対談・鼎談

2022年6月号掲載

Special対談

SNSは本への新しい扉

三宅香帆 × 梨ちゃん

Twitterでの何気ないつぶやき、YouTubeやTikTokの動画。
本を選ぶきっかけはどんどん増えている。
新しい読書の入口を作る二人の対談!

 確か三宅さんを知ったのは六、七年ぐらい前だから、高三か大学一年生の時です。三宅さんのツイートは巻き込み力があるんですよ。私はパーソナル感があるものが好きで、その出し方がすごく上手だなって。

香帆 私は遠野遥さんが芥川賞を取られた時に、梨ちゃんさんが関連動画を出していて、それで梨ちゃんさんを知りました。

 それ最初の動画です。嬉しい!

香帆 BookTuberとしてはベルさんが元々いたと思うんですけど、梨ちゃんさんが出てきた一年前くらいから、YouTubeで本を紹介する人が増えてきたなって感じてました。特に梨ちゃんさんみたいな、ザ・業界人じゃない方が本を紹介してくれるのが嬉しかったんです。本を紹介しつつポップな感じがいいですよね。どういうきっかけでYouTubeを始めたんですか?

 大学四年生の時に丁度コロナが大流行して、大学もないしバイトもできないし、このままじゃ大学生活終わるなって。就活で出版を受けてたんですけど落ちてしまい……。出版社の中の人だったら、ちょっとやりにくいなーってことをやらなきゃ、落ちた後悔で死ぬと思って始めました(笑)。

香帆 初期の頃の動画で就活の話をされていましたよね。

 私の動画で一番伸びたのが就活の話です。

香帆 出版系に関わりたい大学生の方って、「まず編集者」ってイメージがありますけど、別にそれだけが本に関わる仕事じゃないなと、私も書評家をやってて思うようになりました。でも、すごいなあと思うのが、梨ちゃんさんって最初から再生回数多いイメージがありますよ。

 全然そんなことなくて、一昨年の八月にはじめたんですけど、その年の十二月まではチャンネル登録者が二百人とかでした。で、千人超えたあたりから徐々に増えた。

香帆 すごい伸びて、これでいけるかもって思った動画はありますか?

 「女子大生が『文學界』3日で全部読むチャレンジ」という動画がTwitterで出版界隈の方から話題にしてもらうことがあって。この時、たとえ少々ニッチでも、文芸誌を始め、自分の好きなものを発信してやっていこう、という手ごたえみたいなものがありました。

喋ること、書くこと、それぞれの難しさ

香帆 YouTubeってSNSでシェアしてもらうの難しくないですか?

 難しい!

香帆 原稿だったら、これは人に読んでもらいやすくて自分も好きだなってテーマや題材と、人には読んでもらいにくいけど自分が好きだから書こうって思うものの違いは、なんとなく分かるんですけど。

 動画って情報を集めに来てる人が多くて、BookTuberに求められるのは本の情報ですかね。私はあまりやったことないんですけど、「絶対に読んだ方がいい小説○選」みたいな企画が人気ですよね。三宅さんは今何本くらい動画を出されてるんですか?

香帆 四本くらい。結構ポイッて投げて様子を見ている状況です。何が求められてるか分からなくて……。

 難しいですよね。私は動画を出すときは台本を練りに練ってます。例えばこの書評を出そうって決めたら、書評パートは間の取り方まで全部台本に書く。喋りが苦手なので、ぶつぶつ言いながら書いて、あまりにも破綻していたら練り直す。

香帆 じゃあ台本作って、見ながら話してるんですか?

 パソコンに台本映して、それを見ながら喋っています。見て話して、見て話して、出来たものを編集で切ってます。

香帆 編集、大変じゃないですか?

 そうですね。私は不器用で、八時間くらいかかります。テロップつけるのが、なんだかんだ一番大変。

三宅香帆
三宅香帆:書評家、作家。
著書に『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』や
『人生を狂わす名著50』。最近YouTubeを開始。

香帆 サムネイル画像、難しくないですか? やっぱりサムネでちょっとは喋っている人の顔が見えた方がいいのかなって、見る側として思うんです。どうやって作っているんですか?

 カメラを回しっぱなしにして、自分の顔を見ながら盛れる角度を探してます(笑)。サムネは顔が盛れてることがかなり重要みたいで、かわいく撮れた時と、そうじゃない時の再生回数が全然違う。サムネを作るだけで一時間かかる時もあります。

香帆 やっぱりYouTubeって顔出るから準備が大変ですよね。

 そうなんです! お化粧しなきゃいけないから。お化粧してるタイミングでいかに動画を撮るかの勝負かも。三宅さん、今日はマスカラが茶色でかわいいですね。

香帆 ありがとうございます(笑)。

 私は三宅さんのように書評を書くことがなかなか出来ないんです。動画だと話し言葉だから、多少破綻していてもなんとかなるんです。でも文字だとそうもいかず、時間かかってしょうがない。

香帆 私の場合、本の中のどのポイントについて書くか決めるのが大事だと思ってます。この場面が良かったとか、このキャラクターは新しいと思うとか、ここってポイントを決めると書評しやすいなと思いますね。

 ポイント絞らないと、書きにくいのはもちろん、たぶんつまらないですよね。BookTuberの書評の動画、自分のもそうですけど、あんま見ごたえがないやつって「すごい面白いからとにかく読んで!」ってもの。動画だから熱量とかも伝えやすくて、それで押しちゃう感じは自分もすごく分かるんですけど、ポイントを絞ってくれないと本について想像できないですよね。

香帆 逆に本紹介でどういう動画が面白いとかありますか?

