書評
2018年7月号掲載
宿野かほる『はるか』特別企画
あなたは人工知能を見破れましたか? AI vs. 編集者 キャッチコピークイズ
対象書籍名:『はるか』
対象著者:宿野かほる
対象書籍ISBN:978-4-10-101762-4
デビュー作『ルビンの壺が割れた』が話題となった覆面作家・宿野かほる氏が、第二作『はるか』を上梓した。前作で「作者はAIでは?」と噂されたことからヒントを得て書き上げたというこの小説は、AI(人工知能)が重要なモチーフとなっている。
日進月歩、著しい発展を遂げているAIの可能性を読者にも感じてもらおうと、発売前には、株式会社電通のAIコピーライター「AICO」とのコラボクイズキャンペーンが行われた。題して、「AI vs. 編集者 キャッチコピークイズ」。AIの作成したキャッチコピーと、編集者の作ったキャッチコピーが一つずつランダムに表示され、どちらがAIのつくったコピーかを当ててもらう、という趣向だ。問題は全8問。
今回は、書籍発売前にこのクイズに挑戦してくださった7名の方々に、次のような質問をぶつけてみた。
Q1 クイズの正解率を教えてください。
Q2 気に入ったコピー、あるいは最も秀逸だと思ったコピーを教えてください。
Q3 人間かAIか、悩んだコピーがあれば教えてください。
Q4 創造的な分野でのAIの可能性について、どのように感じましたか。
Q5 これからの社会において、あるいは個人として、AIの進化に期待されることは何ですか。
Q6 キャッチコピーから、どのような本の内容を想像されましたか。
Q7 ご感想をご自由にどうぞ。
ちなみに、新潮社社内の平均正答率は64%。ご協力いただいた挑戦者のみなさん、AIのつくったコピーはいかがでしたか......?
佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)
① 62・5%。
② 「ディープラーニングの解答は、まだ見つかっていない」。AIという知性の難しさを、論理と詩的の狭間でうまく言い表した言葉だと思います。
③ 「一生に一度の恋にはできないけれど、あの夜は、この一生に一度の恋のためでした」。
④ AIは長い文章をなめらかに書く能力はまだ持てていませんが、広告コピーのような直感的かつ断片的な文章であれば、もはや人と区別がつかないぐらいに文章力を発揮できるのだということが、今回のクイズでよく理解できました。未来のAIはロジックではなく、直感で勝負する仕事に向いていくようになるのではないでしょうか。
⑤ AIと人間がそれぞれの能力をうまく分担し、相互補完する世界。それによって人間はより人間的なことに集中していけるような世界。
⑥ 人間の知性の劣化コピーではない、人間とはまったく異なる知性の持ち主が、どのようにして人間と心を通わせられるのかをテーマにした物語かな。
⑦ たいへん面白い試みです。これによってAIの正確な理解がさらに進みますように。
鈴木康太(ギズモード・ジャパン編集長)
① 50%でした。
② 作品の内容を知らないまま答えるのが難しい質問です......。
③ どのコピーも明確に見分けられるものではありませんでした。
AIの思考を考えるのは難しそうなので、逆に人間が思いつきそうにないコピーをAIのものとして選んでみました。
④ まだ創造といったもので驚くものは見たことがないかもしれません。AIが創造するものは人間が思考できる内容のもの、もしくは人間がそう定義してしまうことで、人間の創造を超えていないように考えています。人間が理解できないものをAIが作り出した際、その成果を人間が理解できる形で評価するAIなり人間なりが必要ですね。
⑤ 生活者の問題解決に役立っていってほしいです。ありきたりですが、社会はだんだんそうなっていくのだと思います。
⑥ AIがあることによる最大の効果を、人間の最小の単位、個人の幸せだとか愛であるとかを使って見せる内容なのではないかと思いました。2000年代のセカイ系のような。
⑦ ふだんテクノロジーに触れない方が意識してAIに触れる機会になるのではないかと思いました。設問を答えるなかですぐにフィードバックがあったほうがよかったかもしれないですね。AIというとディープラーニングによって「なぜかはわからないけれどそうなるらしい」とブラックボックスになってしまい思考停止するのですが、そこに人間(ユーザー)がAIを感じられる何かをエッセンスとして付与できるとよりおもしろくなるのかなと。難しいですが。
はあちゅう(ブロガー・作家)
① 62・5%。
② 「愛する、狂う、愛する、狂う、愛する、愛する、愛する......」。
③ 全部悩みました。正解を見るのが楽しみです。
④ すでに、部分的には人間を超えているのだと実感しました。
⑤ どんどん進化して、人間に楽をさせて欲しい。
⑥ AIと人間のラブストーリー?
⑦ こんなにお金がかかっていそうな書籍の特設サイトは初めて見ました。すご......!!!
