書評
2020年4月号掲載
“愛のような夢”を実現した写真集
水越 武『日本アルプスのライチョウ』
対象書籍名:『日本アルプスのライチョウ』
対象著者:水越武
対象書籍ISBN:978-4-10-315233-0
世界にその名を知られる山岳写真家であり、御歳80を超えた今なお厳冬期の日本アルプスに分け入る孤高の登山家、水越武さんには、若い頃からずっと抱いていた夢があった──いつかこの神秘的なライチョウをとりあげた「物語」をまとめてみたい──。半世紀にわたり、世界中の山岳や森林の撮影を続ける中で、常に意識し続けてきたもうひとつのテーマが「ライチョウ」だった。
2015年、山岳写真の集大成となるモノクロームの写真集『真昼の星への旅』(小社刊)を刊行すると、水越さんはすぐに次なる夢、本人のお言葉を借りれば「時を経ても変わることのない愛のような夢」を実現するための準備にとりかかった。これまで撮り続けてきたライチョウの写真を見直す傍ら、謎とされてきたライチョウの越冬地を新たに撮影するため、雪深い晩冬の白馬岳にも分け入った。
本書の編集に際し、水越さんはライチョウの写真のみならず、彼らが生息している場であり、水越さん自身のライフワークでもある日本アルプスの山岳写真も多数、候補として選んでいた。『真昼の星への旅』でモノクロームで展開された日本アルプスの風景が、本書ではフルカラーで多数登場する。
特別天然記念物にして絶滅危惧種──そんなライチョウの生態や現状とともに、「日本のライチョウはなぜ人間を恐れないのか?」など、日本人とライチョウの歴史的な関係や文化史も含め、様々な角度から読み解くコラムも収録。解説は、盟友であり、ライチョウ研究の第一人者である中村浩志さん(信州大学名誉教授)が執筆した。
水越武が全身全霊を込めて、ライチョウへの、山への熱い想いを結実させた1冊──必見です!
(担当編集者)