書評
2025年10月号掲載
消費者悩ます米価の二極分化
山口亮子『コメ壊滅』(新潮新書)
対象書籍名:『コメ壊滅』
対象著者:山口亮子
対象書籍ISBN:978-4-10-611100-6
新米・高知県産コシヒカリ 3980円(税抜)
国産備蓄米 3980円(同)
8月下旬、近所のスーパーのコメ売り場で、同じ価格のコメが並んでいた。同じと言っても、袋の大きさは全く違う。前者は5キロ、後者は倍の10キロである。
あまりの違いに、売り場を訪れた客は、値札としばし睨み合うことになる。30代と思しい男性客が、意を決したように高知県産コシヒカリの袋を摑み、レジへと大股に歩いて行った──。
男性の一大決心(?)は、現状のコメの流通を踏まえると合理的と言える。この時期に買える新米で、高知県産は割安だからだ。
温暖な気候の高知県は、通常より早く収穫する早期米の産地だが、コメ業界では、JAのモチベーションの低さで知られている。あるバイヤー(買い付け担当者)は、当地のJAについてこう話していた。
「やる気がないんだ。高く売る気がないんだよ」
JA高知県が示した2025年産の概算金(農家への仮払金)は、60キロ当たり2万2000円(一等米コシヒカリ)。前年産より5割近く高い。
そうではあるが、早期米の他の産地が示した概算金に比べると、やはり見劣りする。鹿児島は2万7000円程度、宮崎は3万2000円程度だ。
そんな高知県産の新米ですら、備蓄米の倍の値が付いている。いわんや他産地をや。千葉県産ふさこがねは、5キロ4280円(税抜)という、備蓄米より1割近く高い値段で売られていた。
ふさこがねは収量が多く、冷めても味が落ちにくいとされる。どちらかというと、中食、外食といった業務用に好まれる。それがこの高値である。
同じ価格で倍の量を買えるのが、小泉進次郎農相が放出した備蓄米「小泉米」だ。ただ、この小泉米のコメ業界における評判は芳しくない。
古い備蓄米は、貯蔵の過程でカビが生えたり食味が落ちたりしやすく、品質を担保しにくい。コメ卸からすると、江藤拓前農相が放出した比較的新しい「江藤米」と違って、消費者から経年劣化に対するクレームが届きかねないという心配があった。だから、小泉米の販売者は、スーパーなど小売店になっている。
もともと8月に売り切るはずの小泉米は、大量に売れ残っている。安いコメの選択肢を残すとして、引き続き店頭に並ぶことになった。かたや新米は、早期米に限らず東北をはじめとする大産地も、強気の値付けをしている。
新著『コメ壊滅』では、このようなコメを巡る様々な「歪み」の原因を探った。それにしても、店頭価格の二極分化はいつまで続くのだろうか。
(やまぐち・りょうこ ジャーナリスト)