書評

2020年7月号掲載

“今”のジャイアンツも最高です。

中溝康隆『令和の巨人軍』

中溝康隆

対象書籍名:『令和の巨人軍』
対象著者:中溝康隆
対象書籍ISBN:978-4-10-610865-5

 私は、現役巨人ファンである。
 という書き出しに、懐かしさを感じる人も多いのではないだろうか。昭和の時代は、仕事が終わり帰宅すると、ビール片手にテレビの地上波ナイター中継を見て、巨人が負けると不機嫌になるお父さんが日本全国にいた。会社の喫煙所では今日の天気を語るように、昨日の巨人の継投について「王監督も鹿取を投げさせすぎたよ」なんて議論を交わす。典型的な"ジャイアンツオヤジ"たちである。
 1983年(昭和58年)の巨人戦年間平均視聴率は、なんと27・1パーセントを記録。あの頃、ゴールデンタイムにテレビをつけたらいつもやっていた巨人戦は、まさに"国民的娯楽"だった。1979年に埼玉県で生まれた私もG党で、熱烈な原辰徳ファンのジャイアンツチルドレンのひとりだ。まるで教科書のようにプロ野球選手名鑑を暗記し、90年代になっても教室の片隅で、今日の給食について語るように「昨日のゴジラ松井のホームラン見た?」と盛り上がったものだ。
 それが、いつからだろうか? 我々の日常の会話から巨人が消えた。思えば、2001年限りで長嶋茂雄監督が勇退し、02年オフに松井秀喜がニューヨークへ去った。スーパースター不在で徐々に視聴率は低迷し、やがて各局が巨人戦の地上波中継をほぼ打ち切る。高橋由伸が衰え、上原浩治も憧れのメジャーリーグへ。テレビCMでもYGマークを見かけなくなり、最近のジャイアンツで知っている選手は阿部慎之助ぐらい......。もう現在進行形の4番打者やエースは知らない。気が付けば、世の中にそういう元巨人ファンが増えた。
 だが、今の巨人は85年以上の球団史でも屈指の才能が集結している。主将を務める坂本勇人はセ・リーグ史上最年少の通算2000安打を狙い、4番を打つ24歳の岡本和真は松井以来の生え抜き打者3年連続30本塁打に挑戦する。エース菅野智之は、伝説の稲尾和久が持つ最優秀防御率5度のプロ野球記録に挑む。チームを指揮するのは61歳の原辰徳監督である。
 確かにV9を達成したあの頃の巨人は最強だった。でも、今の巨人も最高だ。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開幕が約3か月遅れ、無観客でのスタートとなる2020年のペナントレースは、日本テレビで巨人の主催試合を開幕戦から5試合連続の地上波放送することが話題となった。エンタメ業界の底力が問われる中、プロ野球への注目度も例年以上に高い。久々に巨人に興味を持った人も少なからずいるだろう。だから、今さらじゃなく、今こそ時代に合わせアップデートした巨人論が求められている。
 この本は現役巨人ファンはもちろん、そんな帰ってきた元G党のあなたに、今のジャイアンツを、つまり「令和の巨人軍」の面白さをプレゼンするつもりで書いたものである。

 (なかみぞ・やすたか ライター)

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