対談・鼎談

2019年5月号掲載

ヨシタケシンスケ『思わず考えちゃう』刊行記念対談

考えすぎてもいいんです!

寺島しのぶ   ヨシタケシンスケ

まじめーな事から、世にも下らぬ事までまとめた初エッセイ集『思わず考えちゃう』を前に語る。
「絵本とは?」「子育てとは?」「自由とは?」。大女優と人気絵本作家の意外な本音!

対象書籍名:『思わず考えちゃう』
対象著者:ヨシタケシンスケ
対象書籍ISBN:978-4-10-352451-9

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立派な親ではありません!

寺島 まさに今日、このスノードームって話(66頁)通りの事が起きたんです。

ヨシタケ 子供の口の中の水が、またペットボトルの中に戻っちゃったんですね。

寺島 そうなんですよ。息子が、葛根湯飲んで、苦いって水飲んだら、その後、ペットボトルの中がホントにスノードームになって。この本、超あるあるです。

ヨシタケ 子供っていつも、凄い量、水を戻す。それが粉薬を飲むと可視化されてびっくりして、イラストにしたんです。

寺島 ヨシタケさんは、観点がとっても面白い。こんな所を切り取るのって。そのセンスにくすぐられちゃいます。

ヨシタケ いろんな話を載せましたが、質より量で、どれか一個でも共感してくれればって感じで作った本なんです(笑)。

寺島 ヨシタケさんの絵本『りんごかもしれない』は、まず私が手に取って面白くて、子供が3歳くらいの時に買って読んだんです。

ヨシタケ あれが絵本デビュー作です。

寺島 子供って小さい時は意味がわからないでしょ。それから何年かたって、もう一回読むとわかる。最近、「僕、このかつらがいい」とか言って喜んでます。私は、本当は大人向けというか、子供相手だけじゃないところが好き。あんなお父さんがいたらいいなぁ、と。

ヨシタケ 絵本を読んだ方から、ヨシタケさん、さぞ立派なお父さんでしょうねって言われる事が多くて。いやいや、僕もああいう親になりたいなって、自分向けのファンタジーとして描いてるんですよって、言い訳してるくらいです。家ではいつも、早くしなさいしか言ってない。

寺島 わかるわー。早くしなさいは、時間が無いとよく使いますよね(笑)。ところで、このエッセイ集を読ませて頂いて、改めてヨシタケさんの本には、自由さがあっていいなと思いました。

ヨシタケ でも僕自身は、自由な子供じゃなかったんです。人一倍常識を気にするタイプで。こんな事しちゃダメなんじゃないかとか、こんな事やったら怒られるんじゃないかとか、そんなのばっかり気にしてました。小さい頃から自分の思った事を言わない方が、生きやすかった。

寺島 だけど、頭の中では、いつも何か考えてた。

ヨシタケ そうですね。どうしたら自分が怒られた時、僕は悪くないって言えるか、そういう事はずっと考える子供でした。今でもそうなんですけど(笑)。

寺島 意外ですが、少しわかります。『りんご』を初めて読んだ時って衝撃的でしたよ。というのはそれまで、子供のために読み聞かせは凄くいいって言って、みなさん、絵本をくださるんですけど......。

ヨシタケ その先、何言うかわかるなあ。

子育てのグレーな本音

寺島 絵本て、何か良い感じで読まなきゃいけないなーっていうのがあって。

ヨシタケ 絵本自体が持っている、プレッシャーみたいなものってありますね。

寺島 で、読むと、ああなるほどいい話だなーっていうのもあるんだけど、作者が、いい人ぶっている感じ? のもあって。

ヨシタケ 僕も小さい時に読んで、何かモヤッとする絵本てありましたね。

寺島 そう。読み聞かせてて、なんか、悪魔の部分の私が、これ、ちょっと違くないって、思ってる部分があったりして。

ヨシタケ 子供は正直なんで、2、3ページ読んだ時に、あ、これたぶんつまんねーやと気づく絵本ってあるんですね。

寺島 それです。そんな時に、『りんご』に出会ったんですよ。で、私の感覚にぴったりで、これだ! って。

ヨシタケ 凄く嬉しいですね。単なる良い事言うのは簡単だし、言った方が気持ちいいんですけど、それを子供が全部読むかと言ったら、読みゃしないんですよ。

寺島 そうですね。

ヨシタケ 子供は世界で一番飽きっぽい生き物なんで、よっぽど何かないと次のページを捲ってくれない。だから、小さい頃の疑り深い自分に、これもうちょっと読んでみてもいいかなって思って貰うものを書かなきゃと、いつも考えてて。

