書評

2022年10月号掲載

「芸能界」を作り変えた、若者たちの群像劇

戸部田誠(てれびのスキマ)『芸能界誕生』

戸部田誠(てれびのスキマ)

対象書籍名:『芸能界誕生』
対象著者:戸部田誠(てれびのスキマ)
対象書籍ISBN:978-4-10-610966-9

「日劇ウエスタン・カーニバル」といえば、日本の音楽史を代表する音楽イベントだ。ここからロカビリーブームが生まれ、グループサウンズ(GS)ブームも巻き起こし、音楽イベントの新しい形をつくった。けれど、それだけではない。現在の「芸能界」というショービジネスを生む震源地ともなったのだ。
 たとえば1958年2月に開催された「第1回日劇ウエスタン・カーニバル」には、後に「ホリプロ」を創業する堀威夫がウエスタンバンド「スイング・ウエスト」のリーダーとしてステージに立っていた。堀だけではない。同じバンドでドラムを叩いていたのは「田辺エージェンシー」を立ち上げることになる田邊昭知。さらに「ウエスタン・キャラバン」のリーダー・相澤秀禎も「サンミュージック」を設立することになった。つまり戦後を代表する芸能プロダクションの創業者がプレイヤーとして舞台に揃っていたのだ。さらにいえばこのイベントを主導し「ロカビリーマダム」と呼ばれ脚光を浴びたのは「渡辺プロダクション」の渡邊美佐、彼女と協力し重要な役割を担ったのは、美佐の妹で「戦後初の芸能プロダクション」と呼ばれるマナセプロの曲直瀬信子、「イザワオフィス」を立ち上げることになる井澤健は山下敬二郎の付き人として参加し、平尾昌晃のマネージャーを務めていたのは「呼び屋」としてビートルズ来日を実現させる永島達司だった。ジャニーズ事務所のジャニー喜多川もその後の「ウエスタン・カーニバル」で大きな役割を果たすことになる。「芸能界」の重要人物が多数関わっていたのだ。
「日劇ウエスタン・カーニバル」が始まった1958年はちょうど東京タワーが竣工し「テレビ」時代が到来した時。それまでレコード会社が強大な力を誇っていた芸能ビジネスの転換点にもなった。それに「日劇ウエスタン・カーニバル」が舞台になったロカビリーブームやGSブームも「芸能界」に大きな影響を与えていくことになる。
 本書は曲直瀬道枝、堀威夫、田邊昭知、飯田久彦、渡辺プロ新卒1期生の工藤英博、3期生の阿木武史(敬称略)を始めとする関係者への取材で得た貴重な証言や過去の資料をもとに、日劇ウエスタン・カーニバルに青春を捧げた若者たちを描いた群像劇である。同時に芸能プロダクション、ひいては「芸能界」という芸能ビジネス成り立ちの物語だ。どうしてプレイヤーであった彼らが裏方に回り、芸能プロダクションを立ち上げることになったのか、若者たちがどんな苦悩と挫折を味わいながら、そこにたどり着いたのか――。芸能ビジネスが岐路に立たされている現在、その始まりがどんなもので、どのように変遷し、いかに発展していったのか、その歴史を知ることは、新しい時代を作る活力と道標になるに違いない。


 (とべた・まこと てれびのスキマ、ライター)

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