インタビュー
2016年2月号掲載
『「全世界史」講義 Ⅰ古代・中世編/Ⅱ近世・近現代編 教養に効く!人類5000年史』刊行記念特集 インタビュー
歴史はたった一つ
対象書籍名:『「全世界史」講義 Ⅰ古代・中世編/Ⅱ近世・近現代編教養に効く!人類5000年史』
対象著者:出口治明
対象書籍ISBN:978-4-10-120772-8/978-4-10-120773-5
――まず本書のコンセプトになっている「5000年史」について教えてください。
5000年史とは、文字が生まれてから現在まで続く、世界のたった一つの歴史を名づけたものです。歴史というと、東洋史、西洋史などと分けることが多いのですが、昔は国境などなくて、世界はつながっていました。だから歴史も世界全体を一つとして見るのが自然だと思います。
また、なぜ5000年かというと、文字の誕生が5500~5000年前だからです。現生人類が誕生してからの20万年を人間の歴史とする考え方もあるのですが、文字のない時代は、たとえ物証があっても、すべては想像の世界です。一方、文字があるということは、そこには人間が生きて考えた証拠があるわけです。そうすると歴史ときちんと呼べるのは、やはり5000年ではないかと。
――本書を読んでいると、歴史の大きな流れがよくわかり、歴史的な事柄がなぜ起きたのかということも理解できます。
僕は素人ですから、自分の学説があるわけではありません。この本に書いてある説は、すべて世界中の優れた学者が書いたものです。たくさんの本を読んで、腑に落ちたものだけを自分の言葉で書き直したという感じでしょうか。そのときに気をつけたのが整合性です。面白い学説を選んでいくと、それらが矛盾することはよくあります。そこを徹底して考え、整合性があり、納得できるものを書きました。
――たとえばどんなものがありますか。
白鳳・奈良時代の日本には女帝が何人も登場しますが、その女帝たちを病弱な皇帝たちの中継ぎだったとする説と、中国に誕生した強力な女帝・武則天をロールモデルにしたとする考え方があります。どちらが正しいかというと、後者だと思います。なぜなら白鳳・奈良時代の政策の多くは、武則天の政策を真似しているからです。そうすると、武則天をロールモデルにして東アジアに女帝の時代が到来した、と考える方が整合的だし、納得できます。
――私たちの想像以上に世界が密接につながっていたことがわかるエピソードです。中東・イスラム史や中央ユーラシア史がしっかり書かれたことで、世界のつながりがより分かりやすくなっているのも本書の特徴ではないでしょうか。
これまでの歴史学は、基本的に西洋史と東洋史が中心でした。しかし実はイスラム・中東などにもたくさんの文献があったのです。それらが翻訳され始めたことで、研究が飛躍的に進みました。だから僕たちが学んできた歴史とは、かなり違う歴史像が出てきています。
――交易や商業などビジネス的な観点からも歴史を見ているので、ダイナミックな動きが感じられます。
ビジネスとは、もともとグローバルなものなのです。ビジネスは国よりも歴史が古いので。たとえば紀元前300年ごろのアショーカ王時代のインドには、ギリシャ人の使節が訪れています。紀元1000年の宋の都・開封には、ユダヤ人街がありました。ビジネスは儲かるからやっているのであって、それを国内と海外で区別する発想はなかったと思います。ちなみに奈良の平城京は、人口の七割が外国人だったという説があります。今よりずっとグローバルですよね。
――君主を経営者のように見ているところも面白かったです。
衣食足りて礼節を知るといいますが、人間は動物なので、ご飯が食べられて、安全に眠れることが一番大事なのです。だから為政者の仕事は、まずはご飯を食べさせること。為政者たちはそういうリアリティが分かっていたと思います。
会社の経営も同じですよね(笑)。給料が払えて会社が伸びていけば、みんなハッピーなので。小さなベンチャー企業でも、大企業でも、国の経営でも、そこは変わらないと思います。
――本書では歴史上の人物が、とても身近に感じられます。
歴史に出てくる人間も、今の人間と一緒ですから。男性はきれいな女性が好きだし、女性はかっこいい男性に惹かれる。欲もあれば嫉妬もある。それがわかると歴史もだいぶ身近になるのではないでしょうか。人間の脳はこの一万年間、まったく進化してないと言われています。そうすると、今も昔も考えることは一緒です。喜怒哀楽もすべて一緒。人間はずっと昔から同じような事を考えてきたし、人間がこれまでやってきたことは形を変えて何度も再現されています。だから歴史は最良の教科書だと思います。先の見えない時代においては特にそうではないでしょうか。
(でぐち・はるあき ライフネット生命保険会長)