インタビュー

2025年10月号掲載

祝!『しゃばけ』アニメ化記念特集

「登場人物」に聞いてみた! 特別記者会見

ペリー荻野

シリーズ累計1,000万部突破の大人気作『しゃばけ』がいよいよアニメ化! 10月3日からのテレビ放送を前に、登場人物による特別記者会見が開かれました。会場をのぞいてみると……

対象書籍名:『あやかしたち』
対象著者:畠中 恵
対象書籍ISBN:978-4-10-450732-0

〈まとめ〉ペリー荻野
〈イラスト〉柴田ゆう

「波」読者のみなさま、お久しぶりです! 「波」誌上限定のこの記者会見、シリーズ第12作の『たぶんねこ』以来、実に12年ぶりでございます。
 いやいや、このたびは実におめでたい。なんたって、『しゃばけ』のテレビアニメ化がついに実現したんですからね。アニメといえば、いまや全人類になくてはならないカルチャーのひとつ。「沼る」「コスプレ」「聖地巡礼」……関連ワードが次々浮かんできます。そんな世界に『しゃばけ』のみなさんが、いよいよ進出するわけです。
 今回は『しゃばけ』アニメ化記念として、登場人物のみなさんに、特別記者会見を開いていただきました。といっても、記者は私ひとり。しかも、出席者の大半が人じゃなくて、凡人の私には姿が見えないという特殊な環境というのは相変わらず。とりあえず、見えない方々の声は、他の方に代弁していただくとして。さっそく、会場に向かいましょう。
 今回も会見場所は、江戸で一番繁華な通町にある、廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋の店先。土蔵造り漆喰仕上げの堂々とした店構えで、三十人もの奉公人が働いている大店です。
 出席者は、物語の主人公であり、長崎屋の跡取り息子・一太郎さん。お父上の藤兵衛さん、お母上のおたえさん。手代の仁吉さんと佐助さん。一太郎さんのおさななじみの三春屋の栄吉さんと妹のお春さん。岡っ引きの日限の親分にもお越しいただきました。店内には、若だんなの万一の救急対応のために隠居した源信先生にも特別にスタンバイしていただいています。

記者 では、まずはみなさま、自己紹介かたがた、アニメの感想など、ひとことずつお願いします。

一太郎 自己紹介……どうも、不慣れなことでなんと言ったらよいのか。長崎屋の一太郎でございます。このたび、アニメとなってみなさまにお目にかかれるというのは、大変にうれしいです。しかも、私の声となってくださるのが、大人気声優である山下大輝さん。なかなか思いのすべてを口にできない私ですが、山下さんの表現力もお借りして、みなさまに私たちのお話を楽しんでいただければと思います。

おたえ 本当にこんな日がくるとは(涙)。

藤兵衛 まったくだ。よかったね。一太郎。

記者 一太郎さんは、生まれながらにして病弱で、魚を一口かじれば食が進んだと喜ばれ、風が吹けば心配だから横になれと、ご両親から大甘に育てられた若だんな。日々、佐助さんと仁吉さん、ふたりの手代にがっちりと守られる身の上です。お隣の三春屋さんに行くだけでも、いちいち仁吉さんにお見送りされてるっていうんですから。

仁吉 何か文句が?

一太郎 いいんだよ、仁吉。本当のことだからね。私の周りには、気遣ってくれる店の者や妖たちがいてくれて、助けられているんだよ。それより仁吉、佐助、お前たちも自己紹介とやらをしないといけないよ。

仁吉 ……。

佐助 ……。

記者 (ふたりに睨まれて冷や汗)な、なんとなく私からご説明したほうがよさそうですね。ええと、仁吉さんは、長崎屋薬種問屋の手代で一太郎さんの兄やとして、若だんなにお仕えする方。切れ長の目で男前、江戸の娘たちにも人気のまと。一方、佐助さんは、長崎屋廻船問屋の手代で、偉丈夫で力持ち。同じく若だんなの兄やです。

藤兵衛 ふたりは一太郎が幼いときにおたえの父の伊三郎が店に連れてきて、以来、ずっとつきっきりで働いてくれているからね。

おたえ いつも頼りにしているよ。

仁吉 おそれいります。

記者 おふたりとも人の姿をしてますが、その正体は仁吉さんが白沢、佐助さんが犬神という妖なんですね。畠中先生は、エッセイ集『つくも神さん、お茶ください』(新潮文庫)の中でおふたりについて、「かたや神獣であり、一方神の名を持つ者だ。だがこの二人は、天上天下全世界中唯一無二で、若だんなが大事。よって大分……大いに行動の基準が人とずれていて、そこがほっとできる存在だ」と書かれています。

