インタビュー

2016年10月号掲載

『竹宮惠子カレイドスコープ』刊行記念インタビュー

伝えたいことが強いほど描くことに熱心になれる

竹宮惠子

対象書籍名:『竹宮惠子カレイドスコープ』(とんぼの本)
対象著者:竹宮惠子 原田マハ 石田美紀 寺山偏陸 さいとうちほ 勝谷誠彦
対象書籍ISBN:978-4-10-602269-2

――少年愛の世界、SF、冒険譚、歴史大河、ファンタジー、音楽、古典文学......先生の作品世界は幅広くて、書名のとおり万華鏡のようです。

竹宮 そうですね。新人の頃、「描くたびにスタイルが異なってわかりにくい」とよく言われましたが、ほんとうにわかりにくいタイプのマンガ家だな、とあらためて思いました(笑)。ウリが1本であれば、そのほうが読者に浸透しやすいわけですけれどもね。

――ちょっと意外だったのは、数ある名作の中から先生ご自身が挙げた代表作ベスト1が「地球(テラ)へ...」。「風と木の詩(うた)」だと信じているファンも多いと思いますが......。

竹宮 私にとって「地球へ...」は一番素直に描けたもので、作品の質を考えながらコントロールする、ということが必要なかったマンガなのです。素のまま描きたいように描けた、しかも人気など取れなくてもかまわないという気持ちで描けたというのは、とてもありがたいことでした。同時期に連載していた「風と木の詩」は、絶対に成功させなくてはならない、と自分自身にプレッシャーを与えていたようなところがありましたから。

――2作品のファン層は相当異なるのではないでしょうか。

竹宮 「地球へ...」は少年誌に描いていたこともあって、比率でいえば男性読者の方が多いですし、アニメのキャンペーンもあったので一般的に好まれるマンガらしいマンガですね。一方「風と木の詩」はそもそもマイナーであるべき作品なんです。センセーショナルな部分だけを取り上げるのではなく、これを読んで自分も救われた、という気持ちで読んでくださる方がいる。性質の全く違う作品ですが、両方とも好きといってくださる読者もいらっしゃいます。

――そういう性質の異なる作品を同時に描くとは......。

竹宮 同時期だからこそ、です。「風と木の詩」だけを描いていると、私自身というものが作り変えられてしまう、という怖さがありました。ヒットすればするほど"「風と木の詩」の作家"になってしまうわけです。私自身を抑え込んで描いている「風木」とは違う部分を、「地球へ...」で出したかった。

――それでも、どちらも"竹宮惠子らしい"代表作です。

竹宮 うーん、メッセージ性でしょうか。とくに人間の根源的なところからの問いかけというものが、両作品に共通してあるのでしょう。私は大体、メッセージ性が強すぎて嫌われてます(笑)。伝えたいことが強いほど描くことに熱心になれる。だからポテンシャルがありすぎると、短編の読み切りでは収まりきらない。マンガとしての完成度はともかく、物足りなさが残ります。やっぱり短編は得意じゃないですね(笑)。

――少女マンガの変革を求め常に先頭を走ってこられて、この50年で少女マンガは、実際、変わったでしょうか?

竹宮 私はこうなってほしいという形があって変えようと思ったわけではなくて、とにかく変革が必要だというふうに考えていただけ。普通は認められないようなことを描きたい。だから、私が描きたいことを描く=変革になるわけです。

――竹宮先生はBLの祖、とよく言われてしまいます。

竹宮 そう言われてしまうのはもう仕方がなくて、逃れられない部分だとは思います。自分の描いた作品から、BLというものが......おそらく必要があって育って行ったものだろう、と思っています。その成長には付き合っていないので、その後のことはわかりませんが(笑)。そもそもそういうジャンルができるなんて思ってもみませんでした。「風と木の詩」のような物語は二度と描かないと決めて表明もしていたので、周りも全く要求しませんでしたしね。

――今回、表紙のためにジルベールを描き下ろしてくださいました。先生にとってジルベールはどんな存在ですか?

竹宮 ジルベールって、絵に描こうとするとちゃんと現われてくれない不思議なキャラクターなんです。気まぐれで危うさを持つ少年ですし、いつも同じ顔は見せてくれません。彼は別の世界に実際に生きていて、それを私が写し取っている、という感覚なんです。だから描けたり描けなかったりする。一方で「地球へ...」のジョミーやソルジャー・ブルーたちは私が自分でつくったキャラクターで、不安定なところが全くない。だからいつでも描きやすいんです。

――ジルベール、ちゃんと美しく現われてくれました!

竹宮 そうですね。表紙となると、いろいろと責任重かったです(笑)。

 (たけみや・けいこ マンガ家)

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