寺島 うちの息子は、『りんご』のかつらのページが好きですよ。りんごは頭に、「じつはかみのけとかぼうしがほしいのかもしれない」という所。で、りんごが、ハカセとか、うんてんしとか、おすもうさんとかに変身していて。

ヨシタケ あのかつらの頁が、僕の一番やりたかったことなんです。この絵の中でどれか一個選ぶとしたら、どれがいい? っていうやりとりが親子で出来るから。普段喋らない子供でも、どれが好きと聞かれたら、うーん、このかつら、って言うかもしれない。絵本を媒体にコミュニケーションが生まれるっていう事が、実は子供の頃から好きだったんですね。一つの物語にどっぷりつかるっていうよりは、現実世界に片足を置いて、僕だったらこうするけどなー、って誰かと話したかった。

寺島 なるほどなー。じゃあ、今回の本の中で私が一番好きなのは、世の中でうまくやってくためには、『その時その時にその場にいない人を悪者にしながらなんとかのりきっていこうじゃないか』(34頁)っていうイラスト。ホントそれに尽きると思ってて。

ヨシタケ そうきましたか。誰だってその場は荒立てたくないですからね。

寺島 「心配事を吸わせる紙」(30頁)も、私、欲しいです。嫌な気持ちとかって外側に付くという発想が凄い面白い。

ヨシタケ お風呂に入ると、すっきりする。これはどういう事なんだって考えた時に、嫌な物が落ちるからじゃないかとイメージしたら、凄く合点がいって。

寺島 そう言われるとそんな気がする。

ヨシタケ 僕自身、それが欲しいんです。

寺島 「明日やるよ。すごくやるよ」(32頁)ってつぶやき。これほんとうちの息子だなー。どの頁にも、ふっとみんなが思ってることが書いてありますよね。

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ヨシタケ みんなが当たり前のようにやってるけども、当たり前すぎて、やってる事を意識してない事って、世の中に沢山あって。そういうのを拾い集めるのが好きなんですね。

寺島 子育てに関する「今しかないのにもったいないのに、大事にできないやさしくできない。なぜかしら」(58頁)は、私もそう! って思いました。子供が、ねえねえって話を聞いて貰いたい時に、自分が何かやってて、結局は自分中心だから、今これやっててダメって言っちゃう。後で、子供の、たぶんその一瞬しかなかったかもしれない発見を逃したなー、ああー、って、罪悪感にかられる。

ヨシタケ そのグレーな部分こそが、実は子育てなんですよね。

寺島 でも、子供の声にちゃんと耳を傾けましょうっていうのが、今の日本で正しいとされる教育です。

ヨシタケ ただ、現実はそうじゃなくて。グレーになっちゃってもしょうがないよと思う。とはいえ出来ないよなーってのが、子育てしてて、一番の結論でした。

寺島 そうですよ。やりたいのは山々なんだもん。

ヨシタケ 正解はそっちって、そりゃ知ってるよ。でも、実際はこうだよなって。そこを両方ちゃんと言うべきで、その出来やしないというところから、じゃあ何なら出来るのかって、始めたいわけですよ。そう考えて、描いたんです。

自由って、難しい

寺島 この本は、自由って事が、隠れテーマじゃないですか。最初も「ご自由にお使いください」(18頁)から始まって。

ヨシタケ 最終的に、そうなりましたね。

寺島 私は卑屈な子供だったんですよ。あなたは、弟みたいに歌舞伎役者のレールを敷かれてるわけじゃないんだから、何やったっていいんだよって、親に言われたけど。何だっていいって意味が全然分からなくて、自由が苦しかったんです。親は教えてくれなかったし。自由って、こういう事なんだって分かるのに、ものすごい時間がかかりました。

