書評

2022年12月号掲載

日本ファンタジーノベル大賞の作家たち

大森望

対象書籍名:『いちねんかん』(新潮文庫)/『月桃夜』(新潮文庫)/『悪い麗人―帝都マユズミ探偵研究所―』(新潮文庫nex)/『約束の果て―黒と紫の国―』(新潮文庫)
対象著者:畠中恵/遠田潤子/堀川アサコ/高丘哲次
対象書籍ISBN:978-4-10-146141-0/978-4-10-104352-4/978-4-10-180256-5/978-4-10-104381-4

 有為転変は小説新人賞の習い。次々に新たな賞が生まれる一方、休止する賞も少なくない。とはいえ、一度消えた賞が復活する例はたいへん珍しい。その困難なハードルをクリアしたのが日本ファンタジーノベル大賞。1989年の誕生から二十五回つづいたのち、2013年に幕を閉じたが、終了を嘆く声に応えて、四年後の2017年に堂々復活。それまで後援だった新潮社(新潮文芸振興会)が主催になり、「日本ファンタジーノベル大賞20XX」と賞のうしろに年号がつくかたちでリニューアルされた。
 休止期間を除いても三十年を超える歴史があり、同賞の大賞・優秀賞受賞作は話題作が目白押し。第一回の酒見賢一『後宮小説』を皮切りに、佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』、池上永一『バガージマヌパナス』、宇月原晴明『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』、西崎憲『世界の果ての庭』、森見登美彦『太陽の塔』、越谷オサム『ボーナス・トラック』、仁木英之『僕僕先生』、勝山海百合『さざなみの国』、古谷田奈月『星の民のクリスマス』……という具合。狭義のファンタジーにかぎらず、マジックリアリズム小説や歴史・時代小説、純文学からユーモア小説まで、ほかの新人賞からはなかなか出てこないユニークな作品を次々に送り出してきた(というか、いわゆる異世界ファンタジーはほとんど受賞していない)。その後、さまざまなジャンルで活躍している受賞者が多いのも特徴。
 大人気シリーズの記念すべき第一作となった畠中恵『しゃばけ』は、2001年の同賞優秀賞受賞作。主人公は、お江戸日本橋の廻船問屋兼薬種問屋の跡取り息子。生まれついての虚弱体質で、めったに外出もできないが、妖怪や神様と話ができる特殊能力の持ち主。この若だんながおなじみの妖怪たちの力を借りてさまざまな事件を解決してゆく――というのがシリーズの基本。毎回趣向を変えながら二十年以上も書き継がれ、最新刊は二十一巻。総発行部数は一千万部目前にまで達している。2016年には、シリーズを対象とする新設の吉川英治文庫賞(第一回)を受賞した。この十一月末には、第十九弾『いちねんかん』が文庫化される予定。
 それと同時に新潮文庫から刊行される遠田潤子『月桃夜』は、第二一回(2009年)の日本ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー長編。薩摩藩支配下の奄美大島を舞台に兄妹の物語を切なく力強く語る歴史ファンタジーの力作だ。著者はその後、『アンチェルの蝶』、『雪の鉄樹』、『冬雷』、『オブリヴィオン』など次々に個性的な話題作を発表。2020年には『銀花の蔵』で直木賞候補にも選出されている。
 その『月桃夜』と第二一回の大賞を分け合ったのが小田雅久仁『増大派に告ぐ』。寡作ながら、著者の作品はきわめて評価が高く、『本にだって雄と雌があります』につづく三冊目にして最新の単行本『残月記』は第四三回吉川英治文学新人賞を受賞している。
 2006年に『闇鏡』(文庫版タイトル『ゆかし妖し』)で第一八回の優秀賞を受賞しデビューした堀川アサコは、すでに著書が四十冊を超える人気作家。この十一月末には新潮文庫nexから『伯爵と成金』に続く《帝都マユズミ探偵研究所》シリーズ第二弾、『悪い麗人』が出る。
 昨年、『心淋し川』で第一六四回直木賞を受賞した西條奈加も、日本ファンタジーノベル大賞の出身。近未来の日本に出現した鎖国状態の「江戸国」を舞台とする明朗SF時代小説『金春屋ゴメス』で2005年の大賞を受賞した。こちらは今年になって、シリーズ第二作の『金春屋ゴメス 芥子の花』ともども、新潮文庫nexから新装版が登場。来年には待望ひさしいシリーズ第三作の刊行も予定されている。
 では、リニューアル以降の日本ファンタジーノベル大賞はというと、柿村将彦『隣のずこずこ』、大塚已愛『鬼憑き十兵衛』、藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』など注目の受賞作は出ているものの、受賞者が大活躍とまでは至っていない。勝負はまだこれからだろう。
 先に挙げた三作と同時に新潮文庫から出る高丘哲次『約束の果て 黒と紫の国』は、日本ファンタジーノベル大賞2019の大賞受賞作。『後宮小説』にオマージュを捧げる架空歴史ファンタジーの快作だ。高丘哲次の第二作は来春にも刊行されるようなので、文庫化の機会にぜひデビュー作を読んでみてほしい。


 (おおもり・のぞみ 書評家/翻訳家)

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