書評

2024年11月号掲載

世界でも日本でも。ベストセラー投資本の“共通点”

ニコラ・ベルベ、土方奈美 訳『年1時間で億になる投資の正解』(新潮新書)

水瀬ケンイチ

対象書籍名:『年1時間で億になる投資の正解』(新潮新書)
対象著者:ニコラ・ベルベ/土方奈美 訳
対象書籍ISBN:978-4-10-611062-7

『年1時間で億になる投資の正解』――この刺激的なタイトルに、誰もが「本当にそんなことが可能なのか?」と疑問を抱くでしょう。しかし、本書は派手なタイトルに反して、極めて堅実で現実的な投資手法を提唱しています。それは、全世界株ETFへの投資と、あとはじっと待つという「インデックス投資」です。この手法は、近年、投資の世界で高く評価されており、その背後には長年のデータと合理的な分析があります。
 著者はカナダ人のニコラ・ベルベ氏。意外なことに本書では触れられていませんが、ETF(上場投資信託)という金融商品は、実はカナダに起源があります。1990年、トロント証券取引所に上場された「TIPS35」が、世界初のETFです。しかし、カナダ人著者が推奨するのはカナダ株ではなく、全世界の株式に分散投資するETFです。
 それはなぜなのでしょうか。
 私は日本の個人投資家です。会社勤めをしながら投資ブログを書いてきました。今年の元日に惜しくも亡くなられた経済評論家の山崎元さんとは、『ほったらかし投資術』(朝日新書)という本を2010年に上梓しました。山崎さんが仰る「投資にできるだけ時間をかけない、投資でストレスを持たない、人生を大いに楽しむ」という理念に共感したためです。同書はおかげさまでベストセラーとなり、2022年に発売された「全面改訂 第3版」では、私が2002年から始めていたインデックス投資で資産1億円を達成したことも報告させていただきました。
 そんな私にはカナダ人の知り合いはほとんどいません。また、著者のニコラ・ベルベ氏や本書に登場する欧米各国のメディア名、番組名、解説者、金融アドバイザーの名前にも正直にいって馴染みがありません。それにもかかわらず、著者が過去の市場データ、プロの投資パフォーマンス、そして友人たちのエピソードを基に導き出した結論――全世界株ETFが最も効率的だという見解――には強く共感します。興味深いのは、カナダ、アメリカ、日本など、世界各国で同じように市場の歴史を調べ、長期データを分析した結果、多くの専門家が「インデックス投資」という同じ結論にたどり着いていることです。私自身も個人投資家として同じ結論にたどり着いた者のひとりです。
 本書では、金融の専門家たちがいかに誤った市場予測をしているかが、多くの実例とともに紹介されています。カナダやアメリカのメディアや金融アドバイザーたちが登場しますが、これらの名前は日本の読者には知られていないかもしれません。それでも、日本のメディアや金融アドバイザーたちと重なるような既視感があり、世界中で「後付けの相場解説」や「予測の誤り」が広がっている様子が浮かび上がります。
 また、本書には日本の投資家にも浸透している情報が多く含まれています。たとえば、古典的名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』や近年の話題作『サイコロジー・オブ・マネー』、ウォーレン・バフェット氏の賭け、その右腕チャーリー・マンガー氏の教えなど、世界中のインデックス投資家が共通して学ぶ知識が紹介されています。これらの知識を共有することで、読者は国を超えた普遍的な投資の真理に触れているような感覚を味わうことができます。
 日本では、インデックス投資の際、米国株100%のポートフォリオを推奨する意見が目立ちます。これは、ここ数年の米国株の好調さや一部のインフルエンサーの影響が一因と考えています。しかし、著者はカナダ株100%や米国株100%ではなく、全世界株ETFを推奨しています。投資は未来を予測して賭けるものではなく、リスクを広範に分散し、安定したリターンを追求するものだと、著者は多くの事例を通じて強調しています。現在好調な市場にだけ投資するリスクを指摘し、全世界分散投資の重要性を再認識させます。
 最後に、カナダでベストセラーとなった本書のメッセージはシンプルでありながらも非常に力強いものです。投資の世界には多くの道があるように見えますが、その道は「全世界株への投資」という一本道につながっています。本書を手に取ることで、読者はこの真理に向き合い、合理的な投資手法を学ぶ大きな一歩を踏み出すことができるでしょう。特に、将来に不安を抱える日本の若い世代にとって、本書が人生のよき経済的サポーターとなることを心から願います。

(みなせ・けんいち 会社員/インデックス投資ブロガー)

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