仁吉 ずれてる……。

佐助 ほっとできる……。

アニメになった若だんな。「10月からぜひご覧ください」

アニメになった若だんな。「10月からぜひご覧ください」

一太郎 仁吉と佐助が、私を「ぼっちゃん」と呼ぶのだけはやめてもらいたいんだけどねえ。

記者 それにしても、店からほとんど外出しない若だんなが、アニメの冒頭で、いきなり夜の町をひとり歩きしているのには驚きました。そこに血の臭いが! それが多くの人の命に関わる事件につながっていくわけですね。

一太郎 本当にあのときはどうしようかと思ったよ。

記者 原作『しゃばけ』の冒頭では、「厚い雲が月を隠すと、江戸の夜の闇は、ずしりとのしかかるように重かった」とこの夜のことが書かれています。アニメではその闇のようすが目の前に現れ、さらに恐ろしい相手も出てきて、ドキドキしました。

一太郎 鈴彦姫がいてくれなかったら、大変なことになっていたでしょう。

記者 鈴彦姫は、鈴の付喪神で、以前、畠中先生が「鈴を背負って可愛かったので、つい出番が増えた」と語っておられます。とても可愛らしいですね。

一太郎 そうなんです。(もぞもぞ)おい、お前たち、静かにしないかい。(きゅわ、きゅわ)

「きゅわきゅわ、われらはここにおります」と鳴家たち

「きゅわきゅわ、われらはここにおります」と鳴家たち

記者 ひょっとして手のひらサイズの小鬼の鳴家たちですか? ああ、アニメでは姿が見られたのに、ここでは見られないのが残念!

一太郎 鳴家は自分たちも今度のことでは、いろいろ働いたと言いたいようなんですよ。わかったから、おとなしくしておくれ。

記者 おまかせください。こんなこともあろうかと、甘いものが大好きな鳴家さんたちが喜びそうな手土産を持参しました。ジャーン!! ロールケーキです。前回はチョココロネを持参しましたら、栄吉さんがほら貝のように吹きそうになって、チョコがあふれるんじゃないかと心配しましたが、ロールケーキは吹けません。みなさんでどうぞ。

栄吉 変なところで名前を出してもらっちゃ困る。あれは、不思議な南蛮菓子がどうやってできているか探っていたんだよ。これでも菓子屋の跡取りだからよ。

お春 あいかわらず、あんこは上手く作れないけどね。それでも一太郎さんは兄さんの不格好な饅頭を食べてくれるじゃないの。

栄吉 お前は一太郎びいきだからな。

一太郎 この南蛮のお菓子は何かに似ているね。

記者 あれ、くるくる巻かれたのが、何かの力でほどけていく……。

一太郎 屛風のぞきの仕業ですよ。布団にぐるぐる巻きにされたことを思い出して、ほどこうとしているんだね。

記者 屛風のぞきは、若だんなが暮らす離れに置かれた古い屛風が化した付喪神ですね。石畳紋という派手な着物を着た役者絵のような外見です。屛風からひょーっと出てきて、若だんなの囲碁のお相手なんかもしている。すねると屛風の中で後ろ向きになっているのも面白い。

一太郎 付喪神、それぞれに人柄……いや、妖柄みたいなものがあるんだよ。

記者 畠中先生が「器物が百年の時を経て成る妖怪、付喪神という。この世の尋常のものから、一つ離れた存在だ」と書かれた付喪神の存在は、物語に欠かせません。一太郎さんには、人や妖に対するするどい観察力と推察力がありますよね。それが事件の謎解きにつながっている気がします。

日限の親分 ちょっと待ってくださいよ。それじゃ、俺っちの出番がまるでないじゃないか。

記者 それでは親分、得意の自慢話……じゃない、自己紹介をお願いします。

日限の親分 俺は通町界隈が縄張りで、名は清七ってんだが、日限地蔵の近くに住んでるんで、この呼名がついたってことだ。長崎屋さんは大店だから、困りごとも多い。そんなときは、俺が丸くおさめているってわけだ。

