書評
2023年8月号掲載
推し妖(あやかし)、久々の登場に歓喜!
畠中恵『いつまで』
対象書籍名:『いつまで』
対象著者:畠中恵
対象書籍ISBN:978-4-10-450730-6
畠中恵さん原作の『しゃばけ』をコミカライズさせていただいた、漫画家のみもりです。
『しゃばけ』との出会いは、お仕事のご依頼をいただく前でした。妖怪好きな私に家族が、「妖怪の出てくる小説があるよ」と教えてくれたのがきっかけです。
柔らかい響きのタイトルだなと思いながら、書店へ向かって手にした『しゃばけ』の装画はほんわかした印象で、可愛らしいお話なのかなと、思い込んでしまいました。
冒頭で説明されていた「しゃばけ」という言葉の説明も深く気にとめることなく読み進めたら、まさかの殺人事件勃発! しかもかなり猟奇的!! ビックリしました。私は、人間のドロッとした感情を浴びすぎるとメンタルが疲弊してしまう傾向があるのですが、『しゃばけ』は、穏やかな性格の若だんなと個性的な妖達とのやりとりが、次々と起きる事件の辛さや犯人のドス黒い部分を緩和していて、心が疲れるどころか、「これだけ温度差のある要素を見事に調和させていて、すごい!」と感嘆し続けながら、読了しました。そして再び冒頭に戻ってようやく、タイトルの意味に、「色々な人と妖の『娑婆気』を書いた作品なんだから、これ以外あり得ないんだ!」と気付き、驚嘆しました。
その後、「小説新潮」2014年7月号に掲載された連載「しゃばけ漫画」十一ノ巻で、「しゃばけ」シリーズの短編「仁吉の思い人」(『ぬしさまへ』所収)を、2017年3月号から「コミックバンチ」で『しゃばけ』のコミカライズ連載を任せていただきました。緊張のまま2023年6月にコミカライズ単行本最終刊を刊行し、とにかく今は無事に終えられたことを、ホッとしております。当初の予定より長めになってしまったので……。支えてくださったすべての関係者の皆さまには、感謝しかありません。
私はコミカライズ作品が多いのですが、コミカライズにあたって、いつも二つのことに気をつけています。まず何より、原作の先生やファンの方々を失望させないよう大切に描き、できることならば皆さんに喜んでもらえるよう、漫画ならではの面白さを追求すること。そして、原作挿画(今回なら柴田ゆうさん)のイラストイメージを崩さないことです。お恥ずかしいことに私は、江戸時代に明るいわけではないので、本作では資料の探し方、キャラクターの魅せ方など、すべてが勉強になりました。「しゃばけ」シリーズは若だんなの成長譚と思いますが、私自身、この作品を通じて、とても成長させていただきました。
キャラクターを描く上でとりわけ悩んだのは、髪型です。現代物のコミカライズの場合、髪型に変化をつけることで個性を出せますが、江戸時代は、身分や仕事、年齢で髪型が決まっているので、それが通用しません。妖はさらにどうしようかと思いましたが、「妖だからね!」という私の勝手な解釈を許していただき、自由に描けたので、ありがたかったです。おかげさまで全ての登場人物を楽しく描けましたが、とりわけ鈴彦姫は筆がのりました。もっと描きたかったですね。ちなみに、好きなキャラクターは屏風のぞきです。なんやかんやいじわるを言っても優しいところがたまらないです。
シリーズ最新作『いつまで』はなんと17年振りの長編とのことで! ワクワクドキドキ、そしてハラハラしつつ楽しく拝読いたしました。実は、シリーズの中で印象深い妖がいるのですが、その妖も少し登場してくれて、うれしかったです。「あの妖がこういう関わりで繋がってくるの……!?」という驚き、そして、「若だんなも、あの妖のこと、忘れていなかったんだね」という喜び、他にもたくさんの感情が入り混じって、私の心は大騒ぎでした。『いつまで』を読み、若だんなたちの未来がますます楽しみになりましたし、騒動を巻き起こした妖が今後どうなっていくのかも、とても気になります。
実は、『いつまで』というタイトルを拝見したときに真っ先に思い浮かんだのが、「この原稿の〆切いつまでなの!?」でした(笑)。私にとって「いつまで」は、“制限時間”という印象が強いのでしょうね。でも、“いつまでも”という意味合いでこの言葉を使えたら素敵ですよね。「いつまでも絵や漫画を描いていたいな」「いつまでも楽しく過ごしたいな」って。そういう風に生きながら何より、妖怪をもっともっと! いっぱい描き続けていきたいです。
(みもり 漫画家)