対談・鼎談

2021年9月号掲載

長江俊和『出版禁止 いやしの村滞在記』刊行記念対談

「謎」の楽園――作る楽しみ、解く快感

長江俊和 × 有田哲平

謎解き好きで知られる有田哲平さんは、映像作品「放送禁止」シリーズの大ファン。
その活字版とも言うべき「出版禁止」シリーズ新作の刊行を祝し、
作り手と解き手の二人が、「謎」の魅力を存分に語り尽くす。

対象書籍名:『出版禁止 いやしの村滞在記』(新潮文庫版改題『出版禁止 ろろるの村滞在記』)
対象著者:長江俊和
対象書籍ISBN:978-4-10-120745-2

★「放送禁止」とは お蔵入りになっていたVTRを再編集して紹介する、という体裁のフェイク・ドキュメンタリー。いくつもの謎が隠されているが、詳しい解説はなく、視聴者自らが頭を悩ませる必要があるため、「謎解き好き」から熱狂的な支持を得る伝説の映像作品。テレビ版七作、劇場版三作がある。

長江 新作『出版禁止 いやしの村滞在記』(註:「いやしの村」という共同体への潜入取材の記録、という体裁のフェイクノンフィクション)、いかがでしたか?

有田 いやー、やっぱりやられましたね。長江監督お得意の「出版禁止」ですから、仕掛けてきてるんだろうって、そういう心構えで読んだんですよ。だから、常に何か引っ掛かってる。ずっと「何これ? おかしい」っていうのはある。なのに、全然分からない。

長江 凄い、手書きのメモがびっしり。

有田 考察しながら読んだんです。なんか怪しいなってのは気付いているのに、はっきり「こうだ!」とは形にできないんですね。もやもやしたままなんだけど、とにかく先を読みたくて仕方ない。

長江 嬉しい感想、ありがとうございます!

有田 最初、ちょっとだけと思って読み始めたんですよ。でも、気付いたら朝の五時で、一気読みでした。いやー、今回もやられましたね。そして、読み終わってから、「正しい読み方」で二回目を読みました。冒頭の詩も、●●●には気付いていたのに、それが何を意味するかは全然分からなかった。

(註:●●●はネタバレ伏字、以下同)

長江 いきなりそこに気付かれるとは、さすがですね。

有田 最後にきちんと説明があっても、頭の中で整理がついてないところがあるんですよ。それで、仕掛けが分かったうえで二回目を読んでいくと、「なんだ、ちゃんと書いてあるじゃないか!」と。この面白さが、「出版禁止」の醍醐味なんですよね。二回でも三回でも楽しめる。この作品は、いつ頃から考えてらしたんですか?

長江 書き始めたのは、去年(二〇二〇年)の一月くらいからですね。

有田 結構前なんですね。テーマや題材もそのときに?

長江 担当編集者が、テレビの「放送禁止」ファンで。中でも5の「しじんの村」が大好きなんですよ。

有田 僕も、一番好きなのは「しじんの村」です。

長江 ああいう世界観で、呪いとか宗教的な感じのものをやりたいね、って話になって。「しじんの村」を観たことがある人にも楽しんでもらえるようにというのは、特に注意しました。書いてる間ずっと、早く有田さんに読んでもらいたいな、と思ってて。

有田 メールいただきましたからね。「『しじんの村』っぽいやつを書きました。内容は全然違いますけど」って。それを踏まえて読んでるわけです、こっちは。焼き直しなんて絶対するわけないから、今度はどんな手で来るんだろう、って。

長江 嬉しい反面、凄いプレッシャーですね……。

有田 でも、全然分かんなかったなあ。やられました。本当に面白かった。沢山の人に勧めたいですね! 「放送禁止」をご存知の方に対して言えば、僕なんてもう死ぬほど観てるわけですけど、それだけ観ている人間が、やっぱり唸る内容なんですよ。そして、ミステリー好きも納得させられる内容ですね。更にこれ、映像化、絶対不可能。だから、本で読んでもらうしかない。
 ところで、相当取材されましたか?

長江 実際にどこかへ行って現地取材した、ってことはないですが、呪いとか、そういった関連の本は読みまくりました。

有田 「へえ、そうなんだ」みたいな話とか、論文みたいなのが沢山入ってるじゃないですか。書くの、苦労されたんじゃないですか?