藤兵衛 いつもお世話になっています。

仁吉 誰が丸くおさめているんだか。

佐助 まったくだ。

日限の親分 何か言ったか? それにしても今回の一件は、恐ろしかったぜ。次々、死人が出るんだが、いったいどういうつながりなんだか、さっぱり見当もつかねえまんまだしな。

記者 確かに下手人の目星がついてもさらにミステリーが深まっていく展開ですね。驚いたのは、長崎屋に届けられた“秘薬”です。包みを開けたら、そこにあったのは、木乃伊ミイラでした! 当時はとても高価な秘薬だったんですね。

一太郎 あれは効かないよ。もしも効くなら、まっさきに私が飲んで元気になっていることだろうよ。

記者 長崎屋が薬種問屋になったのも、もとは一太郎さんの健康を考えてのことでした。一太郎さんは、薬や商いについてもとても冷静な一面がありますよね。

一太郎 私は私なりに世の中を知りたいし、見てみたいとも思っているんだよ。あの夜、外に出ていたのも、その気持ちの現われだった……モゴッ。

仁吉 若だんな、大丈夫ですか。

佐助 人前でお話しされて、お疲れになったんでは。

一太郎 大丈夫だよ。このロールケーキを口に入れてしゃべってしまったから、モゴモゴしたんだよ。そうそう、モゴモゴといえば、このアニメで仁吉の失恋話が聞けたのはよかったねえ。

仁吉 わたしはモゴモゴなどしておりません。

佐助 そうだったか?

仁吉 お前まで言うか!

一太郎 娘姿の獺や坊主姿の野寺坊も笑っているよ。

記者 妖の恋心というのは、千年単位なんですね。しかも、そのお相手が…

佐助(左)と仁吉(右)。アニメでは仁吉の失恋話が……

佐助(左)と仁吉(右)。アニメでは仁吉の失恋話が……

仁吉 さあさあ、ほかに聞きたいことはないのかい?

記者 実は今日、会場にお越し頂けなかった方がおふたりいらっしゃいます。一太郎さんの兄の松之助さんと母方の祖母のおぎん様です。実はこのおぎん様が、皮衣という大妖であったことが、若だんなと妖たちとの結びつきのはじまりなんですよね。

一太郎 松之助兄さんは、仕事が忙しくてね。それにおぎん様はとうにこの世にはいないよ。でも、私はいつも祖父母がいてくれて、両親がいてくれて、ここにいられるんだと感謝せずにはいられないんですよ。そして腹違いではあるけれど、松之助兄さんもいてくれる。これから生きていくうえで、命のありがたみは忘れちゃいけないと思っていますよ。

おたえ いつのまにこんなにおとなになったんだろうねえ。おぎん様に聞かせたいよ。

記者 このアニメは、江戸時代が舞台のファンタジーですが、体が弱い一太郎さん、肉親と離れた松之助さん、仕事に結果が出せない栄吉さん、今に通じる若者たちの悩みも織り込まれています。おとなや妖は彼らを助けますが、最終的には若だんなはじめ、みんなが自分で道を見つけていく。その成長も作品の魅力のひとつですね。

一太郎 ありがとう。アニメを観てくださる方にも、私のようにほんわり進む生きかたもあるとお伝えしたいですね。

記者 ではでは、前回はできなかったフォトセッションといきましょう。みなさん、一太郎さんを真ん中に集まってください。映るか映らないかは別として、できれば、一般人の目には見えない妖のみなさんも入っていただきたいんですけど……。

一太郎 鳴家たち、とりあえず、鈴彦姫たちを呼んでおいで。

鳴家 きゅいー。

記者 あ、今、鳴家さんたちの声が聞こえたような。

一太郎 人も妖もともにいるんですよ。

記者 アニメのオープニングテーマ「いのちのパレヱド」に通じますね。担当したくじらさんは、「『しゃばけ』は、弱くても誰かを想う強さと、目に見えない存在と共に生きる優しさのものがたりだとおもいます」とコメントされています。

一太郎 ありがたいねえ。おや、鈴彦姫たちも来たね。じゃ、みんなで「ふぉと」というのをやろうか。

記者 では、一斉に声を出していただきます。せーの!!

一同 若だんな~!!

しゃばけTVアニメ化

(ぺりー・おぎの コラムニスト/時代劇研究家)

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