書評

2024年2月号掲載

食卓を支える生産現場のゆくえ

山口亮子『日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―』

山口亮子

対象書籍名:『日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―』(新潮新書)
対象著者:山口亮子
対象書籍ISBN:978-4-10-611026-9

 日本一の農業県はどこか。こう聞かれたらどの都道府県を思い浮かべるだろう。北の大地・北海道か、米どころの新潟や秋田だろうか。
 本書の目玉となるランキングで1位を飾るのは、おそらくほとんどの人にとって意外な県である。私自身、自分で算出した結果の予想外さに、困ったことになったと思った。当該の県庁にも困惑され、高名な学者からは「えっ、そうなの」と言われ……。完成した本を前に、当初の目論見とずいぶん違う目的地にたどり着いたなと感じている。
 都道府県の農業を費用対効果(コスパ)でランキングする――。この試みが本書の柱となっている。
 農業は効率が悪くて儲からない、だからコスパとは縁遠いと思われがちだ。この認識は誤りで、農業でも百億円以上を売り上げる企業が存在する。
 日本の農業に投じられる予算は多く、全体を捉えれば「補助金漬け」と言っていい状況にある。しかし都道府県別にみると、補助金に極めて依存する県とそうでない県の落差が激しい。
 その違いを明らかにすべく、都道府県の農業の売り上げ額を予算で割り、コスパを算出した。1位がどこなのか、そしてあなたの住む県や出身県がどんな成績なのか、ぜひ確認してもらいたい。
「農業の通信簿」という副題の通り、コスパ以外にもさまざまなランキングを載せている。労働生産性や農地の集積の具合、食料自給率など。都道府県の生産基盤が現在どうなっているか、課題と強みは何かというところまで、なるべく掘り下げたつもりだ。
 その農業の現状は、私たちの生活と分かちがたく結びついている。
 たとえば、昨年からオレンジジュースが販売休止になったり、値上がりしたりしている。世界的な不作や円安が影響しているものの、そうであれば、原料を国産の柑橘に切り替える選択肢もあるはずだ。
 そうならないのは、国内で柑橘の生産量が減っているから。とくに和歌山と愛媛という「みかん県」は、農家の高齢化や人手不足に悩まされ、生産量を落としている。ジュース用には基本的にハネ品を使うので、その供給量は生産量と連動して減ってしまう。
 髙島屋のクリスマスケーキの一部が崩れた状態で届き、年の瀬に謝罪会見が開かれた。その遠因と考えられるのが、昨夏の猛暑が影響したイチゴの品薄だ。品薄には今後拍車がかかると予想されている。根強い需要とは裏腹に、手間がかかるイチゴを栽培する農家は減っていく。
 あなたの食卓の広大なバックヤードである農業現場は、今後どうなっていくのか。それを考えるヒントにぜひ本書を手に取ってみてほしい。


  (やまぐち・りょうこ ジャーナリスト)

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