対談・鼎談

2026年6月号掲載

『みんな、好きが下手』刊行記念対談

イタくなれ、欲しがれ、ちゃんと疲れろ! 成長に不可欠な青春の「痛み」とは?

小林早代子 × 佐伯ポインティ

「まるで恋愛リアリティショーを見てるみたい」「読んだら絶対に語りたくなる!」と発売前から話題の『みんな、好きが下手』。著者である小林早代子さんとお悩み相談Podcastが人気の佐伯ポインティ氏がSNS時代の青春について熱く語り合いました。

対象書籍名:『みんな、好きが下手』
対象著者:小林早代子
対象書籍ISBN:978-4-10-351763-4

読んだことのない手触り

小林 昨年は文庫『アイドルだった君へ』の書評を有難うございました! ラジオでも私の本を取り上げて下さって、本当に嬉しかったです。今日の対談に備えて、最近ずっとポインティさんのラジオを聴いていました。

ポインティ こちらこそ、貴重な機会をいただけて嬉しいです。

小林 書評に添えられていたヤギと一緒に写ってるプロフィール写真がめっちゃ可愛かったです。昨今の推し活観やファン心理に触れた鋭い書評とユルい写真のギャップがたまらなかったです。

ポインティ あれは北海道で撮った写真です。小林さんはいまアメリカにお住まいなんですよね? なんかカッコいい名前の土地に住んでるって聞いたような……。

小林 昨年までカリフォルニアに住んでたんですが、ニューメキシコ州に引っ越しました。標高が高い街なので空気が薄くて乾燥してて、転居後しばらくは高山病のような症状に悩まされました。人は少ないけど鹿はたくさんいるエリアで、運転中に鹿の横断待ちをすることもときどきあります(笑)。

ポインティ まさかそんな環境で小説書かれてるなんて思わなかった! 新刊『みんな、好きが下手』、読んでいくうちにドンドン引き込まれました。現代の日本って、スマホやSNSの登場でいくらでも効率的に生きられるようになってるじゃないですか。主人公のジン太も普通の大学生だから、非効率を避けて生きようとしてるんですけど、イタくなれ、欲しがれ、ちゃんと疲れろ! って激励してくれてるように感じました。まさにSNS世代の青春小説ですね。

小林 ポインティさんと私は同世代で、感覚が近いのかなと感じていたので、そう言ってもらえて嬉しいです。

ポインティ 「インターネットと青春」をテーマにされたということでしたが、いい意味で予想を裏切られましたよ。スマホ時代が到来しても避けて通れない、恋愛の面倒臭さや人間関係のややこしさが、切れ味鋭く書かれてて衝撃を受けました。小説でそういうことを書こうとすると、ある意味予定調和っぽくマイルドになるのに、『みんな、好きが下手』は、まったく容赦がない(笑)。小説の中の、イタさや拒絶の描写が具体的で、読む人を刺しに来てる! って思いました。例えば、ジン太が好きな人から振られたあと、以前思いを寄せてくれていた同級生のとっきーにふとLINEを送るじゃないですか。そしたら、とっきーがインスタのストーリーズで「本当にむり」って投稿してて、この拒絶具合、もう手触りがありすぎてヤバい。あと、酔ったジン太が自分を振った女の子に「I really miss u」って英語交じりのLINEを送るシーンなんて、ここまで書くか! って唸りました。「普通の大学生がイタい瞬間」の解像度が高すぎるんですよ。時系列に沿って小説が展開することもあって、だんだん登場人物に思い入れも生まれてきて、大学生VRって感じでした。

小林 そこを評価してもらえて嬉しいです~! あのイタさって、自分でもギリギリやりそうなイタさ具合ですよね。身に覚えがあるというか……。私も、酔ったらああいうLINE送りそう。

ポインティ イタさ、キモさのリアリティラインの高さというか、再現度がすごいですよね。ジン太といい感じだった那月さんが、彼女の部屋で喧嘩するところで「一人二役でキレる」っていうシーンありますよね。あれも秀逸でした。喧嘩してる間にボルテージが上がってきて、だんだん自分の嫌な人格が表に出てきちゃって、めちゃくちゃ面倒臭い人間になってるんだけど、それでも止められない感じ……。こういうこと、現実では頻繁に起きてると思うんですけど、小説では読んだことがなくて、新鮮さを感じました。そもそも、どうしてこういう小説を書こうと思ったんですか?

