書評
2026年10月号掲載
人生の心づもりが変わってくる
大木奈ハル子『小さく暮らす―25m²のゆたかな生活―』
対象書籍名:『小さく暮らす―25m²のゆたかな生活―』
対象著者:大木奈ハル子
対象書籍ISBN:978-4-10-357191-9
昔、まだ三十代の時に、ある経済評論家の方が「知り合いの女性が会社員からフリーランスになる時、なけなしの貯金をはたいて、蒲田にワンルームマンションを買った」という話を書いていました。当時、六百二十万円。フリーのライターになった彼女は収入が激減し、年収百万円生活に。でも、家賃がいらないという安心感は大きく、精神的には安定していたそうです。さらに、それから一年後、結婚することになったのですが、さすがにワンルームに二人は住めない。どうしたのか、というと、なんと同じマンションの隣の部屋が空いていたのでそこを買い、ベランダの仕切りをとって行き来できるようにした、ということでした。
本書を読んですぐに思い出したのはその話で、というのは、私はとても元気をもらったからでした。そんなふうに暮らせるんだ、そんなふうに生きられるんだ、と気持ちが軽くなったのです。
東京で一人暮らしするなら普通の部屋でも家賃八万以上? いや、もっとするかな。でも、会社からある程度近くに住まないといけないよね? わあ、お給料の大半はなくなっちゃう……それから結婚したら新築マンションをペアローンで買わなくちゃ、え? 今年の都内新築マンションの平均価格は一億円を超した……!?
というふうに「普通」を追求していたら、不安しかなくなってしまう。そんなあなたに詳しく「こういう住み方もあるよ? あんな生き方もあるよ?」といろんな方法を手渡してくれるのが本書だと思います。これを知っているのと知らないのとでは、その後の人生の心づもりが変わってきます。ぜひ、これからどうやって生きていこう、と考えている若い方に読んで欲しい。東京で不動産を買う、ということの基本的知識も学べます。
二十三区内の利便のいい場所で駅近、でも、小さい部屋に住むか、逆に郊外の広い家、自然の中で住むかというのは完全に好みの問題ですし、年齢によっても変わるでしょう。でも、利便性の高いところなら、家やキッチンが狭くても、
──街全体を自分の「リビング」として使いこなせばいい。と考えるのは素晴らしいアプローチだと思います。
いや、今、都内はどこも高いし、港区なんて無理無理……と思っても、不動産屋のアプリに「港区 マンション 築年数不問」と設定して、毎日チェックしていたら、思いがけない掘り出し物に出会い、週末、内見に行くことになるかも……。
また、大木奈ハル子さんの家づくり、部屋作りでいいな、と思ったのは、こういう「狭い部屋」「少ない物」で暮らしています、という方は何もない、殺風景なインテリアになりがち。白木の家具、白いベッド、黒い服がほんの少しだけ部屋に置いてある……無印良品の店先ですか? というような。それはそれでもちろん素敵なんですが(私も迷ったら無印に行きます)、ちょっと画一的というか……でも、大木奈さんの部屋はかわいいクッキー缶を収納アイテムに使っていたり、フィギュアや漫画の原画を飾っていたり、とてもチャーミング。物の少ない生活でも、好きな物に囲まれていてもいいのね、と安心させてくれます。
節約大好き人間としては、野菜は外食だと高いのに、肉とお米は外食の方が安いという「主食はテイクアウト、野菜は冷蔵庫」という提案が、なるほど、と膝を打つ思いでした。
実は、私はずっと前から著者の大木奈ハル子さんを存じ上げています。たぶん、六、七年前、SNSでバズっているのを見て、ブログを読み、小さくてちょっと古いけど、都心の素敵なお部屋で暮らしている方として認識しました。その後、「マツコの知らない世界」で朝のモーニングセットの人として出ていらした時には「あ、あれー? この人知ってるー!」と喜びのあまり声が出てしまったほど。そう、実はかなりファンなのです。
その大木奈さんが本を出されると聞いて最初から興味津々でした。そして、やっぱり、期待は裏切られなかった。今回は、その人生をじっくり読ませていただいたのも嬉しいことでした。
お部屋の作り方はもちろん、ペットの飼い方、(モーニングをはじめとした)外食、マカロンのサブスク……人生を楽しまれることに貪欲な方だなあと読みながらつくづく思いました。
人生はいろいろある。つらいことも。だけど、楽しいこともいっぱい! そのパワーが本からあふれています。
私たちは自由。いつからでも始められる。
そんな気持ちを改めて教えてくれた一冊となりました。
(はらだ・ひか 小説家)


