書評
2018年9月号掲載
「甲子園という病」への処方箋
氏原英明『甲子園という病』
対象書籍名:『甲子園という病』
対象著者:氏原英明
対象書籍ISBN:978-4-10-610779-5
悲願と言ってしまったら自分のライター人生が終わってしまう気がするので言わないが、これは私自身が書きたいと思い続けていた書籍である。
と言っても、甲子園の批判を書きたかったという意味ではない。私はただただ正しい報道姿勢を貫きたいと思っただけだ。
今年夏の甲子園で取材をしていると、同業者たちから「氏原さんにしか書けない作品」と言われる。書籍のタイトルの印象が与えてしまっているのかもしれないが「氏原は批判を率先して書く人物」と思われているのは心外だ。はっきり言わせてもらうと、私のことをそう見る人たちにはジャーナリスト精神もなければ問題意識もない。
私が甲子園の取材をするようになったのは2003年の夏からだ。当時の甲子園にはダルビッシュ有(現シカゴ・カブス)というアイドルのようなスター選手がいたが、いわゆる将来のスターと騒がれる選手の取材をする日々にワクワクしたものだった。当時の私は熱投を称賛していたクチで、朝日新聞を中心とした高校野球礼賛に、かなり加担していた。
そんな私のマインドが変わるようになったのは指導者たちの言葉に疑問を持つようになったからだ。多くの高校に取材で出入りしていた私に、指導者たちがこんなことを言ってきた。
「氏原君、今年は素材のいい一年生が入部してきたから、また取材に来てよ」と。実際に足を運んでみると、本当にいい選手だった。ところが一年経つと、同じ人がまた同じことを言う。「いい一年生が入った」と。そして、前年の一年生の話題にはならないのだ。こういうケースは度々あった。
つまり、高校野球の指導者の何人かは育てるのが下手なのではないかと思うようになった。そして、その遠因が甲子園にあるということに気づいたのだ。長時間練習、上意下達的な指導、試合での登板過多など、「甲子園」は本当に高校球児のためになっているのか、と。
そうした視点で見ていくと、「こんなにいるのか」と驚くほどケガを抱えている選手が多いことに気づいた。また、監督の都合で干されたり、イップスになったりしている選手もたくさんいた。
しかし、そうした問題に多くのメディアが気づいていなかった。いや、気づいていないのではなく見て見ぬふりをしているのかもしれない。登板過多が「熱投」に変わって美談になるこの世界は、本当に「クレイジー」だと思う。
当初の書籍タイトルは「甲子園中毒」をイメージしていた。高校野球に関わる人は「甲子園」にとらわれた中毒症状で、それならいつかは解毒するはずだと信じたい自分がいたからだ。最終的には「甲子園という病」になったが、病には処方箋が必要だ。この本がそうなってくれればと願う。
(うじはら・ひであき スポーツジャーナリスト)