対談・鼎談

2017年8月号掲載

『迷-まよう-』『惑-まどう-』刊行記念座談会

「恋愛」はダメで、「迷惑」がいい私たち

乙一 × 近藤史恵 × 永嶋恵美

女性作家集団「アミの会(仮)」メンバー+豪華ゲスト、総勢16名による夢のアンソロジーが2冊同時刊行されます。
執筆陣から、乙一さん、近藤史恵さん、永嶋恵美さんの3人が、競作の醍醐味、短編集の魅力を語り尽くします。
しかも、3人の意外な共通点も見つかって……。

対象書籍名:『迷-まよう-』/『惑-まどう-』
対象著者:アミの会(仮)大沢在昌、乙一、近藤史恵、篠田真由美、柴田よしき、新津きよみ、福田和代、松村比呂美/アミの会(仮)大崎梢、加納朋子、今野敏、永嶋恵美、法月綸太郎、松尾由美、光原百合、矢崎存美
対象書籍ISBN:978-4-10-351111-3/978-4-10-351112-0

全貌を把握できない作家集団

永嶋 「アミの会(仮)」という名称を初めて耳にする方もいると思いますので、まずは、私と近藤さんが参加しているこの女性作家集団の紹介をさせてください。

近藤 そもそもは、数人の女性作家で食事をしていた時に、「せっかくだから、アンソロジーを出版しよう」という話になって、出版不況ですし、自分たちから積極的に動いてみようと。女性縛りで、他の作家にも声をかけて、メンバーを集めました。普段はお酒を飲んだり、お食事をしたり。長く続けられるように、参加も強制ではない、ゆるい会です。一応女子会ですが、むしろ、海賊の宴みたいな。

永嶋 魔女かもしれませんね。誰も全貌を把握していませんし。

乙一 海賊、魔女......。最初は何人くらいでスタートしたんですか?

近藤 5人で集まって、アンソロジーを出版するときには、9人になって。

乙一 名前の由来は?

近藤 「雨の会」という作家集団が以前あったのですが、この会へのリスペクトがまずあります。メンバーの新津きよみさんはこちらにも参加していて、アンソロジーの話が出たときに、「雨の会」みたいにしたいねという話になり、ならば、フランス語で友だちという意味を持つ「アミ」を使って「アミの会」がいいかなと。

永嶋 物語を編むという意味もね。

近藤 美しい名前をつけようという案もありましたが、綺麗過ぎて、女性集団っぽいのはちょっとイヤで。

永嶋 バンカラな集まりですから。

近藤 決定する前に冗談で(仮)とつけたのですが、ちょっと抜けている感じもいいので、そのまま今に至ります。

容赦なく不幸......

乙一 今回、僕は『迷-まよう-』に参加させていただきましたが、同時に『惑-まどう-』も刊行されます。2冊同時刊行された理由は?

近藤 1冊では納まりきれないほど、今回参加メンバーが多くなってしまったんです。これまでの3冊と差別化するためにも、2冊にして、同頁、同時刊行にしたかったのですが、それなりのボリュームは欲しかったので、ゲストの皆さんにご執筆をお願いしました。

永嶋 毎回一つ、新しいことをしたくて。

近藤 2冊目の時も感じましたが、ゲストの方が入ることによって、雰囲気が変わるので、それも変化になりますよね。

乙一 女子校から共学へみたいな?

永嶋 男子クラスが突然できたみたいな? それって、居心地悪いですよね。乙一さん、どうでしたか?

乙一 肩身、狭かったです......。

近藤・永嶋 やっぱり(爆笑)。

乙一 どう見られるんだろうって、緊張しました。ちなみに、テーマはどのように決めたんですか?

近藤 メンバーでテーマを出し合います。

永嶋 今回は2冊なので、色々な熟語が候補にあがったのですが、「恋愛」は、あまりにもパスする方が多くて早々に消えました。

近藤 私は別にいいんですけどね(笑)。

永嶋 スプラッタはいいけど、恋愛はちょっと......という方が多かったですね。

乙一 意外です。

近藤 最終的に、『迷』『惑』は、「迷う」「惑う」「迷惑」どれでもテーマにできて、広がりがあるかなと、決まりました。

乙一 面白い試みですよね。

近藤 全作品を読んだら、共通点もあり、トーンが一定しつつ、作家の個性がでていましたね。

乙一 ネタがかぶったらどうしようと心配しながら書いたんですが、けっこう人が死んでいますよね(笑)。ミステリーっぽくはならないかなと思い込んでいたので、みんな、容赦なく不幸な話を書いているのが印象的でした。

永嶋 タイトルが迷惑ですからねぇ。いくつか幸せな気分になる作品もありますが......。けど、乙一さんにそこをつっこまれるとは思わなかったです。スプラッタをあれだけ容赦なく書いている人に!

乙一 確かに、そうですよね。

近藤 参加した本で言うのもなんですが、良い本になったなぁと思っています。

「迷惑」「迷う」「惑う」

永嶋 お二人はどういう風にテーマとネタを選びましたか?