 私は結構、その動画配信者のことが好きで観るのが多いんです。その人の体験に絡めたこと、なんで読んだのか、どうしてそう思ったのか、みたいなのがあると面白く感じます。YouTubeはやっぱりパーソナリティが大事だなって。

香帆 書評だと、誰が書いたのかわからなくても伝わる文章の方が私はいいなと思うんです。だけど、YouTubeって顔が出てるから、その人が好きじゃないと観る気にならない。確かにパーソナリティをもっと出すべきですね。

 自分で言うことじゃないんですけど、自分のことを好きになってもらって、「好きな人が面白いって言っているから、この本読もう」ってパターンが望ましいですよね!

香帆 なるほど~。勉強になります!

 その点、活字の書評は書き手のパーソナリティ依存だとつまらなかったりしますもんね。不思議ですね。

香帆 私、自己紹介から始まる書評が苦手なんです。活字の書評と書評動画、媒体によってライターさんがどこまで前に出るか、違いがありますよね。

 私はこの春から社会人二年目になったんですが、一年目は全然本が読めなくて。三宅さんは会社と書評家のお仕事どうやって両立してるんですか?

香帆 在宅勤務のおかげで通勤時間や朝のメイクの時間がないから、どうにかなってます。文章書くのは苦痛じゃないんですけど、逆に書き始めるまでが凄い時間かかるタイプで、よく現実逃避してしまう……。書評を書くのがイヤで本とか読んじゃう。私の本読む時間って、原稿から逃げてるときなんです。

 そこで読んだ本を原稿に……上手いこと回っていますね。私は寝ちゃったりとか、YouTube観ちゃったりとか。もともとない時間をさらになくしちゃう。

香帆 でもYouTube観るのって仕事みたいなもんじゃないですか。私の知り合いのお姉さんが言ってたんですけど、頼まれてもないのにやっちゃうことこそが得意なことなのだから、それこそが仕事だと思っていいんだって。

 いい言葉~。

文学少女に憧れて

 三宅さんの思い出の一冊ってありますか?

香帆 青い鳥文庫に入っていた、はやみねかおるさんの夢水清志郎シリーズがすごい好きでした。初めてシリーズものの作品でドハマりしました。小学五年生の時です。

 私も同じくらいの年齢の時に、はやみねかおる作品を読んだ記憶があります。シリーズの楽しさってありますよね、登場人物達に「また会えた~!」みたいな。

香帆 この間、実家帰った時に読み返してたら、パロディの量がすごいことに気づきました。はやみね先生自身がたくさん本を読まれているから、色んな小説のパロディを仕込んでくれているんです。そのことに後書きでも触れていて、それが私の本好きへの入り口だったのかもしれません。私たち世代の本好きの人で、はやみねかおる作品にハマってた人多いですよね。

 (夢水清志郎シリーズに登場する三つ子の長女)亜衣ちゃんが文学少女だったじゃないですか。小学生の私から見るとお姉さんなので、それに憧れて本を読んでいた思い出があります。

香帆 分かります。

梨ちゃん
梨ちゃん:2020年からBookTuberとして活動。
文芸誌企画などニッチな読書にまつわるコンテンツを
発信。

 うちの本棚で一番ボロボロなのは『エルマーのぼうけん』。エルマーが旅に出るときに色々リュックサックにものを詰め込むんです。ペロペロキャンディ何本とか、乾燥イチジク何個とか、そういうのがバーッて書いてあるところがあって、そこが凄く好きで何度も読み返していました。それが原点で、最近私がよく動画に出している文芸誌は、高校生から読み始めました。学校の図書館に、なぜか「文學界」と「群像」だけおいてあって。

香帆 私は「ダ・ヴィンチ」とかは読んでましたけど、文芸誌を買い始めたのは最近な気がします。

 普通の本好きは、いつ文芸誌の存在を知るんでしょうね?

香帆 でも最近はSNSでも文芸誌の話題が盛り上がってますよね。梨ちゃんさんの影響もあると思います。

 動画始めてびっくりしたことの一つが、文芸誌のことを知りたがっている人がこんなに多いのかということ。文芸誌の動画をもっと観たい、今月、梨ちゃんが買った文芸誌を教えて、ってコメントを沢山頂くんです。読者になりうる潜在的な層って沢山いるんだなと思いました。それこそ、この「波」もそうかもしれないですよね。三宅さんは今後挑戦してみたい動画の企画あります?

香帆 作家ごとの解説をいつかやりたいなーって。NHKの「100分de名著」って番組があるじゃないですか。あれの10分とか短いバージョンで、作家についてもう少し突っ込んだ話とか解説をしてみたいです。力を蓄えて、いつか。

 それ、すごく観たいです! 私は飲み屋で飲みながら本のこと話す動画をあげたい。この間新潟に行った時に、夜から開店する古本屋さんを訪ねたんです。本に囲まれてお酒を飲めるお店で、ユニークじゃないですか。お客さんも本好きの集まりで、亭主が泥酔したら閉店(笑)。そういうお店で撮影してみたいです。

香帆 本とお酒って相性いいですよね。その動画コラボしたいです。

 是非是非、やりましょう。


 (みやけ・かほ 書評家、作家)
 (なしちゃん BookTuber)

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