長江 横溝正史に『悪魔の手毬唄』っていう名作があるんです。それは鬼首村という場所が舞台で、「鬼首村手毬唄考」っていう郷土史の研究記事を紹介するところから、小説が始まるんですよ。地勢がどうとか、人口は何人とか。そういう架空の学術論文のようなものを入れてみたかったんですよね。あれ書いてるときが一番楽しかったです。

有田 大変なんじゃなくて、楽しかったんですか。しかも、あれが後からちゃんと効いてくるんですよね。

長江 実は、「●●●」という大オチは、最後に思い付いたんですよ。書きながら、何か足りないなと思っていて。これを思い付くまでが、一番苦しんだところかもしれないですね。

有田 え……。あれ、最初はなかったんですか? てっきり最初から決まっていたのかと。

長江 途中まで書き進めたところで、乗らなくて一回書くのやめたんです。しばらく時間をおいて、構成を見直してるときに、「あっ!」と閃いたんですよ。「●●●」にしてやれ、って。

有田 それで今の形に。

長江 最初の原稿は、最後の説明も何もなくて、ある場面でスパッと終わってたんです。そのままだとさすがに分からないんじゃないかって話になって、最後に解説っぽい章を入れました。

有田 とはいえ、今の状態でも、全部丁寧に解説してくれてるわけじゃないですよね。自分で考えないと分からない部分がある。「放送禁止」でもそうですけど、その塩梅が絶妙だな、といつも思うんです。

長江 そこは最後まで悩むところで。正解がないから、難しいですね。

有田 ファンとしては、説明しない部分は残しておいて欲しい。

長江 そうですよね。全部明かしたらつまらない。

有田 自分で考えて分かって「うわっ!」って驚いて、全部解明したつもりになってても、「じゃあこれ気付いた?」って差し出されるようなネタが、必ず一個くらいは隠されてる。

長江 意図していない読み解きも、結構あるんですけどね(笑)。

有田 「放送禁止」や「出版禁止」って、こっちが勝手に考えて、色々思い込んでるところ、絶対ありますよね。

長江 そんなふうに入り込んでもらえるのは嬉しいし、そういう考察の中に、自分では意識していなかったけど、深層心理ではきっとそうだったんだろう、みたいな指摘があったりするのも、楽しくて怖いところですね。

最初は「なんじゃこりゃ?」だった

有田 長江監督の作品にハマった切っ掛けは、「放送禁止」なんです。何となく三本組のDVDボックスを買った。まず一本目を見たんですが、最初は「なんじゃこりゃ?」と思ったんですよ。何がなんだか全然分からなくて、最悪だよ、って(笑)。タイトルからして、何らかのタブーを扱ってると思うじゃないですか。でも見ると、何が「放送禁止」なんだか分からない。損したなあ、なんて思ってたんですが、僕が買ったのはボックス、三本組なんですね。ここがポイントなんです。レンタルで1しか見てなかったら、僕はここまで来なかった!

長江 来ませんでしたか(笑)。

有田 せっかく買ったし、もったいないので、仕方なく2を見たんです。そしたら、今回の小説と同じで、途中から「あれ? あれれ?」という違和感がどんどん出てくる。

長江 「ある呪われた大家族」ですね。

有田 そうです。早い段階から、なんか変だな、ちょっと待てよ、考えすぎかな、とか色々気になるんですが、最後に「え? そういうことなの?」と、予想外のところに連れて行かれる。そうして、ようやく楽しみ方が分かって、3の「ストーカー地獄篇」は、心の準備をして見たんです。

長江 何も知らないで見るのと、仕掛けがあるはずだ、という心構えで見るのとは全然違いますもんね。

有田 でも、そのときは、さっぱり分からなかった。「放送禁止」ファンの風上にも置けないくらい見落としが多かった。それで、初めてネタバレサイトで調べたんですよ。そしたら、自分がまったく気付けなかったことが沢山書いてあって、「あ、あ、ああーっ! すげぇ!」ってなって。「放送禁止」はまだまだこんな見方があるんだ、と感動したんですよ。それからはもう「楽しい、楽しい」って、友達にぶわーっと宣伝して。僕、いいなと思ったものは、みんなに勧めまくるんですよ。