小林 ん~そうですね。ちなみに、主人公のジン太は「ごめん」や「ありがとう」が素直に言えないという設定なんですが、ラジオを聴いたりエッセイを読む限り、ポインティさんはそういうことが言える人という印象があります。自覚としてはどうですか?

ポインティ あ~確かに僕は屈託なく言える方です。こういうの細かく伝えるのが大事なんだよな、とむしろフィクションから学んだかもしれません(笑)。

小林 やっぱり! 私はどちらかというと言えないほうで、メンタリティはジン太に近いんです。でも、おしゃべりが苦手なわけじゃないし、むしろ好きな人とは延々としゃべっていられるタイプ。なのに照れや妙な自意識が邪魔して、親しい人ほど素直に気持ちを伝えられないんです。そういう不器用さゆえの地味な失敗や葛藤を書きたいと思ったことが、この小説を書いた理由の一つです。

ポインティ ジン太は小林さん自身だったんですね!

小林 あと、私が中学生くらいの時からインターネットが流行りだして、当時はみんな個人サイトとか作ってたんですよね。そこに自分のブログや友達のサイトのリンクを貼っていました。あとは、「リアル」と呼ばれていた、今でいうXのようにリアルタイムで近況をポストするやつをみんなやってたり……。学校で会う友達とのやり取りのほか、インターネット上でのコミュニケーションが重なり合って、一つの人間関係として成立しているっていう感覚がずっとありました。そういう当たり前にリアルとインターネットが混ざり合った小説を書きたいなと思ってできたのが『みんな、好きが下手』です。

人間関係で疲れろよ!

ポインティ 那月さんのセリフに「私とのコミュニケーションに手を抜くなよ! 私で、ちゃんと、疲れろよ!」っていうのがあるじゃないですか。ある意味この小説を象徴するセリフだなと感じたんですが、これってどういう思いを込めたんですか?

小林 さっきも少し触れたんですけど、私は主人公のジン太に感情移入することが多かったんですよね。自分に置き換えて考えてみると、人間関係で疲れたくはないんですよ。でも、小説を書きながら、コミュニケーションをサボろうとするジン太はやっぱり罪深いなって思いました。自分やジン太みたいに楽して生きようとしている人に対しての戒めみたいな気持ちから生まれたセリフかもしれません。小説の中でジン太はゴネたり、未練がましく縋ったり、何度も連絡をしたり、いわゆる恥ずかしいダサムーブを重ねますけど、そういうことをやらないと至れない境地というか、やって初めて分かることって絶対ありますよね。

ポインティ 確かに。最近、恋リア(恋愛リアリティショー)が流行ってるじゃないですか。恋リアを観ることで恋愛の疑似体験をしているというか、痛みを伴わずに恋愛的な感覚を享受できるっていう利点があって、それが現代の感覚にフィットしてるのかなと感じてました。ちなみに小林さんは恋リア観ますか?

小林 アメリカに来てからあんまり観なくなっちゃいました。あと昔から、恋リアを観るより、恋リアを観てる人のSNSの反応とか、感想を読むほうが好きなんですよね。みんな好き放題に勝手な感想とか、時には悪口すら言ってるのが面白くて。

ポインティ 恋リア観てる人は、出演者のことを友達みたいに語りますよね。実際には会ったことも話したこともない人たちなのに、身近な人のことみたいに話すあの現象、けっこう興味深く見ています。

小林 三十代になって、新鮮な恋愛話が提供されにくくなってきたことも、同世代で流行してる原因なのかもと思いました。ライフステージが変わって、自分も含め、異性とのリアルな恋愛から遠ざかってるんですよね。だから、恋リアというコンテンツで恋愛話を提供してもらえて、貴重な経験を共有してくださって有難うございます! という気持ちです(笑)。やっぱり、人の恋愛話って面白いじゃないですか。

ポインティ めっちゃ分かります。あと、お悩み相談のPodcastをやっていて思うのが、今はリアルな恋愛で失敗するのを避ける人が増えていると思います。コミュニティの調和を乱したら自分が“加害者”になってしまうかもしれない。それは絶対に避けたいから、デートに誘ったり告白したりしないでおく。もちろんそれは確実に良い社会になっていってるのかもしれませんが、それによって経験できなくなるものもあるな、と思います。

みんな、SNSも下手

ポインティ 連載時は「よう言わんわ」っていうタイトルだったのに、単行本化に際してタイトルを変えたのは何か理由があったんですか?

