書評

2023年8月号掲載

『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』監訳者特別書評

「チーム」「生存競争」「転換点」――まさか発売されるとは思わなかったBTSメンバーのインタビュー集

桑畑優香

デビュー10周年、かつてないほど率直に語られたBTS初のオフィシャル・ブック。
総頁512頁、重量1・2キロの永久保存版、ついに発売!

対象書籍名:『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』
対象著者:カン・ミョンソク、BTS/桑畑優香監訳
対象書籍ISBN:978-4-10-507341-1

「BTS関係の大型企画が出るので翻訳を」とオファーをいただいてすぐ頭に浮かんだのは、「BTSを生んだHYBEのバン・シヒョク議長が、ついにご自身のことを書かれたのかな」ということでした。まさかそれがBTSの本で、メンバーご本人たちの言葉が満載なのだとは予想もしなかったのです。
 JINさんが兵役に就き、ほかのメンバーたちはそれぞれのソロ活動を一生懸命にしていたタイミングでしたから、よけいにそう感じたのでしょう。じつは7人で、BTSのファンダム・ARMYの誕生日である「ARMY DAY」に向けてこの本を準備してくれていることを知り、感激の思いでいっぱいになりました。
 もちろん、私はほかの全ての仕事をいったんストップして、『BEYOND THE STORY』日本語版の翻訳を引き受けました。ただ分かったのは、韓国語で500ページもあること、韓国オリジナル版と同じタイミングで日本の読者に届けるために、超特急での翻訳が必要だということでした。
 本書ならではの魅力を3つ、ご紹介していきましょう。その1つめは、メンバーの言葉によって、点と点で見ていたものが線でつながるところにあります。
 ソウル育ちではない7人がそれぞれHYBEの前身Big Hit Entertainmentを目指し、宿舎に入り、ひとつのチームになるまでを描く最初の章。熱烈なファンほど知っているエピソードもありますが、それらの出来事がメンバーそれぞれの口から語られ、川の流れのように物語がまとまります。その凝縮された物語を読んでいくワクワク感は、きっとみなさん初めての体験になるはずです。
 もちろん、お互いが初めて出会った瞬間についても語られています。J-HOPEさんは、ひとりでソウルにやって来たJIMINさんを迎えに行ったときのことをこう振り返りました。

――「ジミンさん?」「パク・ジミンさん?」って。挨拶をして、宿舎まで一緒に歩きながら話しました。ダンスについて尋ねたら「はい、ポッピンをやっていました」と言うので、「わー、僕もストリートダンスをやっていました」と。「お互い助け合えるといいね」。こんな会話をしたんです。すごくぎこちない雰囲気で(笑)。【CHAPTER 1】

 文字から、彼らのぎこちない様子と、2人の表情が目に浮かんできます。そして思わずくすっとしてしまいます。元の文章がうまいのです。構成もよく、メンバーの個性が表れる言葉を引き出している。メンバーご本人たちをよく知っている方が愛情と熱量をもって書いているな、と考えていたら、インタビュアーはWeverse Magazineのカン・ミョンソクさんだと後から分かって、なるほどと納得の思いでした。
 J-HOPEさんは当時の宿舎の様子をこう表現していて、印象深かったです。

――ラップの巣窟でした、ラップの巣窟。
――いやもう、宿舎に帰って目が合うと、みんないきなりフリースタイルでラップをするんです。【CHAPTER 1】

 ファンの皆さんなら、彼らがデビュー後にも長い苦労の道のりを歩いてきたことをご存知でしょう。熾烈な「生存競争」は、BTSのキーワードであり、本書の読みどころでもあります。彼らはステージのために日々練習を重ね、ステージ上での圧倒的なパフォーマンスで勝ちぬいてきました。
 ぜひ読んで欲しいのが2014年、香港で開催されたMAMAのお話です。JIMINさんが白いタンクトップを破り脱いでみせたあのステージ、と言うほうが早いかもしれませんね。彼らがこの頃、何と闘っていたか。この前日まで、何が起きていたか。
 MAMAのステージは「ネクスト ジェネレーション オブ K-POP」という名のコラボレーションステージで、ダンスやラップを交互に披露した後、各チームが自分たちの曲のパフォーマンスをする形式でした。そしてBTSは当時勢いを見せていたBlock Bと対決する構図で進められました。RMさんは心境をこう語っています。

――僕たちはなんとかして……這いあがろうとしていました。
――皆同じ考えでした。年上メンバーが怒れば自分も怒り、年下メンバーが憤れば自分も憤る。僕たちは一心同体だったので、思いも以心伝心だったのでしょう。【CHAPTER 2】

