書評

2025年4月号掲載

星のようにちりばめられた金言

佐藤航陽『行動する人に世界は優しい─自分の可能性を解き放つ言葉─』

神園智也

対象書籍名:『行動する人に世界は優しい─自分の可能性を解き放つ言葉─』
対象著者:佐藤航陽
対象書籍ISBN:978-4-10-356221-4

 この本に興味を抱いたあなたは、少し変わっているのかもしれない。SNS全盛の今は、誰もが傍観者や批評家になれて、それだけで満足できる時代だ。発信し、評価し、論じることが行動にすり替わり、動かなくても何かを成し遂げたような錯覚さえ生まれる。実際、それで多くの人が満足してしまっている。しかし、あなたは違う。行動に目を向けた。
 本書『行動する人に世界は優しい─自分の可能性を解き放つ言葉─』は、宇宙開発を目指す株式会社スペースデータ代表であり、日本をリードする起業家の佐藤航陽氏が綴った思考の断片を集めた一冊だ。その短くも鋭い言葉の数々は、現実に踏み出そうとする人の背中を押し、行動する勇気を与えてくれる。全5章にわたり、星のようにちりばめられた約180の金言。ここでは、その輝きを拾い上げ、通底する思想を浮かび上がらせてみたい。
 まず初めにやるべきことは、初動のスイッチを押すことだ。やる気が出ないから行動できないのではなく、行動しないからやる気が出ない。動き出してしまえば、意外と何とかなるもので、そこに根拠など必要ない。とりあえず手を動かし、違うと思ったら手を引けばいい。何かを「辞める」ことも立派な行動のひとつだ。
 大切なのは、できるだけ早く自分に正直になり、本当にやりたいことを始めること。行動すれば敗北することもあるが、傍観者になるよりはずっとマシだ。「考えてた」という人は無数にいるが、実際にやる人は1%にも満たない。そう考えると、行動する人に世界は思いのほか優しいのである。
 次に、変化を恐れてはいけない。成長スピードの速い人は、自分の弱さを認め、現状から変わる勇気を持っている。そして、周囲の目を気にせず、変化した先にある未来の可能性を優先する。
 もし今が順調で、変化の必要性を感じないのなら、それは停滞の予兆かもしれない。順調なのは、たまたま今の環境に適応できているだけにすぎない。しかし、環境は常に変わる。だからこそ、認識をアップデートし、新しいことを学び続けることが重要だ。
 特に今は、物事の不確実性が高いVUCAの時代。そんな状況では、成功や勝利をゴールとせず、変わることをためらわないことが鍵になる。その変わる努力の方向性さえ間違っていなければ、人は勝手に前へ進んでいく。
 そして、チャンスを見逃してはいけない。大きな波がきたと感じたら、思い切って飛び込むことが大切だ。そのとき、あえて「バカ」になってみる。慎重に計画を立てるより、考えすぎずに動く方が大きなリターンにつながることが多い。
 また、経験を積むほど、人は過去の事例に縛られ、身動きが取れなくなる一方で、何も知らないからこそ、大胆に動けることもある。それゆえ、無知で固定観念にとらわれない人には、いつまでもチャンスが巡ってくる。もちろん、失敗することもある。だが、チャンスをものにした成功者は実際には何度も挑戦し続けた「失敗のプロ」であることがほとんどだ。
 加えて、行動には心の健康も欠かせない。メンタルは目にするもので作られる。まずは空間を整えることが効果的だ。環境の乱れは思考を曇らせる。必要のない情報に触れないスキルも大切だ。次に、当然だが、よく眠ることも重要だ。しっかり休めば、時間を有意義に使えて、精神も安定する。
 そして、知っておきたいのは、メンタルの安定は「心の強さ」ではなく「支えの多さ」によって決まるということ。頼れる場所があるからこそ、人は大胆に行動できる。居場所=逃げ場は多いほうがいい。
 ところで、ここまで踏まえて、最終的に行動が実を結ぶかどうかは、運の影響も無視できない。その運を運んでくるのは、人との縁だ。夢や情熱を持っている人と過ごす時間が増えるほど、調子が上向いていくように、人生とは「誰と過ごすか」の選択に大きく左右されるものだ。
「周りにいる人の平均が自分である」という言葉があるように、尊敬できる人や切磋琢磨できる人の近くにいれば、物事は自然と良い方向へ進んでいく。大切にすべきなのは、調子の良し悪しにかかわらず、自分の活動を「点」ではなく「線」として見てくれる人。また、自分と同等以上の熱量を持ち、夢を笑わない人こそが、行動を後押ししてくれる。
 さて、このように、佐藤氏の言葉が伝える思想をまとめ上げてみた。しかし、ここに書いたのはほんの一端に過ぎない。本書には、さらに多くの示唆に富んだ言葉がちりばめられている。ぜひ実際に本を手に取り、その言葉に触れてほしい。ページをめくるたびに新たな発見があるはずだ。
 そして今度は、あなた自身が行動する星となり、誰かを照らす番だ。そうして、行動する人が増え、その光が広がっていけば、世界はもっと優しくなる。

(かみぞの・ともや 青山ブックセンター本店書店員)

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