小林 ジン太の一人称小説で、私もジン太に感情移入しながら書いていたこともあって、主人公の気持ちを象徴する意味で「よう言わんわ」っていうタイトルで連載を始めました。でも書き終えてみて、ちょっと内容とそぐわないなって感じたんですよね。それに、関西人が一人も出てこないのに「よう言わんわ」ってなんか変だなって。

ポインティ たしかに(笑)。でも、『みんな、好きが下手』になったのはどういう経緯があったんですか?

小林 ゲラを読んだ新潮社の社員の方で「那月の気持ちが理解できない。ジン太があんなに責められるなんて可哀想」という感想を下さった方がいたんです。私も担当編集者も「ジン太」にフォーカスしていたんですけど、ちょっと引いた視点で見ると、ジン太だけじゃなくて、登場人物みんな不器用で恋愛下手なんですよね。そんなことを編集者と考えている中で生まれたタイトルです。

ポインティ 「下手」っていう言葉に内包される不器用さや愛おしさも感じられて、いいタイトルですよね。『みんな、好きが下手』の中には、いろんな関係性の「好き」が出てきますし。

小林 みんな好きが下手だし、SNSも下手ですね。

ポインティ 小説の中ではインスタやX、TikTokなどいろんなSNSが出てきますよね。こういうSNSが定着してきたのってここ十五年くらいのイメージなんですけど、自分の人生の半分以上、特に思春期にSNSがあるかどうかというのが、SNSというコミュニケーションツールとのかかわり方で大きく変わってくる気がします。僕らと同世代でも「高校時代にSNSがなくて良かった~」とか言う人いるじゃないですか。それは直観的に「思春期とSNSは相性が悪い」って感じているところがあるからだと思うんですが、それってけっこう勝手な見方だなとも思うんです。

小林 私も同じです。彼らはSNSがあることで、きっと憂き目に遭っているんだろうなって思っちゃう。でも、SNS直撃世代からすると、意外と気にしてないというか、そもそもスマホが無い時代を知らないし、「SNSがある時代を生きている」ってだけな気もするんですよね。

ポインティ 当事者からしたら、悲喜こもごもあって当然ですよね。でも「喜」の部分ってなぜか見えづらい。特に世間的な評価や雰囲気として、SNSの雲行きが怪しいから「SNSがあってよかった」って言いづらくなっている感じもあります。そんな中で、この小説の中でジン太はSNSによって救われたり、SNSのおかげで現実に向き合うことができるようになるじゃないですか。これも、いい意味で意外というか、予定調和じゃないのに納得感があって、小林さん独自の視点を感じました。

小林 有難うございます。書き始めたころは、「SNSを手放して現実を楽しもう!」という流れになるかな、と考えていたんですが、自然とそうじゃない方向に展開しました。SNSが悪者になりすぎてるから、逆に応援したいというか、ハッピーなSNS世界も存在するんじゃないかなっていう期待を込めているのかもしれません。現実でも、SNSの逆転を見たいですね。

ポインティ SNSの逆転、めっちゃいいですね(笑)。SNS直撃世代や現役大学生がこの小説をどう読むか、すごく気になります。

小林 私も、ちょっと若作りして書いたところがあるので、登場人物たちと同じ世代の人がどんな感想を持つのかドキドキしています。SNSのありようもそうですけど、小説で描写したことって、いずれは古くなるんだろうなという覚悟もあるので、旬なうちにいろんな方に読んでもらいたいなと思います。

(さえき・ぽいんてぃ マルチタレント)
(こばやし・さよこ 作家)

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