書評
2025年1月号掲載
私の好きな新潮文庫
永遠に叶わない目標
対象書籍名:『私にふさわしいホテル』/『つめたいよるに』/『今昔百鬼拾遺 天狗』
対象著者:柚木麻子/江國香織/京極夏彦
対象書籍ISBN:978-4-10-120241-9/978-4-10-133913-9/978-4-10-135353-1
ずっと「性格が悪い役」をやりたいと思って、公言もしてきました。それに、小説家の役にも憧れていて。だから『私にふさわしいホテル』の主人公・加代子役のオファーをいただいたときは「やった!」と。性格が悪い小説家の役、待ってました(笑)。でも、彼氏ができた途端に以前のような小説が書けなくなる、かわいいところも描かれています。映画には出てこないのですが、大好きな場面です。
小説の新人賞を受賞したのに、いっこうに単行本が出せず、文豪気分に浸るために自腹で山の上ホテルにカンヅメになる加代子は、大御所作家の東十条先生を策略で陥れたり、編集者の遠藤に食ってかかったりと大暴れしますが、ただひとつ純粋なところがあります。
それは「いい小説を書きたい」という目標に一直線なところ。いい小説を書いて、たくさんの人に認めてもらいたい。その思いだけはとびきり純度が高いんですよね。そこに共感しました。実は自分と似ているところが多々ある役柄だと思います。
私も、俳優として「誰も到達できないような演技をしたい」というのが最終目標で、それを達成したい一心で突き進んでいるようなところがあって……。世の中には素晴らしい役者さんがたくさんいて、一人ひとり個性も土俵も違うので、すごく抽象的で、永遠に叶わない目標だとわかってはいるのですが、どうしてもそこを目指したくなってしまうんです。
現場で演じているときは、そんな演技が出来たんじゃないか、と思う瞬間もあります。撮影してカットがかかった途端に「私、やってやった。誰よりも輝いてた」と(笑)。でも完成したものを見ると「あれ、こんなだった?」とがっかりしちゃって……。でもずっとへこんでいるのではなく、目標に向かって立ち上がるところも加代子に似ているかも。
へんてこな仕返しをするところも加代子と私の共通点です。加代子のド派手な仕返しには敵わないですが、私も嫌なことを言われたりすると「え~、ちょっとうるさいですね~」とか言い返しちゃいます。秘訣は発声をファルセットにすること! 高めのトーンでふわあっとした感じで言うと相手にはあまりピンとこないみたいで、険悪な雰囲気にならずに、でも言いたいことは言えます(笑)。
江國香織さんの「デューク」(『つめたいよるに』所収)は、2017年に「LINEモバイル」のCMに出演する際に、監督さんから「この作品を読んで撮影に臨んでほしい」と言われた作品です。
飼っていた犬の「デューク」を亡くした女性の前に、デュークらしき少年が現れるというお話ですが、女性の心情には戸惑いもあれば嬉しさも切なさもあって、すごく複雑な気持ちになっていくんですよね。一つではない、重層的な感情を表現するときのほうがやる気が漲ってくるので「頑張るぞ!」と気合いが入りました。
私も中学生の頃、飼っていたハムスターに逃げられてしまったことがあって、大切な存在との辛いお別れでした。「ひとりで生きていけるんだろうか」と心配したんですけど、むこうはよっぽど嫌だったんだろうな……。ハムスターを飼っているあいだに、ダックスフントの成犬を預かった時期があったんですが、その犬が檻から出て、ハムスターを口に入れてしまったことがあって。唾液だらけで仮死状態みたいになって。すごく悲しくて、泣きながらハムスターをお風呂で洗ったんです。そうしたら動き出したんです! でも結局その後、逃げられてしまいました。もし今、そのハムスターが人間の姿で現れたら、謝りたいです。
京極夏彦さんもずっと大好きな作家さんで、ラジオにゲストで来ていただいたこともあります。「薔薇十字探偵社」の榎木津礼二郎が活躍する「百器徒然袋」シリーズや、「京極堂」こと中禅寺秋彦の妹・中禅寺敦子が主人公の「今昔百鬼拾遺」シリーズを愛読しています。
現実の事件を解決するのだけど、霊的な能力を使うところと、現実的な方法とのバランスが魅力です。京極先生の作品の実写化にいつか出られたら……嬉しすぎます。
映画「私にふさわしいホテル」は2024年12月27日全国公開!
(のん 俳優)