対談・鼎談

2023年3月号掲載

宮田愛萌『きらきらし』刊行特別対談

万葉集を愛する二人の多すぎる共通点

宮田愛萌 × 三宅香帆

『万葉集』への造詣が深い三宅さんと、あの日本最古の和歌集をモチーフにした初小説集『きらきらし』を上梓した宮田さん。
ともに古典を愛する「文学オタク」のお二人に、とことん趣味に走って語り尽くしていただきました。

対象書籍名:『きらきらし』
対象著者:宮田愛萌
対象書籍ISBN:978-4-10-354941-3

日向坂46で実写化するなら

三宅 お久しぶりです。『きらきらし』読ませていただきました。初めて書いた小説と思えなくてびっくりしました。書き慣れている感じがして。

宮田 お久しぶりです、ありがとうございます。仕事などで休んで大学の出席日数が足りないときに、小説をレポートにつけて出したりしていたからかもしれません。

三宅 すごい、教授は愛萌(まなも)ちゃんの小説をすでに読んでいたんですね。

宮田 「私が読んで面白い話を書いてきてください」と言われたけれど、日常で面白い話がなかったので、小説を書いたんです。

三宅 そうだったんだ! 万葉集から着想を得た小説集ということですが、現代物で読みやすくて、いろんな方が読めそうだと思いました。小説の中の恋も様々な形があって、男女もあるし、同性同士もあるし、恋愛未満のような感情もあって、関係性がいろんな形で描かれているのが面白かったです。

宮田 嬉しいです。日向坂46にいた時に、三宅さんに影ちゃん(影山優佳さん)と二人でインタビューしていただいて、私と三宅さんが万葉集や源氏の話でめちゃめちゃ盛り上がっちゃって、影ちゃんが置いてきぼりになっていましたよね。二人が話してるのが面白いと言ってくれて。

三宅 ありがたい。優しいですね……。今回、「万葉集からこの歌を持ってくるんだ!」という驚きが楽しくて。モチーフにした五首で短編を書くのは最初から決めていたんですか。

宮田 全然決めてなくて、パラパラ読みながら決めた感じです。

三宅 例えば「ハピネス」も、モチーフの歌は別に女性同士の恋愛をうたっているわけじゃないですよね。それをああいう形で膨らませるのはどう考えたんですか? 発想がすごい!

宮田 妄想をするときには、ある情景とかを考えて、なんとなくこういう感じかなって。あと私、高校生のときは百合文化に理解のある子たちの中で過ごしてきたので、それも影響していると思います。

三宅 女子校ですもんね。私は日向坂46で実写化するなら誰だろうと妄想しながら読んでいました。愛萌ちゃんのイメージはありますか?

宮田 そうですね。ビジュアルと中身は違っていて、見た目だと「ハピネス」のカレンはひな(河田陽菜(かわたひな)さん)ですかね。華奢で、かわいくって……みたいな。中身はカレンと全然違いますけど。

三宅 確かにかわいい! 私はカレンを丹生(にぶ)ちゃん(丹生明里(あかり)さん)かなと思いながら読んでいました。

宮田 確かに。お兄ちゃんいるし!

三宅 希南(きな)は愛萌ちゃんに近いと思いました。この中で、愛萌ちゃんが自分っぽいと思うキャラはいますか?

宮田 一番私っぽいなと思うのは「好きになること」の瑞葉(みずは)です。本当はだらしないくせに外では見栄を張る感じとか(笑)。

三宅 えー! 見えない。

宮田 普段はちゃんとしてると思うんですけど、中高の友達の前とかだと。

三宅 意外です。「つなぐ」には、万葉集の挽歌(ばんか:他人の死を悼む歌)が出てきましたよね。私は相聞歌 (そうもんか:恋愛の情などを伝える歌)も好きですが、挽歌も染みるものがあるなと思います。

宮田 私は挽歌をがっつり勉強していたわけじゃなくて、相聞の方をメインに歌垣(うたがき:古代、男女が求愛のために歌を詠み合う風習)とかを授業で取っていて。でも深みを感じるのは挽歌の方で、切実感があってそこが面白いと思っていました。もう少し時間があれば学びたかったなという後悔もあって。

