書評
2025年12月号掲載
父になって初めてわかった「ガラスの宝物」
オッドジョブ 絵、たけむらたけし 文『アイラブみー うまれたことがなんですごいの?』
対象書籍名:『アイラブみー うまれたことがなんですごいの?』
対象著者:オッドジョブ・絵/たけむらたけし・文
対象書籍ISBN:978-4-10-355182-9
「うまれたことがなんですごいの?」という絵本のテーマ、自分自身の経験からもすごく共感しました。僕は今、子どもが2歳になったばかりですが、赤ちゃんを授かったときも、エコーで「ここが指になってきますよ」「手足になってきますよ」って見せてくれるのも、ちっちゃいのにバクバクバクバク心拍数を感じたりするのも「すごい」と思いました。絵本でもパパとママの「あかちゃんのもと」の話がありましたが、僕とパートナーの「あかちゃんのもと」が結びついて、人間のかたちに形成されていくのがもうすごいこと。絵本でも「みーがここにいることはとてつもないきせき」ってありましたけど、まさにそうで。パートナーの妊娠中は、いつ壊れてしまうかわからないガラスの宝物みたいなものをずっと抱えているような感覚でした。妊娠中の大変なことをたくさんクリアして、パートナーがお腹を痛めてやっと赤ちゃんが生まれてきたときに、「そうか、自分もこれを経験して今があるんだ」とわかったし、大切にしなきゃいけないなと思いました。僕たちは奇跡的に授かれたんだから、真摯に向き合って寄り添っていくべきだなと思うし、自然にそうなりますね、やっぱ。
でも、実際に育児が始まってみると、理想と現実は違ってもいて。一人目ということもあり、「24時間夫婦で完璧にやりきらなきゃ」と思い込んでいたんです。一緒にいたいって気持ちもあるし、それが当然みたいな。全然眠れてないのに、みんな経験してんだから俺らが頑張らないと駄目でしょ! と、シッターさんや産後ケアも、何となく使っていなくて。幸せの中にいるはずなのに、心も体も限界で、それにすら気づかないような状況でした。その後、子どもが保育園に通い始めてから、パートナーとお互いにぐっすり眠って、久しぶりに座ってご飯を食べて、ということを経験したときに、完璧って実はあるようでないのかな、と思ったんです。だから、二人だけで完璧な子育てを目指すんじゃなくて、もっとたくさんの人に関わってもらって、育児ってそれぐらい大変なことなんだよっていうのを認識するのが大事かもしんないっすね。「助けて」と手を挙げてみれば、手をパシッと取ってくれる人が世の中にはまだまだいて、そういう世界で生きてるんだから、もっと助けを求めていいんだって思います。もし第二子が生まれたら、絶対にそういうケアやサポートを使いまくります!
僕も実はこの前、初めての絵本(『しっぽのみじかいとかげくん』)を出したんですが、根っこにあるのは「自分の存在って尊いんだよ」という思い。『アイラブみー うまれたことがなんですごいの?』の絵本にも、まったく同じメッセージを感じて。命が尊いことを語るだけじゃなくて、「なんで尊いのか」までちゃんと掘り下げてアウトプットしているところに感動しました。
僕の描いた「とかげくん」は、他のとかげよりしっぽが短い。つまり「足りない」存在です。僕もアドリブが苦手で、プレッシャーに弱いところがある。逆に相方はそれに強い。でも、お笑いの世界って、そういう「足りなさ」を笑って受け入れてくれる場所でもあるんですよね。だから、世界線が変わると、実は長所になったり、ポジティブに変換されることもある。一つの世界にとらわれないで違うコミュニティへ行ってみたりとか、角度を変えると、自分の中で消化できると思うんですよね。
足りない部分があっても、自分の存在は尊いんだ、ということ。そして、だからこそ協力したり、助けを求めたりして世界が広がること。そんなことを子どもたちにも感じてもらえたらいいなと思っています。
今ってSNSとかですごく周りがキラキラして見えちゃう時代なんで、そういうものばっかり目が行くんですけど、発信する人がそう見せてるだけの場合もある。だから、自分を大事にするという「アイラブミー」な状態にするために、子どもには、ないものを数えるより、自分が持ってるものに目を向けて、例えば君は目標に向かってちゃんと努力できるよね、君のこういうところって素敵だよね、と気づかせてあげたいし、肯定してあげられる親でありたいなと思います。あとは親自身も自分をしっかり肯定して、自分の人生をちゃんと楽しんでいることが、結局子どもの自己肯定感を上げるような気がしてるんですよね。「既に最高!」っていうか。どうしても、さらにさらに上を目指してしまいがちなんですけど、今君は十分かっこよくて、十分素敵だよみたいな。僕もそう思えるようになってきてすごく楽になったし。人生が充実してきた気がします。
今あるものを見て、こんなにたくさんのものに支えられてると思えたら、最高ですよね。自分は既にすごい、ってことが『アイラブみー』や僕の絵本で感じてもらえれば嬉しいですね。
(りんたろー。(EXIT) 芸人)




