書評
2026年7月号掲載
映画「パプリカ」公開20周年記念特集
今さんと「パプリカ」
今 敏監督作品を担当した制作プロデューサーが回想する〈極彩色〉の日々
公開20周年を記念して8月7日より映画「パプリカ」(監督今 敏/原作筒井康隆)4Kリマスター版の全国拡大上映が決定! 映画とコラボした文庫限定カバーも7月中旬から全国の書店で展開予定です。
対象書籍名:『パプリカ』
対象著者:筒井康隆
対象書籍ISBN:978-4-10-117140-1
「パプリカ」について書いて下さい、との御相談を頂きました。自分はパプリカを最後に今さんから離れたので、完成した「パプリカ」に対する今さん自身の考えを聞いた事が有りません。ですから、制作途中で思った事とか、後々に思い返した事を書かせて頂こうと思います。
自分は「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」「妄想代理人」「パプリカ」に、制作として関わらせて頂きました。
「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」と比較して、「パプリカ」は絵コンテに時間をかけていたと思います。かけていたというよりは、かかってしまった、かもしれません。「千年女優」で9ヵ月、「東京ゴッドファーザーズ」で1年、「パプリカ」は1年を超えても終わりが見えていなかった筈です。「東京ゴッドファーザーズ」から、絵コンテを精緻に描き込む方法に変えていて、美術設定を描く時間、絵コンテを見て作画スタッフが描く時間、作画スタッフが描いてきた素材を自身が修正する時間が圧縮できると話していました。「パプリカ」では、コンテを撮影して、カメラワークやカットの秒数まで決め込んでいたと思います。
作画や背景への要求も高くなっていたと思います。例えば「千年女優」では走り続ける主人公の後ろに立っている人達は動きませんが、「パプリカ」では人ですらない冷蔵庫たちが集団で動きます。もう少し具体的に書きますと、作画枚数が「千年女優」は3万4000枚、「パプリカ」は4万5000枚に増えています。それこそ10万枚を超える作品から比べれば微々たる数字ですが、今さんが自身と作画/背景スタッフの戦力を最大限画面に活かそうと四苦八苦している中での1万1000枚は相当に制作現場を圧迫したと思います。
当時、「PERFECT BLUE」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」全てが高い評価を頂いていたと思いますが、興行収入は苦戦していましたし、パッケージが売れているという話も聞きませんでした。会話の流れは忘れましたが、「パプリカ」制作中の今さんが「前のアプローチではダメだった」と話していた事が有るので、売れていなかった事は気にしていたと思います。
「パプリカ」は文化庁から助成金を頂いています。2005年夏頃、未だコンテが完成していない状況で、2006年3月末の試写が支給条件でしたから、無茶なスケジュールでしたが、今さんが受け入れたので驚いた事を覚えています。当時は全く思い至りませんでしたが、苦戦している出資状況を察したとか、自身のコンテが進まなかったので外的要因を作ろうとしたとか、いろいろ考えて受け入れたのではないか、と思います。
2006年2月にコンテが完成、アフレコ/ダビングを経て、3月末に試写を行ないましたが、試写直後から一度は完成させた映像の修正作業を始め、2006年8月上旬に作業を終えて、月末に完成試写まで辿り着きました。かような制作状況に、当時の自分は有効な対策を講じる事が出来ず、修正作業に入ってからの今さんは随分と荒れていたと思います。常々、「コンテを描いている時に思い描いている映像に、完成映像は届かない」と話していましたが、そうは言っても何とか出来ないのか、制作期間は超過しているし、音響作業を終えた後では出来る修正に限りがあるけれど、何とか出来ないのか、様々な考えが交錯する中で、どうにも「これで良い」とは言えなかったのだろうな、とは思っています。
完成後、方々の映画祭や試写会での反応に対して、今さんが笑って応えていたと聞くにつけ、幾らかは安心出来たのかな、と思った事が有ります。どの立場で指摘しているのか、と言われそうですが、制作中は出来上がっている映像に対して不満というよりは不安が有ったのではないか、と想像した事が有ります。
本人が聞けば「違う」と言いそうですが、自分が思い出す今さんと「パプリカ」です。
(とよだ・さとき 株式会社マッドハウス制作プロデューサー)