長江 有田さんから勧められて見た、という話を何人もの人から聞きました。ありがたいです。

有田 「一緒に見よう」って、テレビ局の人とか、芸人仲間とかで集まって鑑賞会をやったりして。見終わってから、「さあ、どう思う?」って僕が司会をやるんですよ。一人ずつ気付いたことを言ってもらって、断片を集めて。自分が気付けなかったことを聞いてるうちに、一人また一人と、「分かったーー!」ってなっていくんですよ。それを上手く誘導するのが楽しくて。

長江 もの凄く贅沢な鑑賞会ですね。

有田 この会、メチャクチャ好評なんですね。今でもやってますけど、来た人はみんな絶対にハマる。ただ、僕は二十回も三十回も見てますから、みんなが「あれ、何か映ってたぞ」とか盛り上がっているときに、一人だけ黙って終わるのを待ってるのが辛い(笑)。初めて、リアルタイムで楽しめたのが、6の「デスリミット」です。みんなでテレビの前に集まって鑑賞して。ああだこうだ考察するのが本当に楽しかったですね。そして、満を持して劇場版「密着68日 復讐執行人」に行くわけです。もちろん、初日に。

長江 初日ですか!

有田 ファン仲間と一緒にね。もう凄かったですね。ネタバレにしかならないので、詳しいことは言えないですが、テレビ版6から劇場版へのつながりは、僕の中で、他に匹敵するものがないくらいの感動でした。でも、残念ながら、本当の大オチは分からなかった。

長江 DVDの特典映像で明かしてるやつですね。

有田 全部分かったつもりでも、それでもまだ何かあるのが「放送禁止」なんですよね。それで、劇場版を三作見終わったくらいのタイミングで、とうとう長江監督にお目にかかれることになった。

長江 フジテレビのプロデューサーさんが紹介してくれて。

「放送禁止」新作秘話

有田 あんな映像作品作る人ですからね、エキセントリックな人なんじゃないかとか、取っ付きにくい人なんじゃないかとか、とんでもなく妄想が膨らんでて。

長江 そうだったんですか。

有田 「あ、そう。見てくれてるの」みたいな素っ気ない感じだったり、「俺はやりたいことしかやらねえよ」みたいな尊大な人だったりするのかな、と。ところが、実際に現れたのは「あ、どうも、どうも」みたいな、もの凄く腰の低い人で。

長江 僕も、有田さんが「オールナイトニッポン」で、「放送禁止」のことを話して下さってたというのは聞いていました。だから、「遂にお会いできるのか」って、楽しみでしたけど、緊張もしてたんですよ。売れっ子で、テレビであれだけ番組持ってる方ですから、それこそ、オラオラみたいな感じなのかも、とか思っていたら、全然そんなことなくて。

有田 もう、一番弟子ですからね。「監督、あそこどうなんですか?」って、聞きたいことだらけでした。しかも監督は、「色々やりたいですね」なんて言ってくれて、凄く前向きでバイタリティーもあって。

長江 映像作るのも小説書くのも好きなので、機会さえあれば色々やりたい気持ちは常にあるんですよ。

有田 だからね、もったいないんですよ。「放送禁止」も「出版禁止」も、もっと沢山の人に届けたい! そんなふうに、僕があまりに熱いファンだったこともあって、プロデューサーさんに「放送禁止の新作やりましょうよ!」みたいなことを言ったんですよね。

長江 それで実現したのが、「放送禁止 ワケあり人情食堂」ですね。

有田 新作では、僕はもう特権で、ストーリーテラーをやらせていただいたんです。「放送禁止」を知らない人も「有田がまたなんか変なこと始めた」と思って見てくれればいいな、という気持ちもあって。それに、ただのドキュメンタリーとして見てしまうという人も多い、って話も聞いてたんですよ。

長江 最初と最後を見てないと、ただのドキュメンタリーにしか思えないですからね。

有田 そうなんです。でも、「見方が違うんだ、そうじゃないんだ」っていうのを伝えたくて、最後に解説っぽいものを入れさせてもらいました。本当は、あそこを考えるのが一番の楽しみですから、DVDの特典とかでやることなんですけど、あのときは、その場である程度完結して楽しんでもらうというのを一番に考えたので。
 いち早く完成版を見せてもらって、長江監督自らに「さあ有田さん、どうですか?」ってやってもらえたのは嬉しかったですね。