近藤 私は、どちらに収録されても大丈夫なように「迷惑」なネタを考えました。

乙一 僕は、迷って。字の意味をネットで調べたりしましたが、なんとなく、怪しい印象があって、人を誑かすような字面の「惑う」をみんな、書きたがるようなイメージがあって。それで「迷う」にしようかなと。

永嶋 そうだったんだ! 実は、東京での女子会の時に、「迷う」を選ぶ方が多そうな流れがあったんですよ。だから私は「迷う」で書いたらヤバイかなぁと。

乙一 では最初から、「惑う」で?

永嶋 とは言え、巨大迷路の話も書きたくて。けれど、うまくまとまらなくて、「惑う」にしました。占いのライターをやっていたので、ネタは惑星で、それはすぐ決まりました。けど、蓋を開けてみたら、篠田真由美さんが、迷路のお話を書いていたので、冷や汗をかきました。

乙一 僕は最初は、道に迷う話を考えたんです。カーナビが主人公で。道に迷って、運転手に怒られるんですよ。

永嶋 怒るわ! カーナビ失格だし!

乙一 けど、話がまとまらなくて、「沈みかけの船より、愛をこめて」になりました。

永嶋 実は私、とにかく乙一さんの短編を読みたくて。泣かされると分かっていながら、泣かされてしまう。読後必ず、「やりやがったな、乙一!」と思うその感覚を味わいたくて。それに、同じ賞の出身なのですが、ご一緒する機会がなかったので、お誘いしました。

乙一 ありがとうございます。

永嶋 今回の作品を拝読して、私も両親の仲が悪かったので、これは世界線が違う私の物語だと!

乙一 せ、世界線......。

永嶋 近藤さんの作品は、乙一さんとは対照的に、どこに連れていかれるかが分からなくて、いつもびっくりさせられます。収録作、「未事故物件」を読んで、途中でホラーじゃないと安心したのもつかの間、やっぱりホラーで......。

乙一 怖かったです。

近藤 ホラーとして読ませたかったので、そう読んでいただけて嬉しいです。

乙一 してやられました。

呪われた三人?

永嶋 せっかくなので、お二人が最近、「迷った」ことを教えてください。

近藤 先日、友人と北京に行ったんです。友人は3泊4日、私は4泊5日で、Airbnb に宿泊したんですが、友人が帰国後は不安なので、ホテルに移動することにしていたんです。ただ、友人の帰りの飛行機は早朝で、宿を早くに出発してしまう。私も一緒に起きて友人とタクシーでホテルに向かうか、ゆっくり寝て、一人でスーツケースを押して地下鉄に乗ってホテルに向かうか。とても迷いました。最終的には眠気が勝ち、布団の中で「先に行って」と言ったわけですが。

永嶋 睡魔が不安を吹き飛ばした!

近藤 前夜、Airbnb の家主が警察官も出動するほどの大パーティーを繰り広げて、眠れなかったんです。

乙一 北京警察......。ホテルへは無事に着きましたか?

近藤 はい。無事に。松村比呂美さんの作品のようにはならなかったです(笑)。

乙一 よかったです。僕は、小学一年生の子どもがいて、夏休みに学童のキャンプがあるんですが、それに行きたくなくて、本当に、悩みました。半数以上参加しますし、子どもも行きたがっているので、結局行くことにしましたが、見知らぬ親と何を話せばいいのか分からないし。

永嶋 すごく気持ちが分かります。子どもがらみの行事って断りにくい。

近藤 永嶋さんはどうですか?

永嶋 実は今、お二人のお話を聞きながら、答えに迷っております。まさに、ナウ、話題に迷っています。さ、では「迷惑」なことに遭遇しましたか?

近藤 自宅の目の前でいま、大工事をしていて。窓も開けられなくて......。

永嶋 私もです! 建物を取り壊しているんですよ。

乙一 実は僕も......。

永嶋 これって、解体工事の呪い?

乙一 ちょうど今、奥さんの実家が、解体工事をしています。義父は押井守監督なんですが、監督が学生時代に描いた絵が何枚も出てきて、奥さんと義母は「置き場がないから捨てよう」と。

近藤 なんと!

乙一 慌てて止めたんですが、あげたり売ったりするのは、よくないそうで。義父に打診したら、死ぬまでは保管しておいてくださいと言われて、けど置き場がないので、僕の書斎に新聞紙を間に挟んで立てかけて。ずっと置いておくわけにもいかないし、大きいし、困ったなと。

永嶋 そんなこと、書いてしまって、大丈夫ですか?

乙一 制作会社の人に相談をしたら、資料の保管場所で預かってもらえることになりましたから(苦笑)。ちなみに、次のテーマは決まっているんですか?

近藤 候補はありますが、まだです。

乙一 四文字熟語で。4冊同時刊行でお願いします。

近藤 そんなに人数が増えるかな。

永嶋 実現目指しましょう!

 (おついち 作家)
 (こんどう・ふみえ 作家)
 (ながしま・えみ 作家)

最新の対談・鼎談

ページの先頭へ