三宅 私は挽歌なら、万葉集の中でも前半の時代の柿本人麻呂が好きです。「和歌はこういうふうに詠む」というルールが決まっていなかった時代に、現代人にも染みる歌を作ったのがすごいと思っていて。平安時代の歌よりも、むしろ現代っぽい感じがします。

宮田 昔も今も、感情って変わらないんだと思いますよね。形式が決まってないからこそリアリティがあるというか、生々しさが伝わる感じがして。

三宅 めっちゃわかります。例えば「景色を詠む歌」みたいにジャンルもあんまりはっきり決まってない感じがすごく現代っぽい。

宮田 現代短歌とかも結構そんな感じですもんね。万葉集は、見たものを本当に詠みたいから詠んでいる感じ。

三宅 あと、男女の関係性も、結構男女平等っぽかったり。女性もこれだけいっぱい和歌を詠んでいるって世界的に見てすごい。

生々しい大学生活の描写!?

三宅 愛萌ちゃんは万葉集で好きな歌人とかいますか?

宮田 私は作者未詳の歌が好きなんです。作者がいる歌はその特色まで考えたくなるけど、作者未詳だと歌の方だけに集中できる気がして。この作者はあの歌も詠んでるから……と情報過多になっちゃって。レポートを書く上では絶対作者がいた方がいいんですけど、きちんと読むならいない方がおもしろいな、と。

三宅 なるほど。レポートといえば、「紅梅色」の語釈(語句の意味の説明)をつけるシーンがすごいリアルで。こうするとちゃんとして見える、みたいな。あれはやっぱり実体験に基づいているんですか。

宮田 はい。生々しい私の大学生活です(笑)。私の習っていた先生が、資料はあればあるほどいいという方で。語釈を参考にするのはいいけど、訳は自分の解釈を考えてほしいという感じだったので、一文字ずつ漢字の意味を調べたりしていました。

三宅 それってめっちゃ大変ですよね! 私は漢字の知識がなくて苦労しました。万葉集は、中国の漢籍から影響を受けていたりもしますよね。

宮田 そうなんです、だから漢詩を調べて「漢文読めん!」となって。

三宅 めっちゃわかります! 私も国文学専攻なのにうっかり中国語取らないでフランス語取ってたんです。

宮田 うわー、私もフランス語です!

三宅 中国語にしとけばよかったと。

宮田 思いました!

三宅 漢籍調べたら中国語のページにいった!とかありますよね。

宮田 すっごいわかります!

三宅 修士論文で万葉集の巻二の石川郎女が詠んだ歌を扱ったんですが、解釈に「文選(もんぜん)」とか「遊仙窟(ゆうせんくつ)」とかの漢籍を使わなきゃいけなくて。本当に最後まで、やばい、自信がないと思っていました。しかも「遊仙窟」は下ネタが割と多くて、引用に困る。

宮田 あるあるですよね。直接的すぎて、これ発表で使いたくないんだけど!と。オブラートって存在しないの?っていう気持ちになります。

三宅 中国の漢詩は表現がどぎつくて、万葉集の方が全然オブラート。

宮田 確かに、そういうときも平安時代いいな、って思いました。源氏物語とか、全て結構厚めのオブラートに包んでくれる。

三宅 わかります! 逆に源氏は何があった?くらい厚い。平安時代のものとかも読んだりされるんですか。

宮田 普通に読むぐらいです。青い鳥文庫の『あさきゆめみし』を小学生の頃に読んで、そこから源氏物語や枕草子はとりあえず読みました。

三宅 私、いまだに「ひらがな推し」の源氏物語回を覚えていて。私も国文の友達と一番盛り上がるのって、源氏物語を実写化したら、なので。

宮田 絶対に、人間だれでも妄想しますよね。

三宅 やっぱりそうですよね。私も『あさきゆめみし』から入って、原文読もうとして、むずい! 主語、誰?と。万葉集の和歌の方がシンプル。先生方も自由な解釈してるし。

宮田 そうなんですよね。大学の授業で、万葉集の七夕歌の、上の句と下の句で視点が変わる歌を説明するときに、「実は主人公は巫女で、織姫が取り憑いていて、二つ視点があるんです」と説明をして、拍手をもらったことがあります。

三宅 ありそう! 自由な発想がきく世界ですよね。そもそも、愛萌ちゃんが万葉集に興味を持ったきっかけって何なんですか?

