インタビュー

2014年5月号掲載

『料理で家庭がまるくなる』刊行記念 インタビュー

大切なことは自分の手で作ること

浜内千波

対象書籍名:『料理で家庭がまるくなる』
対象著者:浜内千波
対象書籍ISBN:978-4-10-335571-7

――初めてのエッセイ集となりますね?

 はい。レシピの本は200冊以上出させていただいているんですが、こうした本は初めてなんです。何度かお話はいただいたことはあるんですが、そのたびに、まだ時期じゃないとお断りしていました。60歳に近づいてようやく、何か言ってもいいかなと。

――読者に一番伝えたいことは?

 料理を作ってください(笑)。本のカバーにもありますが、極端な話、おにぎりでもいいんです。手がこんでなくても上手じゃなくてもいい。大切なことは自分の手で作ること。どんな料理でも、作る時って必ず食べる人のことを思います。「これ好きだったよね」「これ身体にいいはず」とか。そうした思いは、必ず食べる側に伝わるものなんです。出来合いのお惣菜ではそうはいきません。

――なぜ、自分の手を通すと思いが伝わるんでしょう?

 料理は買い物から始まります。「今、これが旬だな。これ食べるときっと元気になる」なんて思い浮かべながら材料を入手する。そして家に帰って料理して食卓を囲むと、自然と目の前にある食べ物の話となる。「今日、○○が旬で安かったの」「これ、少し辛いかな」「辛味は今度、○○にしたらいいかも」……。こうして料理を通して会話が生まれ、会話を通して相手への思いやりが自然と伝わる。これは夫婦間でも親子の間でも同じこと。その毎日の積み重ねが家庭なんですね。

――スクールに入るには3年待ちと聞きましたが。

 60名が2クラスの計120名。それ以上、増やしません。皆さんおやめになりませんから余計ですね。私の師匠である岡松喜与子先生が生前、自分の目の届く範囲で仕事をしなさいと口を酸っぱくして言っていて、それが体に染み付いているんですね。20代から上は70代まで、全員の名前はもちろん人となりまでこの頭に入っていますよ。

――単に料理を教える教室という感じじゃないですね。

 もちろん作り方は説明します。でも、それだけじゃない。「○○さん、ご主人の具合どう? 少し塩分を減らしてこうしたらいかが」「○○にはこれがいいらしいわよ」とか。料理している時も、始終、口は動かしています。素材について、昔私が母から教わったこと、栄養や健康のこと……。料理が終わって食事をする時もみんな自然といろんな話になっている。夫や子供、親のこと。病気や悩み。ひとつのものを一緒に作って、一緒に食べるから自然と話せるようになる。料理って本当に不思議な力があるんです。

――九州から飛行機で通って来る人もいるとか?

 ええ、他にも名古屋、長野、福島、茨城からも。

――ところで、徳島のお父様は相当恐い人だったようですね?

 先週も姉が東京に遊びに来ていたんですが、「恐かったねえ」と思い出話をしていました。

――お母様は?

 父が厳しかった分、母はやさしかった。でも、何だかんだいっても家の大黒柱は母でした。女は家の中心にいるべきなんだと母は生き方で教えてくれました。

――ふかし芋など、おやつも作ってくれたそうですね。

 手品師のようにいろいろと。姉と話をしていても、ほとんどが食べ物の話題でした。魚をよくいただいて鍋料理が多い家でした。えっまた鍋って感じで(笑)。でも、あれから何十年たっても料理の話で盛り上がることができるんです。

――本の中で、子供のお稽古ごとに料理を入れるべきと力説していました。

 九州で子供に向けた料理教室を開いているんです。みんな目がぴかぴかしていますよ。最初はもじもじしていた子も、すぐに「したい! したい!」。もちろん包丁も使わせます。「食」って生きる基本ですよね。それを自分の手で作り出せるというのは本能をくすぐるんだと思います。教室で作る喜びを知れば必ず家でも手伝いをしますしね。料理の力を知っている親は、必ずといっていいほど子供に料理をさせています。

――料理を通して、これから先したいことはありますか?

 日本の家庭料理を海外の人に知ってもらいたい。高級な日本料理ではなく、栄養バランスを考慮した美味しい手料理を。受ける素地は十分あると思っているんです。

 (はまうち・ちなみ 料理研究家)

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