インタビュー
2013年3月号掲載
刊行記念インタビュー
警察小説と恋愛小説の邂逅
『ドンナ ビアンカ』
41歳の純粋な男と27歳の儚い女。二人の不器用な恋愛が誘拐事件を導いたのか――。中野署管内で誘拐事件が発生した。被害者は新鋭の飲食チェーン店専務。身代金は二千万円。練馬署強行犯係の魚住久江は、かつての同僚・金本と共に捜査に召集される。そして、極秘裏のオペレーションが始動した。
対象書籍名:『ドンナ ビアンカ』
対象著者:誉田哲也
対象書籍ISBN:978-4-10-130873-9
――『ドンナ ビアンカ』は「ドルチェ」シリーズの第2弾ですが、魚住久江をヒロインにした本シリーズを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
これまでも色々な警察小説を書いてきたわけですが、たとえば、「ストロベリーナイト」シリーズでヒロイン姫川玲子が解決してきたような、猟奇殺人事件が苦手な方もいらっしゃるわけです。そういう方にも読んでいただける警察小説を書こうと思ったのが始まりです。
なので、所轄署を舞台にし、特捜本部が立つような事件ばかりではなく、「これが事件なの?」と思われるような小さい案件を扱うことにしました。実際、そういう事件はたくさんありますしね。ヒロイン像は、玲子のように強烈な個性を持つタイプではなく、落ち着きがありゆったりしていて包容力がある女性にしようと。こうして練馬署の魚住久江が誕生したのです。
――本作は久江が誘拐事件を追いかける長編小説ですが、なぜ誘拐を題材にしたのですか。
僕は、ヒロインの個性に合わせて、そのシリーズで扱う事件を決めるんです。捜査一課に強行犯二係という事件を割り振るセクションがあるのですが、気分的には彼らに近い感じですね。たとえば姫川玲子は捜査一課殺人班に属しているので、人が死なないと捜査が始まりません。玲子には殺人事件しかないわけです。でも久江には「人が死ぬ前に事件にかかわりたい」という強い想いがあります。そんな彼女で長編を書くなら、生きている人間が巻き込まれて、全ての関係者を生きたまま救える可能性がある大きな事件がいい。そこで誘拐はどうかと考えました。
――中国人女性との偽装結婚もテーマの一つです。
池袋のチャイナタウン化を調べている時に、偽装結婚に関する興味深い記事を読んだんです。偽装結婚にもかかわらず、気持ちが通じ合っているような印象をうける夫婦がいると。どうやら、男性に何かしらの考えがあって相手の女性を遠ざけているらしいと書いてあって、こういう関係性なら、事件と絡めて面白いものになるのではないかと思ったんです。
――偽装結婚してしまう村瀬はもう一人の主人公ですが、モデルはいるのですか?
若い頃に水商売のアルバイトをしたことがあったので、村瀬のような人は身近にいましたね。今いる状況から抜け出したい、でもその方法も思いつかず、ちょっと諦めながら生きている感じの人……。そして、そういう人だからこそ巻き込まれてしまう事件もある。久江の物語なら彼らにスポットを当てることができるかなと思い、村瀬を登場させました。それに僕自身、もしかしたら村瀬のような人生を送っていたかもしれないという想いがあるので、彼のような男の気持ちを書いてみたかったのかもしれませんね。
――村瀬のパートは恋愛要素も多分に含まれています。
実は、今まで恋愛小説に全く興味がなかったんです。恋愛が成就するかどうかだけって、つまらないなと。けど、第1作目の『ドルチェ』を書いていく過程で、登場人物の関係性に想い入れをもって読んで下さる方が意外に多いと知り、だったらこのシリーズは、事件の鍵が恋愛になるようにしてみようと思ったのです。なので、村瀬パートは必然的に恋愛要素が多くなりました。本来は事件関係者の恋愛まで捜査しなくてもいいのですが、久江はそこまで捜査するからこそ、事件を解決できる。だから、「恋愛捜査」シリーズなんです。
――新ジャンルの創出ですね!
今までなかったでしょ(笑)。僕はジャンル作家ではないので、自分が書きたいカテゴリーをそのときどきで選択するわけですが、純粋な恋愛小説と呼べる作品は興味がなかったこともあり、まだ挑戦したことがありません。「ドルチェ」シリーズは警察小説と今後書くかもしれない恋愛小説の橋渡し的作品になったかなと思っています。
――『ドンナ ビアンカ』でその流れが結実しました。今後の展開はどうでしょうか。
久江の人となりのように、ゆったりと書けたらいいかなと思います。小さなエピソードを重ねていくうちに久江も変わっていくところもあるでしょうし、先輩刑事の金本や後輩の峰岸との関係も、並行して動いていくんじゃないですかね。
(ほんだ・てつや 作家)