書評

2026年6月号掲載

ダイアン津田『津田日記』刊行記念特集

生きた記録

津田篤宏『津田日記』

宮島未奈

対象書籍名:『津田日記』
対象著者:津田篤宏
対象書籍ISBN:978-4-10-356881-0

 日記には他人に見せるつもりで書かれたものと、見せないつもりで書かれたものがあります。出版されている日記は、たいてい他人に見せるつもりで書かれたものです。
 この『津田日記』はもともと他人に見せないつもりで書かれたものだそうです。そのため、飲み会の同席者の名前が伏せられていたり、事務所NGの内容が塗りつぶされていたりと、出版にあたって他人に見せるための加工が施されています。そこが読みたいのにと思いつつ、表に出せないのもよくわかります。
 それでいて「逆にこれはOKなんかい!」と思うような表現も残っていて、その基準のあやふやさこそが生きた記録であるように感じられました。

 わたしも十代の頃から日記をつけています。ちゃんとした日記帳を買っていた時期もありますし、興味を失って書いていない時期もありました。
 ここ八年は、奇しくも『津田日記』と同じサイズの日記をつけています。手帳の日付部分、本来は予定を書くであろう欄に、その日の出来事を三行程度で記録しています。体調、食べたもの、家族や仕事のことが主な内容ですが、他人に見せられない内容も書いていますし、そもそも他人が読んで面白いものではなさそうです。
 自分自身、読み返すことはほとんどありません。だったらなんで書いているのかと聞かれれば、なんとなくとしか言えません。
『津田日記』を読んで、日記ってそういうものだよねという思いを新たにしました。つけるもつけないも自由だし、何を書いても自由です。
 ただ、日記を書くことによって、書き手がその時期に生きていた履歴が残ります。かつて日本で書かれた『更級日記』『蜻蛉日記』『土佐日記』といった作品も、古典として長く読みつがれています。
 たとえば一万年後、『津田日記』も古典として日記文学のラインアップに名を連ねているかもしれません。津田篤宏という人物が、2025年に生きていた証です。未来の受験生が「ごいごいすー」の現代語訳に悩む姿を想像するとワクワクします。

 ダイアンのお二人は滋賀県の出身ということで、滋賀県在住のわたしは親近感をおぼえていました。わたしがよく行く「近江ちゃんぽん亭」にも、アンバサダーを務めるお二人のポスターが貼られています。
 津田さんが『成瀬は天下を取りにいく』を読んで、おもろかったとXに書いてくださったときにはとてもうれしかったです。
 この『津田日記』の中にもときどき滋賀のことが出てきます。「米原はブルーになる駅だ」はなかなか書けない一文です。あの長いエスカレーターを下って外に出たときの心象が見事に表現されています。
 コラム「滋賀県」ではお母さんへの文句を書きつつ、それだけ仲が良いんだろうというのが伝わります。
 それにしても、津田さんのお母さんが大津警察署の一日署長になったときにはわたしも驚きました。

『津田日記』を読みながら思っていたことベスト3は「仕事忙しすぎでは」「ゴルフめっちゃ行ってる」「飲み会多いな」だったのですが、最後のコラムで津田さんも同じ箇所に突っ込んでいて笑いました。
 それと同時に、日々の感情を書き込んでいるのがとてもいいなと思いました。「楽しかった」「うれしかった」「イラついた」「腹立つ」「ビビった」など、心の動きがしっかり記録されています。
 小説を書いていると、「これは実体験ですか」とよく聞かれます。多少は実体験もありますが、フィクションなので大半は想像です。
 だけど、自分の感情を作品に反映させることは多々あります。たとえば『成瀬は天下を取りにいく』の第一話「ありがとう西武大津店」は西武大津店の閉店を寂しいと思う気持ちがあったからこそ書けた話です。
 ここまで書いて、めったに見返さない自分の日記を確認することにしました。西武大津店の閉店が発表されたのは2019年10月10日のことです。ドキドキしながらその週のページをひらいてみると、「来年8月で西武閉店だって。ショックー」と書かれていました。
「寂しい」じゃなくて「ショック」だったんだ!
 日記を書いていると、過去の自分との答え合わせができることがわかりました。皆さんも『津田日記』を読んで、一緒に日記をつけませんか?

(みやじま・みな 作家)

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