書評

2023年7月号掲載

外国人妻との生活で見えてくること

中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』

中島弘象

対象書籍名:『フィリピンパブ嬢の経済学』
対象著者:中島弘象
対象書籍ISBN:978-4-10-611002-3

 2015年10月、フィリピンパブで出会った、フィリピン人女性ミカと結婚した。
 交際当初、フィリピンパブ嬢との交際に周囲は大反対。ミカも奴隷扱いともいえる契約を暴力団関係者と結ばされ、低賃金に加え、日常生活も厳しく管理され、自由は全く無い状況での交際だった。
 様々な困難を乗り越えながら、結婚するまでの過程は前著『フィリピンパブ嬢の社会学』で詳しく書いたので、そちらを読んでいただきたい。
 無事に結婚した僕たちだが、安定した生活とは程遠かった。妻はフィリピンパブ嬢。夫である僕はたまにある日雇い現場仕事やアルバイトをするだけ。収入の殆どは妻に頼っていた。
 しかし、転機が訪れる。子供が産まれたのだ。僕たち夫婦は、ついに生活について向き合う時が来た。
 外国人であるミカは、日本で子供を産み、育てながらも、日本語の問題や支援制度への繋がり方、母国の家族との関係、送金などの問題に直面する。
 外国人が日本に暮らしているのが当たり前になった今、メディアやSNSで取り上げられる彼らの姿は「可哀想」や「たくましく生きる」「迷惑」といった側面ばかりが強調されがちだ。
 本書ではそんな「特別」な姿ではなく、外からの取材では見えてこない、外国人妻と一緒に日々生活しているからこそわかる「日常」の部分を書いた。
 フィリピン人妻ミカを傍で見ていると、外国人だから困ることもあれば、外国人だからこそ気づく日本の良さもある。
 衣食住など、生活する上で必要なものは日本人でも外国人でも同じだ。子育てや日々の生活の中で、同じように悩み、喜び、幸せを感じる。
 人生は計画通りにいかない。出稼ぎ目的で来日し、数年したら母国に帰ろうと考えていた外国人の多くも、日本で生活の基盤を築き、幸せに日本で生活を続けることを望むようになる。
 また、我が子のように日本人とフィリピン人の親を持つフィリピンハーフも既に多くいる。日本とフィリピンにルーツを持ち育った彼らに、幼少期からを振り返ってもらい、様々な話を聞いた。
 貧しい幼少期を過ごした人。日本国籍を持ちながらフィリピンで育ち、日本に「出稼ぎ」に来た人。両親がフィリピン人で本当は日本人になる要件を満たさなかったが「日本人」として産まれてきた人。自身の見た目や名前で苦しみながらも、前向きに生きる方法を見つけた人。
 フィリピンハーフとして生きてきた彼らの姿は、真剣に外国人との共生を考えなければならないということを、日本社会に突き付ける。
 僕たち家族のドタバタ劇を楽しんでもらいながら、日本に住む外国人の「日常」を知るきっかけとなってくれれば、これほど嬉しいことはない。


 (なかしま・こうしょう 文筆家)

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