宮田 元々は枕草子か妖怪について勉強したいと思ってたんですけど、うちの大学のオープンキャンパスで、土佐秀里先生の万葉集の授業がめちゃめちゃ面白くて、この先生の授業を受けようと思いました。もうこれしかないと思って、AO入試だったんですけど、面接でも万葉集がやりたいんですと言って入りました。

三宅 すごくわかります。私も大学に入る前は伊勢物語がすごく好きでやりたいと思っていたけど、先生の話を聞いて、和歌の方がやれること多そうだなと。読んでいて面白いものと研究したいものは違うんだなと思いました。

源氏物語は元祖アイドルグループ!?

三宅 さっき出てきましたけど、源氏物語で好きなヒロインはいますか?

宮田 私、圧倒的に夕顔なんですよね。ちょっとあざといところとかが好きで。儚く見えて、意外としたたかなところが見え隠れする感じがめちゃめちゃかわいいと思って。光源氏を引き止める場面とか、逆にそっと送り出すとか。

三宅 夕顔、私の中で解釈一致! 源氏物語のヒロインたちはしたたかですよね。光源氏がメソメソしている間に女性は立ち直っている。空蝉(うつせみ)とか夕顔とか、意外とあざといっていう。

宮田 儚げなイメージは、名前に引っ張られてますよね。三宅さんがお好きなヒロインは誰ですか?

三宅 私は雲居(くもい)の雁(かり)が好きで。夕霧と喧嘩ばっかりしてるけど結局好き、みたいな感じがかわいい。

宮田 かわいいですよね! 私も小学生の頃から雲居の雁ちゃんってずっと呼んでました。

三宅 庶民的な感じもあって親しみが持てて、夕霧はもっと雲居の雁を大事にしてよ! こんなかわいい彼女がいるのにお前!と。源氏物語で好きなヒロインにその人の価値観が出ますよね。藤壺とか紫の上とか好きな人は、王道ヒロインが好き。

宮田 すごくわかります。王道感があるのが好きだから、アイドルグループでも正統派の清楚系の子が好きで、絶対センターを推すでしょと。

三宅 色白くて美少女が好き、とか。アイドルの推しの解釈と大体一緒ですよね。明石の君が好きな人は後から入ってきた新人ちゃんを好きになるとか。源氏物語って、あの時代にアイドルグループ作ってたようなもんじゃないですか。

宮田 本当にそれなんですよね。あんなバラエティ豊かないろんなタイプの子を揃えているの、最強ですよね。

三宅 今の女の子のキャラクター造形みたいなものの原型が源氏物語にありますよね。

宮田 いや本当、そう思います。だから中高生は絶対源氏物語が好きだと思うんですよね。古典という理由であまり読まれないのが不思議で。もっと軽い気持ちで読んでくれたらいいのに。

三宅 源氏物語回を見て、「こんなこと考えてる人が他にもいたんだ」と嬉しかったです。

宮田 番組のスタッフさんに「このキャラは誰だと思いますか」と相談したら、「いやちょっとわからないですね」と言われました。

「アイドル」と「バレエ」の共通点

三宅 『きらきらし』の五話の中では、「ハピネス」がすごく好きでした。私の友達がバレエをやっていて、バレエをする女の子に憧れがあって。「ハピネス」には、女の子による女の子への憧れっていうのがすごく詰まっている感じがしました。お話の中ではもう少し恋愛に近い感じだと思うんですけど、女の子が女の子をいいなって思う感情って、メジャーな割に適切に言語化されているものって意外とないので、そういう意味でわかる!と思いながら読みました。

宮田 「アイカツ!」っていうアニメで主人公の女の子が先輩の女の子に憧れているのを、「それって恋みたいな気持ちだね」と言われるシーンがあって、憧れって恋みたいな気持ちなんだ、と思っていたのが元になっていて。

