書評

2022年2月号掲載

科学も歴史も文学も!食材が好奇心を刺激する

稲垣栄洋『一晩置いたカレーはなぜおいしいのか 食材と料理のサイエンス』

小島よしお

対象書籍名:『一晩置いたカレーはなぜおいしいのか 食材と料理のサイエンス』(新潮文庫)
対象著者:稲垣栄洋
対象書籍ISBN: 978-4-10-103741-7

 ピーヤ! お笑い芸人の小島よしおです!
「そんなの関係ねぇ!」で流行語大賞トップテンに選ばれたのが、二〇〇七年。それ以来、「一発屋」とか「消えそうな芸人」と言われてきましたが、子どもむけのお笑いネタに活路を見出し、今でもタレントを続けています。
 ぼくの子どもむけのネタに「ピーマンのうた」があります。応援団風の曲と振りに合わせて、次のように歌います。
    ♪
 ピー!(マン!) ピー!ピー!(マンマン!)
 中身が空っぽそのわけは タネを熱から守るため
 空っぽになってるその中に 君たちの夢をつめるのさ
    ♪
 今から七~八年前、あるテレビ番組で、この歌を披露する機会がありました。三十人のピーマンが嫌いな子どもたちの前で「ピーマンのうた」を歌い、その後に、子どもたちにピーマンを食べさせる、という実験企画です。
 台本には「やっぱり、ピーマン嫌いなままでした」と書かれていたし、ぼくも「そんな簡単に好き嫌いは直らないだろうな」と思っていました。ですが実際には、ほぼ全員、二十九人の子どもたちが、ピーマンを食べて、「好きになった」と答えたのです!
 他愛のない歌詞ですが、ピーマンの中身が空である理由を説明した部分が、子どもたちの「どうして?」という知的好奇心を刺激して「もっとピーマンのことを知りたい! 食べてみたい!」と感じさせたのかもしれません。
 それ以来、ぼくは野菜の歌をたくさん作るようになりました。未発表のものを合わせれば、三十を超える野菜について歌っています。
『一晩置いたカレーはなぜおいしいのか』という本書のタイトルも、「どうして?」と思わせるうまいタイトル。歌ネタにしたら、ぜったい受けると思います。
 カレーのおいしくなる理由は、本書を読んでもらうとして、それ以外にも、身近な料理をテーマに、さまざまな野菜や果物についての知識が詰まっています。
 たとえば「そばの科学」という章は、大人も健康情報などでよく耳にする「活性酸素」や「抗酸化作用」について書かれています。
 紫外線や乾燥などの環境ストレスがかかると、人間と同じようにソバも活性酸素が増えて不健康になるというのです。そして、それに対抗するために、抗酸化作用のあるルチンという健康物質を増やします。そうして、ルチンが増えたソバを食べて、人間も健康になるというわけです。
 野菜などに抗酸化作用があると聞いても「ありがたいな~」と思うだけで、その理由についてまで考えていませんでした。でも、野菜も人間とおなじ一つの「いのち」であると気が付くと、野菜が頑張って作ったものを、人間が分け与えてもらっているんだな、と素直に思えます。「いただきます」が、自然と言えるようになります。
 ソバの話は、健康成分などのカタカナが多く「科学」という感じなのですが、「カレーライスの科学」の章にあるトウガラシの話では「歴史」の話になります。
 トウガラシはコロンブスが新大陸で発見して以来、ヨーロッパから世界に広がりました。昔のインドではコショウなどの香辛料でカレーを作っていたのですが、トウガラシが西洋から伝わることで、現在のようなカレーになったというのです。つまり、コロンブスなくしてカレーなし!
 身近な食材を入り口に、「科学」や「歴史」ときには「文学」など、いろいろなドアが開かれていくのが、本書の一番の特色でしょう。植物学者である著者の稲垣栄洋先生は、「国私立中学入試の国語で最もよく出題された作者」調査(日能研調べ)で五年連続で一位なのですが、それも納得です。
 最後に、稲垣先生とのエピソードを一つ。『弱者の戦略』(新潮選書)という、雑草の生存戦略について書かれた本を読んで以来、ぼくは雑草芸人を自任するようになりました。強いイメージのある雑草は実際は弱く、ライバルのいない過酷な環境で生きているから強く見えるというのです。つまり雑草=パイオニアなのです。
 ぼくも芸能界で生き残るために、子どもむけのネタを始めたり、教育系のYouTubeチャンネルを始めたり、いろいろなことに挑戦しています。昨年、稲垣先生に対談でお会いした際には「小島さんこそ雑草です!」と太鼓判をもらいました。
 ぼくが多大な影響を受けた稲垣栄洋先生の本に、ぜひ触れてみてください! ピーヤ!


 (こじま・よしお お笑い芸人)

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