書評

2026年6月号掲載

池上彰『知の本棚』

書店めぐりから書評の世界へ

池上彰

対象書籍名:『知の本棚』(新潮新書)
対象著者:池上彰
対象書籍ISBN:978-4-10-611123-5

 書店を巡るのが大好きです。そんな趣味はいつから生まれたのか。記憶にあるのは小学校五年生頃でしょうか。東京郊外の私鉄沿線の我が家の周辺には二軒の書店がありました。どちらも売り場面積は大して広くないのですが、小学生の私にとっては、十分な広さでした。「知のワンダーランド」とでも呼べるような存在でした。
 この「ワンダーランド」で、私の将来を決める書籍に出合いました。地方で働く新聞記者の仕事ぶりを描くドキュメントでした。毎日のように「サツ回り」をする記者たち。警察署の刑事課や交通課を回ってニュースを探し、ライバルの記者たちとの熾烈な特ダネ競争。殺人事件が起きれば、記者たちも犯人探しを始め、警察より先に容疑者を割り出し、警察に自首するように説得する。
 こんな世界があるとは。将来、地方で働く新聞記者になるぞと決意したのです。結局、新聞記者ではなくNHKの記者になりましたが、希望通り地方記者として働くようになりました。
 初任地の松江でも、私がよく顔を出す書店が二店ありました。次の転勤先の呉でも行きつけの書店ができました。どちらも毎日のように顔を出しますから、書店員とはすっかり顔見知りになりました。
 初任地の松江で先輩記者から言われたのは「松本清張を読め」ということでした。清張が描く小説には汚職を扱ったものも多く、警察の捜査が進むと、渦中の課長補佐が自殺して捜査がうやむやになる、というものがあるからです。「こういう小説を読んでおけば、汚職事件を捜査する警察を取材するときに役に立つ」というアドバイスでした。
 ただ、私は松本清張の小説でも『点と線』のような殺人事件を扱った小説が気に入ってしまい、やがて東京の社会部記者になると、警視庁の捜査一課担当になります。いわゆる“殺し記者”です。
 NHKのキャスターになると生活のリズムが安定。往復の途上で、毎日二軒の書店に顔を出していました。もうビョーキですね。
 こんな書店好きが知られるようになって、書評の仕事もするようになりました。改めて言うまでもありませんが、書評とは難しい仕事です。自分の好きな本を選べばいいというわけではありません。想定される読者が関心を持ちそうな本、役に立ちそうな本を選びます。その本の面白さを知ってもらうには、内容を要約する必要もありますが、やりすぎるとネタバレになってしまいます。そこまで行かずに寸止めに留めながら、でも面白さを伝えることの困難さ。
 そんな苦労をしていたら、書評をまとめて、その名も『知の本棚』という書名で出版されることになりました。その悪戦苦闘ぶりを観察いただければ幸いです。

(いけがみ・あきら ジャーナリスト)

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