三宅 それこそ女の子のアイドルを見ていても、世間でよく言われるような女の子同士がバチバチするだけじゃない気持ちって絶対あると思います。恋みたいな感覚、いい言葉ですね。

万葉文化館
念願の万葉文化館にて

宮田 それから自分の体を使って高めていくところが、アイドルとバレエとで似ているなと思います。

三宅 あとこれは「ハピネス」だけでなく、全体的に愛萌ちゃんの人としての真面目さみたいなものがちりばめられている印象を受けました。どのキャラも真摯というか、あんまり外に出さずに内側で周りの人のことをいろいろ考えてる感じが、愛萌ちゃんぽいと感じました。「ハピネス」の希南は欲しいものを手に入れるけど、全て手に入れてハッピーなわけでもない。そういう真面目さと切なさのバランスが愛萌ちゃんの世界観ぽかったです。

宮田 小学生の頃からの親友が、「ハピネス」を読んで「めっちゃ愛萌じゃん」って言ってました。

三宅 最後の「つなぐ」では万葉集の故地を巡るところがありましたけど、実際に回られたんですか。

宮田 元々プライベートで奈良の万葉文化館とかに行こうとしていたら、写真の撮影が奈良でちょうどいい!と。撮影では時間の関係でゆっくり巡ることはできなかったので、グーグルマップを参考に書きました。

三宅 私、日記の話を読むのが好きなんで、すごくよかったです。万葉集自体も歌日誌の部分があるから、最後が日記で終わるのが万葉集っぽさもあるしいいなと。

宮田 日記って自分しか読まないものだから、余計に思いが詰まっている気がします。日記の文章の中でどこをひらがなにしてどこを漢字にするのかとかで、その人の性格が出る。

三宅 あとは「坂道の約束」で近現代の文学も少し出てきて、近現代までカバーしている!と思いました。

善財童子
安倍文殊院の善財童子と

宮田 近現代はあんまり得意じゃないんですけど、高校生のときに文豪の肖像画のものまねとかして遊んでいました。他にも、高校の体育祭で友達四人と四天王像のポーズで集合写真を撮って、私は多聞天で。そんな仏像のものまねもずっとしていて、今回の撮影でもしました(笑)。安倍文殊院でこの子(善財童子、右の写真)をまねて一緒に撮ったんです。仏像雑誌の表紙にもなっている、仏像界のアイドルらしいんですよ。

三宅 かわいい! 奈良で撮影した写真も、小説とリンクしていていいなと思いました。私は友達とLINEの絵文字二つで文学作品を表すって遊びをしていました。人が走る絵文字と麦の絵文字で、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とか。あとは友達と自転車で二列で走っていて、前から人が来て二手に分かれなきゃいけない時に「瀬を早み~」って言いながら漕ぐとか。

宮田 友達とのその感じ、すごくわかります。

三宅 どんどん文学に日常が侵食されていきますよね。でも、万葉集はそれこそ現代的な日常の感覚とすごく近しいところがあると思います。『きらきらし』の話はどれも身近なんだけど、遠くにも思いを馳せられるところがすごくよかったです。友達から聞く話ぐらいのテンションで読めるけど、実はすごく普遍的な感情が描かれている。短編集だから、最近小説を読んでないなという人も読みやすいと思うし、読んでみてほしいなって思いますね。

宮田 ありがとうございます。万葉集もそうですし、日本文学に興味がある人が読んだら「あっ」と思うところを今回たくさん入れていて、日本文学って面白いんだというのを少しでも伝えられたらいいなと。その一歩としてこの本を軽い気持ちで読んでほしいです。ひとつひとつは短いので、普段読書しない方でも読めると思います。読書の入門編としてぜひ!

三宅 本を出してくれるのは、いちファンとしても嬉しいです。

宮田 私も実は、三宅さんのnoteを読んでいて。面白いです!

三宅 えっ! めっちゃびっくりしました。変なこと書いてないといいな。


 (みやた・まなも 作家/タレント)
 (みやけ・かほ 書評家/作家)

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