書評

2025年4月号掲載

どれが正解かなんてわからない

毎日新聞取材班『出生前検査を考えたら読む本』

東尾理子

対象書籍名:『出生前検査を考えたら読む本』
対象著者:毎日新聞取材班
対象書籍ISBN:978-4-10-356181-1

 今年中学生になる長男、小学校の3年生の長女と入学を控える次女……慌ただしくも楽しい子育て真っ最中です。そんな中、本書を読みました。興味がある分野でしたので、どんどんページをめくっていきました。登場する女性の言葉や心の動きは自分のことのように共感でき、少し遠くなりつつあった妊娠当時を鮮明に思い出しました。
 長男を授かったのは2012年、36歳の時。
 2009年に夫・石田純一と結婚後、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、妊活、不妊治療を始めます(「不妊」って、ちょっとネガティブな響きがあるので、私は「TGP(Trying to Get Pregnant=妊娠しようとがんばっている)」と呼んでいます)。望めば叶うと思っていた赤ちゃんをおなかに迎えること、それは決して思い通りにいかない、いくつものプロセスを必要とする至難の道のりでした。
 3回目の凍結胚移植をして6日目の朝、セルフチェックをして一瞬、「うーん……残念?」と思ったものの、夜になって見直すと検査キットの判定線が出てる!! 「うっひょー!」夜中にもかかわらず仕事で外泊中の主人に電話すると、とても喜んでくれて、彼が嬉しそうな様子がさらに私を喜ばせ、興奮が冷めやらなかった思い出です。
 そして妊娠15週の時、年齢のこともあって、ダウン症候群などの確率を調べるクアトロテスト(母体血清マーカー)を受けました。当時はつわりがとにかくひどい時期で、検査の詳しい意味にも考えが及ばない状態。受け取った結果はダウン症候群の可能性が82分の1というものでした。
 結果を確定させるのが羊水染色体検査で、「念のために」と主人も受けるよう言ってくれたのですが、私の中に芽生えた「どんなことがあっても産んで育てる……守っていくんだ」という思いは変わりません。羊水検査は受けませんでした。今になれば検査が、自分がおなかの赤ちゃんの母親である自覚を強くするきっかけになったと思います。
 検査の経緯をブログに掲載すると、コメント欄にたくさんの様々な反響がありました。
 2人目も治療を続けた末に、3人目はその時に取っていた凍結受精卵の移植で、妊娠しました。2人目の時だけ、NIPT(新型出生前検査)を受けています。本書でも詳しく書かれていますが、検査について説明を受ける「遺伝カウンセリング」も主人と一緒に受けました。
 検査ではどういうことを調べ、「陰性」「陽性」いずれかの結果はどのような意味を示すのか。染色体の重複・欠損の可能性がある「陽性」結果を受けた場合、どうなるのか。時に深刻な重い話題も淡々と話され、一瞬引きそうになりました。でも、この「あらゆる状況、情報を事前に聞いておく」ことがいかに大切だったのか、取材班の質問に答える専門医のお話を読んで改めて理解しました。
 本書によると、妊娠が分かって、初期段階で検査可能なNIPTを受ける人が増えているそうです。「陰性」結果になる確率が高い検査だからか、「安心のため」と、日本医学会から認証されていない、産科医や遺伝専門医などもいないクリニック(多くが美容系。ネット検索で簡単に調べられるそう)で受ける人も多いとのこと。十分なカウンセリングを行っていない無認証施設では、当然「陽性」結果が出てもフォローがないため、慌てて産科にかけこむ妊婦さんもいるそうです。私も、知り合いの産科医さんに同じ話を聞いたことがありますので、NIPTの現状について知るために本書を手に取られたらいいと思いました。検査を含め何らかの選択が必要な時に、妊婦さんだけが悩んだり傷つかないように支えていくにはどうしたらいいのか? 取材班は自らにも問いかけるように記しています。
 妊活中は自分の勉強を兼ねて、その後は経験者として、ボランティアで「TGP」仲間と交流して15年ほどになります。月に1回の対面イベント(「お茶会」と呼んでいます)、週1回のオンライン・ミーティングなどで接する女性たちには、かつての自分の姿を見る思いです。「子供は神様からの授かりもの」と言う通り、準備万端整えても、こちらの都合だけで赤ちゃんはやって来てくれません。ですからすでに十分がんばっているみなさんに、私は「がんばって」とは言いません。妊娠・出産にまつわることには人それぞれの考え方があるし、何が良い・悪いも決められないし、どれが正解かなんてわからない。だから「私が出した答えが一番の正解」と信じて過ごした自分の経験から、どんな場面でも「あなたが出した結論が正解だよ」ということは伝えたいと思っています。

(ひがしお・りこ プロゴルファー/コメンテーター)

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