書評・エッセイ

2019年9月号掲載

野球界をアップデートしたい

中島大輔『野球消滅』

中島大輔

対象書籍名:『野球消滅』
対象著者:中島大輔
対象書籍ISBN:978-4-10-610825-9

「少年野球人口減少など、大した問題ではない」
 2016年末のプロ野球(NPB)オーナー会議である球団トップがそう語ったという情報は、プロアマの野球関係者たちを落胆させた。
 近年、確かにプロ野球の観客動員数はうなぎのぼりだ。だが少年野球人口減少を「対岸の火事」と捉えるのは利己的かつ近視眼的で、無知にもほどがある。一人のプロ野球選手は、多くのアマチュア指導者たちのおかげで誕生しているのだ。
 ただしアマの指導者たちが手塩にかけた選手がプロになり、いくらプロ球団が儲けても、その利益はアマに還元されない。学生野球憲章は選手やチームを商業的に利用しないことを規定しており、プロからお金を受け取ることはできないからだ。また、プロ、社会人、大学、高校、中学校、学童と各世代の組織はバラバラに誕生して各自で運営されてきた歴史があり、手を取り合って明るい未来を目指すという発想が極端に薄い。甘い蜜はすべてプロが吸い上げる構図になっている。
 学童野球という球界の底辺を支える全日本軟式野球連盟の宗像豊巳専務理事は、こう嘆いた。
「我々には興行もなければ、何もない。チームの登録料でメシを食っている団体です。日本高野連、日本野球連盟(社会人野球の組織)、NPBみたいに興行を持っているところは羨ましい」
 少年野球人口減少の一因に「野球はお金がかかる」というものがある。ひとり親家庭や低所得者層が増えるなか、グローブやバット、遠征代など親の負担が重い野球をやらせたくない――そうした要因に対処するには、プロ野球が助成するという方法もある。親と子どもを野球の世界に引き込めれば、マーケティングにもつながるはずだ。
 しかし、そうした動きは一向にない。団体間に壁があるからだ。NPBが12球団をまとめるような行動もない。ある球団の職員は、普及振興活動をしたら、「収益を生む仕事をしろ」と上司に嫌味を言われたという。目先の利益に囚われ、このまま野球少年減少を抑止できないと、遠くない将来に野球市場が縮小し、自分たちのビジネスが成り立たなくなるにもかかわらず。
 競技者が減り続けている以上、野球界は育成モデルを変化させることが不可欠だ。これまでは大人数からふるいにかける方式でプロ選手を選抜してきたが、今後は限られた者を確実に引き上げることが求められる。だが世代別で組織が異なる野球界では、育成は短期的視点に陥りやすい。指導者は、勝利至上主義で目の前の結果ばかりを求めるような仕組みになっている。
 根深い構造問題を抱える野球界は、足元を揺るがす危機に対処できるか。野球を愛する者たちと一緒に、何とか知恵をひねり出したいと思って、この本を書いた。

 (なかじま・だいすけ スポーツ・ノンフィクション作家)

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