 JIMINさんもステージに上がる前の感情をこう語ります。

――絶対に勝たなければなりませんでした。すべての部分で後れをとりたくなかったんです。【CHAPTER 2】

 このようにメンバーが語る当時の心境を読み、すぐそばに示してある二次元コードから飛んでそのステージ映像を見直すと、見え方が違ってくるのが分かります。
 理解の仕方がまったく違ってくる。少なくとも私はそうでした。
 本書にはストーリーとリンクした動画に飛ぶ二次元コードが約340も掲載されており、これが本書ならではの魅力の2つめです。
 そうしてまた本文に戻ると、7人で〈Danger〉を披露したステージを締めくくる、Vさんの言葉に目が止まりました。

――MAMAでこの曲の魅力を200%引き出せたと思います。【CHAPTER 2】

 2014年当時のK-POP雑誌を自宅で引っ張り出してみると、表紙を飾っていたアイドルの中で現在も残っているグループは、ごくわずかです。BTSはチャンスを掴む準備を重ね続け、RMさんの言葉を借りるとステージで見せた一瞬一瞬すべてが「闘争」【CHAPTER 2】だったのです。だからこそ彼らはとにかくステージで強い。
 そしてその強さは、着ていたスーツの上着を一瞬にしてつなげて世界を驚かせた、去年のグラミー賞授賞式のパフォーマンスにまで繋がっています。

 アルバムが売れ、ファンダム・ARMYが世界各地に増えてからも彼らの挑戦は続くのですが、彼らが試練を受け入れ、成長を遂げる転換点が正直に明かされていることも、この本ならではと言えるでしょう。
 JINさんは「人生最高の曲」を〈Burning Up(FIRE)〉だと語っています。

――僕の人生最高の曲は〈Burning Up(FIRE)〉です。その前は自信がなかったけれど、〈Burning Up(FIRE)〉のパフォーマンスで見せた投げキスをARMYたちに会ったときにしたら、それをステージじゃなくて日常生活のなかでやったからか、とても喜んでくださったんです。だからARMYたちが喜ぶ行動を探してみたらいろいろ出てきて、それですごく自信を取り戻しました。そのうちにそれが僕のキャラクターになって、少し厚かましいようなジェスチャーをすることも増えてきたように思います(笑)。【CHAPTER 3】

 Vさんはプレッシャーに襲われながら完成させたソロ曲〈Stigma〉のステージが、アーティストとして自分らしさを出すきっかけになったと明かします。

――曲をじっくりと聴いて準備しました。自分の実力不足を感じて、もっと一生懸命に頑張らないといけないと思ったのです。特にステージでライブをするとき、曲をうまく生かすことができるように。
――ステージに対する欲望はアーティストにはもっとも重要な単語です。僕はその欲望に突き動かされて音楽をやってるんです。【CHAPTER 4】

 また、JUNG KOOKさんは、ソロ曲〈Begin〉に関連して、メンバーとの関係を振り返りながら、自分が成長できた理由をこう話しました。

――メンバーたちが、僕に何かを具体的に教えてくれたわけではありません。でも、僕の話し方や普段の行動に、みんなが垣間見えることがあるんです。みんなが音楽をする姿、ステージでのささいなジェスチャーや、インタビューを受けるときの姿を見ながら、僕も何かを得て学んだのです。SUGAさんの考え方、RMさんの言葉、JIMINさんの行動、Vさんの個性的な姿、JINさんの明るさ、J-HOPEさんの前向きな心……。こういうことがひとつひとつ、僕にすっと入ってきたんです。【CHAPTER 4】

 そしてSUGAさんが自分の歌の歌詞について明かした言葉を知って、今回のソロ世界ツアーを見ていた私には、こみ上げるものがありました。

――僕の曲の半分以上は、夢と希望を歌っていると思います。そういう話は、音楽でもなければ、誰もしてくれないでしょう。でもそれらの音楽は、今思えば、僕自身に対して言い聞かせていることなんです。【CHAPTER 3】

 なぜBTSは世界を夢中にさせるのか。ファンはもちろん、多くの音楽評論家たちがその謎について議論してきましたが、その魅力の源はメンバー7人です。未公開ポートレートから最後の512ページに至るまで、そのことを体感できることこそが、本書のもっとも大きな魅力ではないかと思います。


 (くわはた・ゆか 韓国語翻訳者)

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