘中はすごく仲良くなりますよね。あとは、行った先の国々では食にこだわったりします?

山舩 発掘中はこだわらないですね。大体、アパートを1棟丸ごと借りて、近くのレストランと契約してしまうんですよ。だからメニューも固定されます。私の場合、現地人ばかりの発掘チームの中に日本人一人、ということが多く、パン食が中心。とにかく米が食べたくなります。海外の大学にフォトグラメトリ(写真からの3次元測量)を教える講師として呼ばれた時には、夜は少し時間に余裕ができるので現地の中国人が経営している中華料理屋に行きます。世界中どこに行っても、絶対にあるんですよ。店員に「麻婆豆腐ありますか?」と聞くと、中国人向けの「隠れメニュー」を出してくれる(笑)。滞在中、毎日行くので覚えてもらえます。この前、2年ぶりにマルタの中華料理屋に行ったら「来たかー!」と歓迎されました。

丸山 僕もジャマイカに行った時に、現地の友人に「美味い中華屋がある」って言って連れていかれたんです。「そんなこと言ってもジャマイカレベルだろ」ってたかを括っていたら、本当にものすっごく美味い。なんでこんなに本場の味が再現できるんだ!と思ったら、ジャマイカには中華料理の調味料なんて売ってないから、ゼロから自分達で作っていると言っていました。そりゃ美味くなるに決まっている(笑)。逆に、海外の日本料理は、ギャンブルですね。南アフリカのケープタウンでは、「YouTubeで学んだ」って言う黒人の寿司職人がいたりしました。シャリがやたらデカくてカッチカチ。2貫で満腹でした。僕は基本的にそういう「貰い事故」をしに行きますね。

無我夢中のアメリカ時代

丸山 それにしても、大学院に入る前の語学学校時代はがんばりましたね。2年で大学院に入学できると思っていました?

山舩 勉強し続ければ、いつかは入れると楽観していました(笑)。私は丸山さんみたいに学部から考古学を学んで院に……という正規のルートではなく、野球漬けの大学生活からいきなりアメリカの語学学校に行ってしまったので、自分が上っている階段が何段くらいあるのか分かってなかったんです。階段の高さがあらかじめ分かっていたら、諦めていたかもしれません。通った語学学校は目標としていたテキサスA&M大学の併設で、偶然、水中考古学の教授の奥さんが語学学校で教えていて、「コウタロウはバカだけど、やる気はある」とプッシュしてくれました(笑)。

丸山 その後、無事に大学院に合格、研究室に入るわけですよね。この頃に、一番ご自身の能力が伸びたのでは?

山舩 どちらかと言えば、院へ正式入学する前の「お試し期間」だった仮入学の1年が最も辛かったですね。結果を出せなかったら日本に帰されるというプレッシャーから、幻聴や幻覚が出るくらいまで勉強しました。

丸山 親御さんは、海外に出て結婚して日本に帰ってこないのでは、と思われたりもしたんじゃないですか?

山舩 学生時代に付き合っていた彼女がいたんですが、1年間も浮気されていたことが発覚して「もう恋愛はいいや」と思うようになりました(笑)。

丸山 それはそれは……(笑)。山舩さんは、日本人として海外での研究も経験しています。今後、水中考古学を志す人に「おすすめのルート」を教えてくれますか? もちろん、破天荒なロールモデルとして、山舩さんには今後も活躍してほしいですが(笑)。

山舩 私と同じルートはあまりおすすめしませんね(笑)。西洋船の研究をしたいのであれば、造船史を学ばないといけないので海外に出てほしいな、とは思います。でも、日本国内にも水中考古学の可能性はたくさん転がっています。例えば、貝塚なんて山ほど海中に埋まっています。もしくは縄文時代の居住地遺跡が水没していたとしても、私は門外漢なので研究できない。だから、日本の考古学で活躍されている方々に、水中遺跡に興味を持ってほしいです。ダイビングのライセンスを取りさえすればいいんです。4日間で5万円払ってくれれば取れます。

丸山 北海道の野付半島には、昔、遊廓があったという伝説があるんです。実際、海岸に陶器が流れ着くそうです。そういう風に、水中に沈んでいる遺跡は国内に山ほどあるはずですよね。

遺跡の持つ本当の価値

丸山 ご専門の大航海時代のスペイン・ポルトガル船以外の時代や国の船の発掘や調査にも沢山参加されていますよね。本の中では、ミクロネシアの戦争遺跡にも触れられていますが、戦争遺構保護の活動は、今後もやっていくつもりですか?

山舩 そうですね。本に書いたミクロネシアのプロジェクトは、もともとユネスコのチームに誘われて参加しました。第二次世界大戦時の沈没船は、船内にまだ燃料が残っているんです。月日を経て船体が劣化して流れ出すと、周辺の景観が損なわれてしまいます。ミクロネシアは観光で成り立っている国ですから、大問題です。また、戦時中に現地では日本軍の駐留によって食糧の徴収による飢餓が発生した歴史もあります。日本人で、技術的にも貢献できるのであれば、積極的に携わっていかないと、と思います。

丸山 ご自身のナショナリティについては、海外に出てから意識するようになったんですか?

山舩 はい。世界的な視点からも考古学を考えられるようになりました。私は丸山さんほど危険な場所には行っていませんが、ジャマイカやトバゴなど、まだまだ貧しい国の現場に行って感じるのは「考古学は金持ちの国の道楽だ」ということです。でも、貧しい国にだって、歴史と遺跡は絶対にある。アイデンティティを育てるためにも歴史はとても重要です。それに遺跡もやっぱり単純にかっこいいんです! だから、その感動を残しておきたい。将来は、遺跡の保護団体を作りたいです。

丸山 そこに遺跡があったという記録は後の世代へ残せますもんね。それに、世界中、どこに行っても博物館はありますよね。やっぱり人間には「過去を知りたい」という欲求が本能レベルで備わっているんだと思います。

行き着く先はロマン

山舩 私はとにかく船の考古学が楽しいってことを皆さんに伝えたいんです。今、一人で地下アイドルを応援しているような状態なので……。水中考古学の魅力を共有できる仲間がもっといたら、と思います。フィクションじゃなくても、考古学はロマンにあふれている。それを知ってほしいですね。

丸山 少なくとも、山舩さんは一人じゃないですよ。僕が発掘現場まで応援しに行きます。

山舩 心強い! 今度、モンゴルの湖で水中ドローンを使って調査を行う予定なんです。モンゴルは内陸国なので、湖信仰が強い。湖に色々大切なものを投げ入れる風習があったのですが、ロシアのトレジャーハンターがそれを奪っていくという問題が起きているんです。丸山さんは考古学の視点も持ったジャーナリストですから、ぜひ現場を見て取材してほしいです。


 (やまふね・こうたろう 水中考古学者)
 (まるやま・ごんざれす ジャーナリスト)

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