書評
2022年11月号掲載
大企業も著名人も失敗する危機対応
田中優介『その対応では会社が傾く―プロが教える危機管理教室―』
対象書籍名:『その対応では会社が傾く―プロが教える危機管理教室―』
対象著者:田中優介
対象書籍ISBN:978-4-10-610970-6
令和四年は危機管理の年。というより、危機喚起の年と呼ぶべきかも知れません。なぜなら危機に対応したはずが逆効果、火に油を注いだ事案が連続したからです。
トラック業界のトップを走る日野自動車が、ほぼ全車種の生産停止に追い込まれました。排ガスや燃費のデータ不正が次から次へと発覚し、国交省からエンジンの型式指定を取り消されたのです。プロモーションで内容を小出しにする手法はティーザー広告と呼ばれ、読者や視聴者の関心を高めたい時に用います。ですが、それを不祥事の対応に用いたのは失敗でした。
自民党幹部の方々も同じでした。旧統一教会の関連団体との交流について、次々と新たな事実を認めるだけの展開となってしまったのです。
人気絶頂だった香川照之さんも銀座のクラブでの猥褻行為が発覚した時、マスコミの取材を拒否したため厳しい続報を招くことになりました。沈没した知床遊覧船や、園児を置き去りにした川崎幼稚園の経営者も同じ。マスコミの突撃取材を無視して逃げ回ったのです。東京五輪にまつわる贈収賄容疑で逮捕された方々は、テレビカメラの前で更に呆れた言動をしました。収賄容疑を問われた高橋治之元組織委員会理事は「してない!」と記者に怒鳴ったのです。贈賄容疑を問われたKADOKAWAの角川歴彦会長(当時)も「一緒にしないで、もう!」と気色ばんで反論していました。
なぜ、このようなダメな対応をしてしまうのか? 答えは簡単です。人は危機に遭遇すると思考停止に陥って、“闘争”と“逃走”という二つのトウソウ本能に支配されてしまうからです。
これを防ぐためには、危機管理のノウハウを知っておくことと、いつか自分の身にも起きる覚悟で疑似体験をしておくことしかありません。危機管理は「感知・解析・解毒・再生」の四ステップが基本です。たとえばマスコミ対応に「解毒」の意識をもって臨めば、取材拒否や反論は選択肢にすら入りません。また高橋元理事や角川会長は、かつて雪印の社長が記者に「私は寝てないんだ!」と口走った事例を忘れてしまったのでしょうか。
本書では近年の様々な危機事例を引きながら、危機管理の本質をご紹介します。ゼミ方式で、様々な危機の解決策を疑似体験できる仕立てにもなっています。登場する四人の学生には個性があります。理論的で冷静な狸タイプ、勝ち気な狐タイプ、要領の良い兎タイプ、マイペースな亀タイプ。教授の意見に流されたり、白熱したり迷走したりする様子は、企業の対策会議で広報室と法務部が対立したり、社長の顔色を窺いながら議論が進んだりする様子にふしぎとよく似ています。
危機は突然やってきます。会社を傾かせるような対応をしないために、本書をぜひお役立てください。
(たなか・ゆうすけ 危機管理コンサルタント)