書評

2025年5月号掲載

科学の最前線は、論文にあり!

池谷裕二『すごい科学論文』(新潮新書)

池谷裕二

対象書籍名:『すごい科学論文』
対象著者:池谷裕二
対象書籍ISBN:978-4-10-611084-9

 このたび、『すごい科学論文』という、研究者としてはやや大胆とも言えるタイトルの書籍を刊行する運びとなりました。この本は、私が日々目にする最新の科学論文の中から「これは!」と思わず唸ってしまったものを厳選し、独自の解釈を交えつつ紹介する一冊です。
 日常的に、毎日の楽しみとして論文を読み漁ることが習慣化しており、平日は最低100本、多い日には500本、年間では5万本近い論文と接しています。
 それでもまだ連日世界中で発表される論文の量に比べれば微々たるものですが、その大海原から、ダイヤモンドのように光り輝く「すごい科学論文」を見つけ出し、皆様と分かち合いたいという思いが本書を書く原動力となりました。
 なぜこのような情熱が湧き上がるのか。それは、私自身が現役の研究者だからです。研究者は常に最新情報へとアンテナを張り巡らせ、新たな領域への挑戦を続けます。まるで漁師が新鮮な魚を狙い続けるように、研究者もまた、最先端の知見を素早く捉えることが重要で、それがまた、やり甲斐にも繋がっています。
 この書籍は「週刊新潮」で連載していたエッセイをまとめたものです。書籍化に際し、全連載を読み返してみると、生命の神秘から最新テクノロジーに至るまで、実に多様な内容が詰まっています。
 私自身の年齢による変化なのか、以前は脳研究者として神経科学の話題に焦点を当てていましたが、今は科学全般に視野を広げ、多彩なテーマに挑んでいます。これが思いの外面白く、まるで万華鏡を覗いているかのように、自身でも新たな発見の連続でした。
 アルツハイマー病や記憶に関する脳科学的な話題はもちろん、猫のゴロゴロ音の原理、おっぱいの進化的意味、生成AIの勃興、縄文土器の謎、さらには鶏肉の扱い方にまで話題が及びます。まさに科学という巨大なブルドーザーが地ならしをするように、あらゆる分野で果敢に進化を遂げていることの反映です。
 科学は常に私たちの世界観を揺さぶり、新たな視点を提供してくれる存在です。時には私たちがより良く生きるための手がかりも示してくれます。科学の最前線でどのような発見が繰り広げられているのか、少しでもご興味をお持ちの方には、ぜひ本書を手に取っていただきたいと思います。
「すごい科学論文」は日々新たに生まれています。知的好奇心の扉を開き、科学の驚異と感動に満ちた世界を心ゆくまでお楽しみいただければ幸いです。

(いけがや・ゆうじ 脳研究者・東京大学薬学部教授)

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