書評

2026年3月号掲載

日本語の力で世界を平和に

松元崇『武器としての日本語思考』

松元崇

対象書籍名:『武器としての日本語思考』(新潮新書)
対象著者:松元崇
対象書籍ISBN:978-4-10-611114-3

 世界は力がものを言う帝国主義の時代に先祖返りしてしまっている。米国のトランプ大統領は、200年も前に唱えられた「モンロー主義」をもじった「ドンロー主義」を掲げてベネズエラに侵攻し、力を背景にデンマークにグリーンランドの売却を迫っている。国際法違反ではとの問いには、なんと「国際法は必要ない」と応えた。中国も同じだ。自国の権益拡大のために南シナ海のサンゴ礁の大規模な軍事基地化を進めているが、ハーグの常設仲裁裁判所が出した裁定を「紙屑」だとした。ロシアも、古代ルーシ以来の歴史を持ち出してウクライナへの軍事侵攻を行っているが、紛争の平和的解決をうたう国際連合憲章の精神などどこ吹く風だ。
 かつての帝国主義の時代には、そんなやり方が当たり前だった。東部13州の小さな領土だった米国が今日のような大国になったのは、帝国主義列強のフランスやロシアからルイジアナやアラスカを購入し、自国より弱いメキシコやスペインとは戦争をしてテキサスやカリフォルニアを獲得し、フィリピンを植民地化したからだ。太平洋の平和な島国だったハワイ王国は武力を背景に併合してしまった。
 そんな帝国主義の時代に、黒船による開国後、独立を維持しながら西欧文明を取り込んで近代化を成し遂げていったのが日本だ。実は、その背景には、他国の文化を縦横無尽に取り込むことが出来る日本語があった。そのような日本語には帝国主義に先祖返りした世界を平和にしていく力があるはずだというのが本書に込めた筆者の思いだ。それは、かつて漢字を日本語化することによって中華文明を縦横無尽に取り込みながら、中国大陸で興亡を繰り返した強大な帝国の属国化することなく、独自の文明を築き上げてきたことで証明されている。
 日本語は、周りの人々との、その時々の関係を取り結ぶことを大切にする言語だ。周りの人々との関係で最も大切なのが夫婦関係だが、日本では古代から男女が恋愛を歌の交換によって行ってきた。そんな伝統は、日本以外のどこにもない。日本語は、人への思いやりを大切にする言語なのだ。ただ、思いやりばかりでは、今日の帝国主義の時代、自己主張を前面に押し出す英語や中国語に負けてしまう。現に、筆者が霞が関で経験した日米協議などでも負け続けだった。
 それでも最近では、そうでもない事例が出てきている。相手を知るようになってきたからだ。その第一歩は、日本語が英語や中国語とは全く異なる言語だということを知ることだ。日本語には西欧的な主語がないことや、「ほら話」を大切にする言語だといったことも知らなければならない。そういったことを知って「武器としての日本語思考」を生かしていけば、大国ではない多くの国々と連携して日本語の力で世界を平和にしていくことが出来るはずだ。

(まつもと・たかし 国家公務員共済組合連合会理事長)

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