書評・エッセイ

2015年6月号掲載

『私の息子はサルだった』刊行記念特集

読めて幸せ

――佐野洋子『私の息子はサルだった』

内田春菊

対象書籍名:『私の息子はサルだった』
対象著者:佐野洋子
対象書籍ISBN:978-4-10-135416-3

 これはまいった! 洋子さん節はまたもや素晴らしく、あっという間に引き込まれ、尊敬する洋子さんの息子さんであるが今は友人となった広瀬弦さんを、私はずうずうしくも母目線で見てしまうではありませんか。
 洋子さんのどこかの文章に、「私は息子に夢中だった」という一節があったなあ。「息子、不良だったんだけどね、学校に何度も呼び出されてね。今思うとあの充実した日々!」としみじみおっしゃっていたことがあったなあ。
 子どもが一人だと、それがたとえ娘でも、母親は熱烈な恋人のようになってしまう気がする。息子なら尚更のこと。私の一人目も息子で、二人目が生まれるまで五年近く、子にデレデレな自分を悟られては大変、仕事人として見捨てられてしまうと思い込み、歯を食いしばって「カワイイ」という言葉を口にしなかった。なるべくクールに付き合っているところをアピールしようとした。今も子の小さな人たちの仕事に触れるたび(無防備に子のための甘々な仕事をしてる人もうらやましく思うが)、舐められてなるものかと普段にも増して激しい表現に飛び込んで行っているのを見ると猛烈に応援したくなる。
 洋子さんはタニバタさんに「ねえケンが一番素敵でしょ!?」と言いたかったかもしれない。嫉妬もしたかもしれない。思い出すのは私の息子①が二度目に女子に告白したときのことです。一度目はませた友だちにそそのかされて行ったので、玉砕したけど小さかったし、さほどこたえていなかった。その二度目にも、その後も何度か別の女子からも言われることになる「友だちにしか思えない」を言われ、まあ彼はそんなに落ち込んでは見えなかった。しかしその直後、その相手が別の子たち(男女混合)と私たちの家に来た時、楽しく遊んでいるのだが、もしかしたら息子は辛いのではないだろうかという考えが私の頭から離れなくなってしまったのです。
 そんで私は、寝室に隠れて泣いてました。何やってるんでしょうか全く。
 年取ってる分いろんな経験に引っ張られるんでしょうけどね。「あの時は気づかなかったけど私は傷ついていたなあ」ってのあるじゃないですか。
 そんな息子①も相手の女子も、今はそれぞれ恋人がいます。弦さんにも可愛い妻がいて、私にもよくあれこれお知らせをくれます。
 うむ、短いけどまたもや名著誕生! と思っていたら、衝撃の弦さんのあとがきが届きました。20年以上も子どものことを描き続けている私はうなるしかありません。
 私は子に「これマンガに描かないで〜」と言われたことはあっても、全面禁止はされたことがない。物心付いた時にはもう当たり前のように描かれてたからでしょうか。描かないでと言われたのに描いたことが実は二回。娘②が「カチューシャ」を「プイッチ」と呼んだことと、息子②がお風呂からそこだけ出して「ちんこ島〜」と言ったこと(どっちも幼児の頃ですよ)。この文章を書くにあたって、弦さんのような経験はなかったか、現在家にいる子らにインタビューしてみました。
「うんまあ、似たようなことは(息子②)」
「でも応援もしてくれるし(芸能活動してる娘②)」
「その、あなたのこと知ってるって言ったおばさんがよっぽど怖かったんじゃない? かわいそう(娘①)」
 周りで育児マンガ描いていた人も、子が大きくなると「子が読むから」などの理由で描かなくなって私は淋しい。私の子らは今も私のマンガを読んで「あったね〜」と笑い転げたり、「あたしたちがカワイイ〜」と喜んでいるのです(何故か反抗期とかもなく……)。
 しかし弦さんの文章は面白い。私は洋子さんのお葬式の時のスピーチからすっかり弦さんトークのファンなのです。もっとこの文章で弦さんのこと、洋子さんのことを読みたいものです。

 (うちだ・しゅんぎく 漫画家)

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