古市憲寿(社会学者)
① 87・5%。
② 「これは次世代の嘘である」。
③ 「本物の誰かより、偽物の君がいい」。
④ J‐POPの歌詞に近いフレーズを選んでみたら、大抵AIだったみたいです。実は人間が大した存在ではないということを暴露する意味で、AIには価値があると思います。
⑤ アマゾンで自分の本をとにかく褒めてくれるAIが欲しいです。別に今の技術でもすぐに作れそうですね。新潮社がとっとと開発して下さい。
⑥ 主人公の人間がAIを愛してしまうという話かと思っていたら、実は主人公もAIだったというオチの小説。
⑦ 一度クイズを通してチャレンジした後で、このアンケートを書くために何度かクイズをしてみたのですが、AIっぽさを学習する自分自身がどんどんAI化していく感覚を味わえました。
文月悠光(詩人)
① 正解率75%。こっそり2回挑戦しましたが、どっちも。悔しいです。
② 作品を読んで選びたいところですが、「世界が反転する『底なし沼』、待つ」がダントツに好きです。短歌に近い韻律を感じます。たぶん作者はAIかなあ。
③ 「愛はある。魂はどうだ」と「忘れられない想いをもつ全てのひとたちへ」の二択には迷いました。
④ 「AIだからこそ示してくれる、思わぬ語彙の組み合わせがあるのでは」と感じました。人間よりも、言葉の意味から自由なのかも。
⑤ AIの手掛けた文芸作品が増えたとき、「作者」の概念はどう変わるのだろう、と興味があります。情報の選択、メールなど顔の見えないやり取りは、ほぼAIで処理できるようになるのでは。便利だけど、どこまでAIに委ねるか、生理的な感覚が問われそうです。
⑥ 「最強」「究極」「狂う」など、派手なコピーが目立ちましたが、きっと作品の中身はもっと繊細で美しいのだろうと想像しました。元々「愛」は、実体を持たない幽霊のようなもの。AIをモチーフにすれば、消えない愛を描けるのでは、と期待しています。
⑦ 「AI vs. 編集者」のキャッチコピー対決は、日頃の編集者さんの苦労がしのばれました。「AI vs. 作家」の作品対決も見てみたいです。
茂木健一郎(脳科学者)
① 50%、チャンスレベルでした......。つまり、区別がついていないということで、チューリングテストに合格されてしまっていますね。
② 「メノウの輝きとピアノの音色が、僕を苦しくさせる」。いい感じで、人間のつややかな感性と、AIの鉱物感が混ざっています。
③ 「AI LOVE YOU」。このような単純な文字列は、単純なAIなのか、人間の複雑な「なりすまし」なのか、区別がつきにくいと感じました。
④ AIの設計にもよりますが、コピーは比較的生成しやすい領域だと思います。
それでも、「微妙な違和感」とか「論理のひんやり感」が伝わってきた方がAIだという仮説の下、選択を重ねていきましたが、結果として50%だったということは、つまり、「微妙な違和感」とか「論理のひんやり感」は、人間にも感じるものなのかもしれません。
⑤ AIは、人間の鏡ですが、その鏡の向こうに突き抜けると、今まで見たことがない異世界を垣間見ることになるのではないかと思い、その可能性に胸を踊らせています。
⑥ AIと人間の純愛物語が、ポストシンギュラリティの空に存在の耐えられない重さ/軽さの虹をかけるのではないかと思いました。AIの関与するエンタテインメントは、今後、異次元のレベルに進化するのではないかと思います。
⑦ このようなキャンペーンが、甘美な認知的罠であったら、素敵な未来がやってくるのではないか。
宿野かほる(著者)
① 50%でした。
② 「完璧なAIは、嘘をつくのだろうか」。正常な電卓が計算間違いを絶対にしないように、コンピューターもミスはしません。人間に質問されたAIの答えは、「正解」か「わかりません」というものでしょう。AIが嘘をつく理由がないからです。もし、「嘘をつくプログラム」なしに、嘘をつくAIが誕生したなら、それはもう99・9%人間と言えるかもしれません。
③ ほとんどが迷いましたが、特に迷ったのは次の四つです。
「心があるように思うのは錯覚です」
「HAL‐CA彼方へ」
「ディープラーニングの解答は、まだ見つかっていない」
「愛はある。魂はどうだ」
④ 人間が生み出す創造物に、完璧にオリジナルなものはありません。すべては過去の模倣と、その組み合わせです。その技術の高い人が、偉大な芸術家と呼ばれます。AIがその技術を身につければ、優れた創造物を生み出すでしょう。それはもう、すぐそこまで来ていると思います。
⑤ 現在、人間がやっているすべての知的労働を、AIが行なうことは可能でしょう。それどころか、人間以上の精度で行なうことができるでしょう。
人間の領域は「愛」や「憎しみ」といった感情の部分ですが、それさえもAIはそっくりに表現できるはずです。
⑥ 著者なので、ノーコメントです。
⑦ 現代のAIなら、優れたコピーを考えてくるだろうと思っていましたので、人間のプライドをかけて、時間をかけて挑みました。「50%」という正答率は、AIに勝利したのか敗北したのか、よくわかりません。でも、楽しかったです。もし、このクイズを(他の)AIに答えさせてみたらどんな正解率を出すのか、非常に興味があります。
クイズは『はるか』特設サイトからチャレンジでき、現在はどれがAIのつくったコピーでどれが人間のつくったコピーか、正解も表示されるようになっている(抽選でのプレゼント応募受付は終了)。書籍とあわせて、ぜひお楽しみください!