書評

2022年7月号掲載

私の好きな新潮文庫

僕を小説沼に導いた新潮文庫

けんご

対象書籍名:『火車』/『ゴールデンスランバー』/『老人と海』
対象著者:宮部みゆき/伊坂幸太郎/ヘミングウェイ 高見浩訳
対象書籍ISBN:978-4-10-136918-1/978-4-10-125026-7/978-4-10-210018-9

(1)火車 宮部みゆき
(2)ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎
(3)老人と海 ヘミングウェイ 高見浩訳

「きっと幼少期から小説をたくさん読まれてきたんですよね」
 小説紹介クリエイター・小説家として活動する僕は、応援してくださる方からこのようなことを頻繁に言われます。幼い頃から読書に親しんでいたと思われるのは自然なことかもしれません。しかし、僕が一冊の本を初めて読んだのは大学一年生のときです。東野圭吾さんの代表作『白夜行』が初読書でした。2022年現在、社会人二年目なので読書歴は約五年。短いですよね。それでも、いまでは読書が趣味だと胸を張って言えるようになったと思います。
 読書の魅力をまだ知らないころの僕は、小説=難しい、という凝り固まった偏見を持っていました。そんな僕でしたが、趣味が欲しくて小説を読み始めることになります。ここで当時の自分に一言だけ言わせてください。「よく最初にあの作品たちを選んでくれた!」と。最初に『白夜行』を読んだ後、宮部みゆきさん著『火車』、伊坂幸太郎さん著『ゴールデンスランバー』の順番で小説を読みました。そして海外文学初挑戦作品が『老人と海』です。小説をよく読まれる方ならお気づきかもしれませんが、僕はきっと小説を好きになるべくしてなったのです。もはや、新潮文庫のおかげで好きになったとさえ言えるかもしれません。今回は僕を小説沼に導いた新潮文庫三作品の魅力をご紹介します。

火車 まずは『火車』です。三十年前の作品なので情景描写は古く感じますが、いまこそ読まれなければならない作品の一つと言えます。
 現代では、「キャッシュレス化」がかなり進んでいますよね。現金を持ち歩かないという人も珍しくはありません。一昔前に比べて、ネットが普及し、クレジットカードを使う機会も増え、いまや学生でもカードを持つ時代になりました。
『火車』をネタバレせずに一言でまとめると、金融地獄に落ちていく人の話です。クレジットカードをはじめ、ローンや消費者金融など、手元に存在しないお金を使うことができる仕組みはかなり便利ですよね。当然ですが、そのような金融サービスを使えば返済を求められます。何かを購入する際に代金を支払うことは常識です。
 では、もし返済が不可能になったとしたら――その人はどうなるでしょうか。
 お金は便利な反面、人生をどん底に落とすほどの力を持っています。この学びのある不朽の名作を現代の学生さんに届けることが、小説紹介クリエイターである僕の使命なのかもしれません。

ゴールデンスランバー 夜通しで一心不乱に読み耽った作品があります。それこそが、『ゴールデンスランバー』です。数々の名作を生み出してきた伊坂幸太郎さんの作品の中でも、特におすすめします。
 首相暗殺の濡れ衣を着せられ、逃亡する主人公を描いた物語。この短いあらすじだけでもワクワクしませんか? 誇張でなく、こんなに緊迫感のある作品は、なかなかありません。
 主人公は平凡な配達員だった男。彼はあることをきっかけに、ちょっとした有名人になった過去があります。そのブレイクはあっという間に過ぎたのですが……、次は日本中から犯罪者として追い回されることになるのです。その謎が全て繋がったとき、この作品を読んでよかったと心底思いました。より多くの人に届けたい、究極のエンタメ小説です。

老人と海 突然ですが、ここで質問があります。海外文学にどのようなイメージを持っていますか? 難しそう、と思われている方も多いのではないでしょうか。事実、僕はそう思っていました。
 しかし『老人と海』を読んで、そのイメージはなくなりました。
 この作品は、ただひたすらに漁師の老人とカジキマグロが格闘をする話です。それだけなのに感動が止まりませんでした。物語の老人に生きる勇気をもらえたんです。さすがはノーベル文学賞受賞作。言わずもがなの名作です。これから海外文学に挑戦する人にピッタリな作品です。
 もう三冊紹介してしまいました……。まだまだ紹介したい作品は山ほどありますが、文字数の上限が迫ってきたので、続きはSNSを使って紹介することにします。


 (けんご 小説紹介クリエイター)

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