ヨシタケ 自由って、難しいですよね。

寺島 だから、ヨシタケさんの本を息子と読んで、一緒に自由について考えてみたい。君はどう思う? って二人で話せば、子供なりに何かわかるかもしれないから。息子とはそうしたいなあ。例えば、「裸シートベルト」(60頁)。自由すぎて、滅茶苦茶笑いました。

ヨシタケ あー、よかった。

寺島 これ、息子見たら絶対、俺もやるって言うと思います。裸族なので(笑)。

ヨシタケ やってみたくなればもう、しめたものですね。

寺島 あるあるを、少しシニカルにすると、ヨシタケさんの見方になるんですね。

ヨシタケ 自由って何だろう、って、大きなテーマですけど、その答えが自分なりに見つかった人が、幸せに近い状態になれるかなと。

寺島 ホント、そうだったなー。

ふと気付くと、考えてる

ヨシタケ 自分が親になって思うのは、親だからこそ子供に言えない事ってあるわけですよね。他人だったら言えるけど。

寺島 親だからこそ出来る事もあるし、親だから出来ない事もありますよね。

ヨシタケ 一方で、子供も学校へ入ると、どうやら親の話、実際の世の中とずれてるぞって段々気付くわけですよね。どうしてかって言うと、絵本だったり、漫画だったり、テレビだったり、映画だったりがこっそり教えてくれる。そこから、夢ってかなわないよなとか、大人って結構いい加減とかって事を学ぶ。

寺島 その考え、素敵だなー。

ヨシタケ でも、親の言ってる事が違うじゃないかと、かえって親子で揉めてしまう場合もあるわけで。

寺島 そこが難しい。

ヨシタケ 本当は、親だって、子供といろんな話をしたいわけですよ。子供の考えている事だって、昔、子供だった事があるので、結構わかっている。でも、実際、働いて、生活していると、そんな余裕もないわけじゃないですか。

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寺島 子供の話に、どうしても結論を急いでしまうんですよね。時間ないし、忙しいし。

ヨシタケ だからこそ、絵本とか、何か話のきっかけになるものがあれば、助かるっていうのが僕自身もよくわかってきて。自分から子供に大事な話を切り出すのって、面倒くさいじゃないですか。でも、よく読んでる絵本とか、たまたま見たテレビのアニメの中でそういうテーマが扱われていた時、その物語をきっかけに、子供と今の時点で何をどう思ってるのか、価値観の共有を出来るかもしれない。そういう所に一役買えたらなって、いつも考えてます。

寺島 やっぱりねー。今日、ヨシタケさんと会って、何だか自分とすごく似てると思いました。人生、そうそううまくいくわけないよねって、私もいつも考えてて、順風満帆て言葉が好きじゃないんですよ。いい事があると、悪い事あるなっていつも思ってたし。

ヨシタケ わかりますわかります。

寺島 それでも若い時は、自分の感性だけを信じてやっていたのが、いろんな事情で、そうも行かなくなって来ちゃった。例えば、子供のためにこういう事言ったら世間体が良くないよなとか思うようになったりとか。子供にサンキューって思う一面、何てつまんない人間になって来ちゃったんだろうとか。

ヨシタケ すごくわかります。

寺島 でもそういうのを健全に感じられてる私は、まだいいのかなって思ったり。生まれてから死ぬ時まで同じ人間なわけはないはずなんで、まあそれも人生という事で、いいのかなあなんて。そういう、いろんな事をいつも考えてて。

ヨシタケ だんだん面倒くさくなりますよね。そのこと自体が。

寺島 そうなんですよ。だから最近は、どんどん切り捨てて、今ある必要な事だけやっていけば、きっとどうにかなるさ、みたいな。

ヨシタケ でも結局は、ふと気付くと何か考えちゃってるんですよね。

寺島 そういう事でいいんだってことを、ヨシタケさんの本を読んで感じました。そして今日お会いして、やっぱりそういう方だったなって、嬉しかったです。

ヨシタケ きれいにまとめて頂いて(笑)。

 (よしたけ・しんすけ 作家、イラストレイター)
 (てらじま・しのぶ 女優)

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