長江 最初の試写は、謎解きがない、メチャクチャ難易度が高いバージョンでしたね。

有田 気付いたことを言うと、「いいとこまでいってますね」とは言われるんですけど、全然真相には至れない。そして、ちょっとずつヒントを貰って、最後に「ああーっ、そうだったのか、すげえ」ってなる。今まで自分が周りにやってたことを、初めて、しかも監督にやってもらえたのは、本当に特権的な喜びでしたね。

一緒に作品を作りたい

長江 もうすぐね、「世界で一番怖い答え」っていう番組でご一緒させていただくんですよね。

有田 超短い「放送禁止」みたいな映像もありますよね。とはいえ、でもやはり願わくば、新作ですね。「放送禁止」の新作、「出版禁止」の新作。これ、発売前の新刊についての対談なのに、もう次の作品を催促している(笑)。

長江 そうですね、僕は自分の映像や小説を勝手に「禁止シリーズ」って呼んでるんですけど、映像でしかできないことを「放送禁止」で、文章でしかできないことを「出版禁止」で続けていきたいと思ってるんです。

有田 ちゃんと色分けできてていいですよね。

長江 でも何を作ってても、「こんなんじゃ有田さん、納得してくれないかもしれないな」と心配になることはあるんですよ。

有田 そんなにハードル高くないですよ。

長江 有田さんと、その背後にいる「禁止」シリーズ好きな方はどう思うのかな、というのは絶えず気になるし、意識してます。期待に応えられるだろうか、と。

有田 そんなことは気にせず、どんどん作って下さい。僕はただの一般読者、視聴者ですし、「なんだこれ」なんて言うことは絶対にないですから。ただ、売る努力はしますよ、売るというか、布教、広報活動ですね。僕は、長江監督の作ったものをどうやったらもっと広げられるかってことを、いつも考えてますから。

長江 いやもう、本当にありがたいです。

有田 僕自身が楽しむのもありますけど、見ながら「これ、あいつに見せたら喜ぶだろうな」みたいなことばかり考えるようになりました。何なんですかね、いつの間にか、プロデューサー気質になったのかな。

長江 自分の好きなものを、沢山の人に知ってもらいたい、っていう気持ちはありますよね。

有田 もう、「自分が笑い取りたい」とか「自分が演じたい」よりも、「何かいいもの作ってみんなに見せたい」「裏方でいい」みたいな気持ちの方が強くなってるのは確かなんですよね。誰かが喜んでくれればそれでいい、っていうね。

長江 人間が出来ている、としか言いようがないですね。

有田 なんか、あるときからちょっと変わってきてるんですよね。「有田さんが紹介してくれたアレ、めっちゃ面白かったです」って言ってもらえれば、それだけで充分嬉しいなって。
 もう監督も五十代で若くないわけですから、今の体力のあるうちに、映像でも小説でも、新作を沢山作って下さい。そして、一緒に何かやらせていただきたい、という夢もあるんです。

長江 本当に、是非なにかやりたいですね。

有田 僕の方から、「こういう企画やりたいんで、手伝って下さい」でも、監督から「有田さん、出て下さい」でも、どっちでもいいので、お互い遠慮なく言い合って、何か作品を作りたい。

長江 できる限り映像と小説の新作を作り続けていきますので、何とかして有田さんとの仕事も実現させたいですね。

有田 アイディアが固まったら、いつでも声かけて下さい。僕は何でもやりますので。

長江 有田さんを主役にしてずっと撮ってるんだけど、当の本人は言われた通りやっているだけで、何が起こっているか全然分からない。編集された映像で初めてどんな話だったか分かる、みたいなことができたら面白そうですね。

有田 いいですねえ。僕は何だか分からないまま、言われるまま演技して、放送で初めて意味が分かる。ファンとしても楽しめるし、一石二鳥ですね。絶対やりましょう。

長江 有田さんに面白がってもらえそうなことを、これからも頑張って考えようと思います。本日は、本当にありがとうございました。

有田 こちらこそ、ありがとうございました。


 (ありた・てっぺい お笑い芸人/コンビ名:くりぃむしちゅー)
 (ながえ・としかず 小説家、映像作家)

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